異世界での出会い 中編
銀色の鎧を身につけた青年は、しばらくミサキを見つめていた。その青い瞳には明らかな警戒が浮かんでいる。
「───」
また、何かを言った。
「……やっぱり分からない」
ミサキは困ったように首を振る。青年は眉を寄せた。当然だ。彼女の言葉も、自分の言葉も、お互いに理解できていない。
それでも青年は諦めず、なんとかミサキと意思疎通をはかろうとゆっくりと自分を指差した。青年のそばに同じく鎧を着た騎士が近づく。兜を被っているため表情は分からなかった。
「───」
「……え?」
首を傾げる。
青年はもう一度自分を指差し、今度はゆっくりと口にした。
「オルフェード」
「……オル、フェード?」
多少の聞きづらさはあったが、今度はなんとか聞き取れた。ミサキがその音を真似すると、青年の瞳がほんのわずかに見開かれる。
オルフェード。とは、名前…なのだろうか。
「(オルフェード……)」
ミサキは胸の中でその名前を繰り返し、自分も名前を伝えようと胸に手を当てた。
「私は、ミサキ」
「…………?」
「ミサキ。わかるかな?…ミ・サ・キ」
「……………」
青年はしばらく考えるような顔を浮かべる。
「……ミサキ?」
そして、少し発音が違いながらもミサキの名を口にした。
「! そう!」
初めて言葉が通じ、ミサキの顔には笑みが浮かぶ。しかし、青年…オルフェードの表情はまだ硬かった。
名前が分かったところで、彼女が何者なのかは何も分からない。
「───」
オルフェードは仲間の騎士たちへ何かを告げた。数人の騎士がミサキを取り囲む。
「え……?」
ミサキは思わず後ずさった。
周囲は剣を持った見たことのない鎧を着た騎士で埋め尽くされる。そして知らない言葉で色々言われる。
さっきまで普通の学生だった自分には、あまりにも現実離れした光景だった。
「待って……。私、何もしてないから……」
声が震える。
もちろん誰にも伝わらない。
オルフェードはミサキの怯えた様子を見て、仲間たちに何かを言った。すると騎士たちは顔を見合わせて少し距離を取る。
オルフェードは剣から手を離し、そして再び自分の胸元を指差した。
「え?」
きょとんとするミサキへ、続いて周囲の森を指差す。最後に、遠くに見える焚き火を指差した。
「…………?」
ミサキは首を傾げる。
オルフェードはもう一度、同じ動作をした。
「えと、一緒に来いって言ってるのかな?」
確証はない。だが。
「……ここに一人で置き去りよりは、いいのかな」
ミサキは不安そうに焚き火を見る。そして、小さく頷いた。
言葉は通じなくても、動作なら伝わる。ミサキの返答にオルフェードも小さく頷き、そして彼は彼女を連れて歩き出した。
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焚き火の周囲には数人の騎士が座っていた。ミサキが近づくと、皆が一斉にこちらを見る。視線が痛い。
「……凄い見てる」
ミサキはぽつりと呟く。
オルフェードは彼女を焚き火の近くに座らせると、少し離れた場所に腰を下ろした。
そして仲間の騎士から渡されたパンと水をミサキの前へ置く。ミサキは首を傾げた。
「……これ、食べていいの?」
聞くと、オルフェードは頷く。
「ありがとう……」
ミサキはパンを手に取る。
空腹だったこともあり、夢中で食べ始めた。その様子を、オルフェードは黙って見つめる。
彼女は奇妙だった。服装も。持ち物も。すべてが見たことがなく、言葉も聞いたことのない言語だ。
少なくとも今のところ危険な人物には見えないが、それでも怪しいのは変わらない。警戒を解くことはできなかった。
「…………」
じっと、オルフェードはミサキのバッグを見る。
彼女が大事そうに抱えていたバッグ。中には何が入っているのだろうか。もしかしたら、武器を隠し持っているのかもしれない。
そう思ったら、確認せざるを得ない。
「──?」
「え?」
オルフェードは口を開き、バッグを指差した。水を飲んでいたミサキはその動作に首を傾げる。
オルフェードはもう一度バッグを指差した。
「───」
「これ?」
ミサキがバッグを持ち上げる。
オルフェードは頷いた。
「……これが気になるの?」
警戒されると思ったが、意外にもミサキはバッグを簡単に開けた。
オルフェードは近づき、彼女の背後からバッグの中身を見る。入っていたのは、ノート。筆箱。教科書。財布。そしてスマートフォン。
「───」
指を差す。
差したのはスマートフォン。
「……これ?」
ミサキがスマートフォンを取り出す。その瞬間、オルフェードの手が剣の柄へ伸びた。
「えっ!?」
ミサキは驚いてスマートフォンを落としそうになる。オルフェードは警戒しながら、それを見つめていた。
見たことのない道具。ミサキが触れると淡く光った。
「だ、大丈夫だよ!危ないものじゃないから!」
慌てて言うが、もちろん通じない。
オルフェードはしばらくスマートフォンを見つめていたが、やがて剣から手を離した。それでも視線だけは離さない。
ミサキはスマートフォンを胸元へ抱えた。
「……スマホがそんなに珍しいのかな」
その言葉に返事はない。
そして、森の夜は深くなっていく。
ミサキは焚き火の向こうにいる銀髪の青年を見つめ、オルフェードもまた彼女を見ている。
まだ互いのことを何も知らないが、それでも、この夜を境に二人の運命は少しずつ重なり始めていた。




