異世界での出会い 後編
翌朝。
ミサキは騎士たちとともに森を出ることになった。
森を抜けるまで、半日近く。
ミサキは何度も足を止めそうになったが、なんとか先を歩く騎士たちに食らいついていく。
慣れない道。慣れない景色。
そして、何よりも分からないことだらけの状況。
「…………」
途中、ミサキは何度かオルフェードの背中を見た。
彼の格好。銀色の鎧。濃紺のマント。腰に下げた剣。歩き方までもが映画に出てくる騎士の姿そのものだった。
「……集団コスプレをしてるっていう風には見えないよね……」
ぽつりと呟く。
もし集団でコスプレをしてるだけっていうのなら、設定を守りすぎではないか。
言葉が通じない。スマートフォンを見て驚く。
心まで染まるのは、そのキャラクターをリスペクトしているってことで良いことだと思う。だけどこれはやりすぎに近い。
「……だったら、あれは本物の騎士?……ってことは、ここは中世の時代なのかな?……でも、それなら多少言葉がわかってもいいようなものだけど」
ミサキは考える。
そこで、彼女はふと、ある仮説に行き着いた。
「……はは。まさか」
思った瞬間、馬鹿げていると思った。
けれど、ここが日本ではないことだけは確かで、それはもう疑いようがなかった。
+
森を抜けた瞬間、ミサキは言葉を失った。目の前には広大な草原が広がる。
遠くには巨大な城壁。その向こうには白い塔や建物が並び、さらにその奥には空へ伸びる巨大な城が見えた。
「……うわぁ」
思わず声が漏れる。
まるで、中世の王国をそのまの現実にしたような景色だった。
「………」
ミサキは自分の頬をつねる。
痛い。やはり夢ではない。
「───」
オルフェードが振り返る。
「……ごめん。今行く」
早く来い。と言われているようだった。
言葉は通じないながらもミサキは謝り、彼の後を追う。
王都へ入ると、更に驚かされた。
道を行き交う人々。馬車。露店。そして、時折見かける不思議な光。
「……………」
ミサキの脳裏に浮かんだ仮説が現実味を帯びてきた。
すると、人々の視線がミサキへと集まる。見慣れない服。見慣れない髪。騎士に囲まれているということ。当然、目立つ。
「……(そんな見ないでほしい)」
ミサキは少し恥ずかしそうに俯いた。
やがて、巨大な建物の前で騎士たちは足を止める。
「わぁ…」
ミサキは建物を見上げた。
騎士たちが次々と建物の中へ入っていき、オルフェードもそれに続く。
ハッとして、ミサキもその後についていった。
+
連れてこられたのは、大きな広間だった。映画で何度かこの景色を見たことがある。ここは玉座の間と呼ばれているところだ。ここでもその呼び名なのかは分からないが。
「───」
赤い絨毯の上を歩き、広間の奥へ。そこには長いローブを身につけた女性がいた。立ち止まり、騎士たちはミサキとオルフェードを残して離れていく。
「────」
オルフェードが前に出て、ローブの女性と言葉を交わす。
そして女性はミサキを見ると、驚いたように目を見開いた。
「────」
ミサキには彼らが何を話したのか分からない。
その後、女性はミサキに近づき、手をかざす。淡い光が彼女の身体を包んだ。
「……え?」
ミサキは驚いて後ずさる。
光はすぐに消え、女性はオルフェードに何かを告げた。すると騎士たちの表情が変わり、オルフェードも眉をひそめる。
驚き。困惑。空気が少しだけピリついたのはミサキにもわかった。
「……何?」
ミサキは不安そうに彼らを見る。
だが、誰も答えてくれない。
答えてくれたとしてもミサキには分からない。
「……………」
女性は紙に何かを書き始めた。
そして、そこに一つの言葉を書く。ミサキには、その文字の意味すら分からなかった。
しかし、周囲にいる彼女以外の人間たちはそれだけで十分だった。
「────」
目の前にいる女性が、この世界の人間ではない。
それが確認されたのだから。
+
その日の夜。
ミサキは騎士団本部の一室を借りることになった。
窓の外には、見知らぬ王都の景色が広がる。石造りの街。街を照らす明かり。遠くに見える巨大な城。
ミサキは窓辺に立ったまま、スマートフォンを握りしめた。
「……お母さん」
画面には、いつもの待ち受け画面。
操作はするが電話はできない。メッセージも送れない。電波がなければ何もできない。
「……どうして、こんなことに」
目に涙が浮かぶ。
「帰りたいよ……っ」
ミサキはスマートフォンを胸に抱きしめた。
一方、部屋の外では、オルフェードが一人、廊下に立っていた。
少しだけ開いた扉の先。窓辺に立つミサキを見つめる。
「…………」
森で話しかけてきた、謎の女。
聞いたことのない言葉を発し、見たことのない道具を持つ。
そして、広間で待っていた女…魔法士が告げた「異界」という言葉。
「…………」
オルフェードは眉を寄せる。
彼女はいったい何者なのか。
なぜ森にいたのか。何の目的があってこの国へ来たのか。
何一つ分からないが、魔法士の言葉が真実ならば彼女をこのまま放置することはできない。騎士として、この世界の人間として、それだけは分かっていた。
「…………」
オルフェードは静かに歩き出す。
このとき、二人はまだ知らなかった。
ミサキがこの世界へ来たことで、数百年にわたって眠り続けていた災厄を目覚めさせることになるなど。
そして。
互いにまだ何も知らない二人が、やがてこの世界の運命を左右するほど深く関わっていくことになるなど。
──今はまだ、誰も知らなかった。




