2章12話「遠慮してんだね」
私はそれからも、涼介くんとのデートを続けた。
はっきり言って、楽しさはわからない。どんな場所で何をしたって、ケンちゃんと過ごす防波堤には敵わなかった。
涼介くんはやめた方が良いって渡辺さんたちが言ってたけど、そんなの私こそやめた方が良いに決まってる。
大好きな友達同士をくっつけるっていう目的で、好きでもない人と付き合っちゃってるんだから。利用してると言われても、否定できない。
「こんなに雨が続くと、デートプランも尽きるなぁ」
カラオケボックスの中で、涼介くんがしゅんとする。こんなに色々と考えてくれてる人が、彼女たちの言うような悪い人だとは思えなかった。
「楽しくないっしょ。ごめん、宇美」
「ううん、涼介くんは悪くないから」
雨で冷えた体にあったかいココアが染み渡る。ここのホットココアはマシュマロが浮いていて、ちょっとしたおやつみたい。
「あのさ、宇美。いっこ聞いてほしいんだけど」
「うん。何?」
「憲一くん、宇美のこと待ってるってさ」
私は涼介くんの言葉に驚いて、マシュマロを一気に吸い込んでしまった。ケホケホと咳き込む私の背中を涼介くんがさすってくれる。
「大丈夫!?」
「う、うん……ありがと」
とりあえず、カップはテーブルに置いておこう。
「それで、ケンちゃんがなんて?」
「雨の中、ずっと防波堤のとこにいたらしい」
「涼介くんが見たの?」
「いや、俺の兄ちゃん。こないだ実家に帰って来てて」
「そっか……そっか、そうだったんだ……」
なんだか私は急に安心した。自分でもよくわからない気持ちで、混乱で涙が出てくる。喜んじゃいけないはずなのに、嬉しいって少しでも思った自分が嫌だった。
「……やっぱ、憲一くんに会いたい?」
私の涙を拭きながら、切なそうに涼介くんが聞いてくる。私は、会いたいって言えなかった。だってなっちゃんは、まだ何もしてないはずだから。
「ごめん」
私には謝ることしかできない。こんなに優しい涼介くんを傷つけて、なっちゃんを心から応援することもできなくて。できることなら、このまま消えてしまいたかった。
「俺以外で、憲一くんに会えない事情あったりする?」
「……友達が、ケンちゃんのこと好きだから」
「そっか。遠慮してんだね」
「違うの、その子がずっと遠慮してた。私に」
「⋯⋯だから俺と付き合ってくれた感じ?」
「……うん、ごめんなさい」
「いや、全然! 謝ることじゃねぇべや!」
涼介くんが、いつもの調子でなぐさめてくれる。
「俺のこと好きじゃないのは、わかってたしさ」
「うん……」
「宇美、いつもなんか足りないって顔してたし」
「ごめん……」
「それでもずっと、一緒にいてくれたっしょ」
嬉しかったよって、涼介くんは笑った。
「罪悪感とか、そーゆーのナシね」
「ほんとに優しいよね。涼介くんは」
「優しくないって。今も宇美をだまくらかしてる」
「だったら、痛み分けだから……嬉しいかも」
チラッと涼介くんの顔を見ると、今までと違った笑顔が浮かべられていた。爽やかじゃない、くしゃくしゃの笑顔だ。
「なんだそれ。普通、怒るところだべや!」
この笑顔だけは、作り物じゃないんだろうな。
帰り道、いつものように涼介くんが送ってくれる。
「宇美は、なんも聞かないんだな」
「うん。今は一緒に、友達を応援してくれたら良いよ」
「わかった。……したっけ、また明日」
家の通りに入る前の曲がり角。いつものところでバイバイして、ふと空を見上げた。あれ、雨が止んでる。
いつぶりだろう、雲が晴れるのは。
久しぶりに見た夜の空は、星が綺麗に見えた。苦しくなっちゃうくらいに。




