聖なる夜の終わり
部屋を支配するのは、重く、甘い、残業の残り香。
魔道ランプが放つ微かな光の下で、エルフレイデ様は俺の腕の中に、これ以上ないほどだらしなく身を預けていた。
あれほど誇り高く、俺をゴミや雑巾と呼んでいた筆頭聖女の面影は、今やどこにもない。汗に濡れた金髪が頬に張り付き、その碧眼はとろりと潤んで、俺の顔をうっとりと見つめている。
俺は彼女の、なだらかな曲線を描く背中をゆっくりとなぞった。
指先が触れるたびに、彼女の白い肌が小さく震える。
霊薬の効果と、先ほどまでの激しい仕事の余韻が、彼女の神経をまだ昂ぶらせているのだ。
「満足しましたか、聖女様」
俺の声に、エルフレイデ様は顔を赤く染め、俺の胸板に額を押し当てた。
「最低よ、カイル…あんな、あんな恥ずかしい声を…私、もう…神殿の誰の目も、見られないわ…」
「はは、今さら何を言ってるんです。あれだけ何度も『ヒール』を掛けて『壊して』って願ったのは、どこの聖女様でしたっけ?」
「っ!…それは…貴方が【ヒール】で治せば、何度も出来るって…だから!」
彼女は恨めしそうに俺を睨んだが、その瞳はヒールを掛ける為にまた俺の下半身に。
聖女様、まだ仕事する気なのか?
俺はわざとらしく、部屋の片隅に置かれた大きな時計に視線をやる。
「さて。もうすぐ夜が明けますよ。聖女様、そんなに乱れてていいんですか?朝には神殿の広場で、民衆に慈愛の祈りを捧げる仕事があるはず」
俺の言葉に、彼女の肩がビクンと跳ねる。
そう。彼女は国の象徴。朝になれば、汚れ一つない純白の法衣に身を包み、人々の苦しみを癒やす光の象徴に戻らなければならない。
「そろそろですよ。最後の『ヒール』を使って、全てをなかったことにする時間です。処女の体に戻れば、誰もあなたが俺の下で泣いていたなんて、気づきもしない」
俺がそう言って、彼女の腰から手を離そうとした、その時だった。
「…やだっ!」
エルフレイデ様が、宝物を守る子供のような必死さで、俺の体に腕を回してきた。
その指先が、俺の背中に強く食い込む。
「まだ…まだ嫌よ…消したくない…この熱も…あんたが私の中に残した、この…証も…」
「聖女様。それじゃあ、仕事に差し障るでしょう?体力が持たないですよ」
「少しくらい…いいじゃない…っ…あぁん、まだ女の子でいさせて…もう少し…もう少しだけ、貴方の胸の中で…休ませて♡」
彼女の声は、切実な甘えに満ちていた。
民衆を癒やす力を持っていても、自分を癒やしてくれるのはこの狭い部屋にいる、たった一人のサンドバッグだけなのだ。
俺は溜息をつきながらも、再び彼女の細い腰を抱き寄せる。
その密着した肌から、彼女の切ないほどの孤独と、俺への異常な執着が伝わってきて、前世のブラック企業でさえ経験したことのないような、奇妙な責任感が俺の胸を焼いた。
「いいですよ。ただし、定時を過ぎても、俺を離さないのは、聖女様の方ですからね…たっぷり『残業代』、請求させてもらいますよ?」
「…ええ…いいわ…私の、全部…あげるから」
彼女は俺の首筋に顔を埋め、深く、深く息を吸い込んだ。
その潤んだ瞳には、信仰よりも深い、どす黒いまでの愛が宿っていた。
朝の光が結界を透かして入り込むその瞬間まで、聖女様は処女に戻ることを拒み続け、俺の腕の中で、ただ一人の堕落した女として震え続けていた。
【エクストラヒール】
「いってらっしゃい、お仕事頑張ってくださいね、エルフレイデ様」




