新婚デートと、破壊によるイノベーション
【エクストラヒール】
【エクストラヒール】
【エクストラヒール】
「ふぅ、聖女様たちは何とかなりそうだけど…このままでは、またすぐに穢れが溜まりそうだよな。根本的に『ゴミ箱』のシステムを何とかしないと、この国の業務サイクルは破綻する…」
「カイル♡新婚旅行(出張)といえば、やっぱり観光よね♡」
あごに手を当てて考え込む俺の腕に、エルフレイデ様が柔らかく抱きついてきた。
「ちょっと、エルフレイデ様。まだ闇の神殿の業務改善レポートの作成が…」
「もう!今は定時外、完全なオフでしょ!『様』はいらないって、あれほど言ったじゃない!」
頬をぷくーっと膨らませて怒る彼女に、俺はハッとして苦笑いを浮かべた。
どうにも前世からの悲しき習性で、トラブル現場にいると二十四時間労働モードになってしまう。
「エルフレイデ。ごめん、つい仕事モードが抜けなくて」
「うふふ、よろしい♡さあ、デートに行きましょう!」
嬉しそうに微笑むエルフレイデに引っ張られ、俺たちは闇の国の賑やかな中央通りへと連れ出された。
やっていることは甘々な新婚デート。
だが、俺の社畜脳は、無意識のうちに現地の市場調査を開始していた。
通りを歩いていると、治安の悪い路地裏から「ガシャーン!」「この野郎!」と激しい怒号が聞こえてきた。
見れば、住人たちが皿やツボを地面に叩きつけながら大喧嘩をしている。
民衆もまた、この国の重苦しい空気にストレスを爆発させているのだ。
さらに、エルフレイデに連れられて入った怪しいお土産屋では、妙な魔道具が目に留まった。
それは、叩くと「ギニャー!」と変な悲鳴をあげる『呪いの人形』。
「ふふ、変な人形ね。カイル、これ叩くとちょっとスッキリするわよ?」
エルフレイデが楽しそうにポカポカと人形を叩いている姿を見た瞬間!
俺の脳内で、前世の記憶と今ある課題がカチリと火花を散らして繋がった。
待てよ。
前世の現代日本でも流行っていたな。
お金を払って、皿や古い家電をバットやバールで合法的にブチ壊せるストレス発散専門店『ブレイク・ルーム(破壊部屋)』が!
これだ!これならすべてが解決する!
「カイル?急に難しい顔をしてどうしたの?」
「エルフレイデ、デートの途中ですが、至急モルガナ様のところへ戻ります!素晴らしいビジネスモデル(新システム)を思いつきました!」
「ええっ!?もう、せっかくのデートなのに~!」
不満たらたらのエルフレイデを連れ、俺は光の速さで闇の神殿へと引き返した。
「つまり、ゴミ箱を『人間(奴隷)』にするからコストがかかるし、人道的な問題も発生するのです。ならば『物を合法的にブチ壊してストレス(穢れ)を吸わせる魔道具』を作ればいい!」
神殿の会議室。
俺のプレゼンを聞いたモルガナ様は、目を丸くしていた。
「物を…壊す?人間の男じゃなくて?そんなね聞いた事が無いわ!」
「はい。闇の国には、壊れても自己再生する『不純な魔力結晶』が豊富にあります。これを利用して、叩くと良い音がして割れる魔導陶器や、どれだけ殴っても一晩で直る魔導サンドバッグ人形を開発するのです。聖女の皆さんが、日々のストレスを魔法や武器でこれらに全力でぶつけ、物理的に破壊する仕様です!」
俺の提案の元、神殿の魔道具職人を総動員して突貫で作らせた試作品。
それを、まだ少しイライラが残っていた現地の聖女たちに試してもらうことにした。
頑丈な防音室の中に用意された、魔導陶器や鉄クズ。
聖女の一人が、大剣を構えて思いっきりそれを叩き斬った。
「うりゃあああああ!!」
ガシャアアアアアン♪
派手な破壊音と共に、魔導陶器が粉々に飛び散る。
その瞬間、聖女の顔がパッと輝いた。
「なにこれっ!人間のゴミ箱をチマチマ殴るより、全力で物をブチ壊す方が百倍スッキリするわ!!」
「私もやらせて!氷結魔法でこの鉄クズを粉砕してやるわーっ!」
「日頃のクソ司祭たちの顔を思い浮かべて…死ねぇいっ!」
ガシャーン!
バキバキッ!
ドカン!
部屋の中から響く、凄まじい破壊音と聖女たちの歓声。
彼女たちの目は、もはやストレスによる充血ではなく、完全に娯楽を楽しむ生き生きとしたものに変わっていた。
さらに、飛び散った破片が穢れを吸い、闇の魔力結晶として自動で回収・再利用されるエコシステムまで構築できた。
「素晴らしいわ、カイル!これなら聖女たちのメンタルケアだけでなく、副産物の魔力結晶で新しい財源まで確保できるわ!」
モルガナが興奮気味に俺の手を握りしめる。
「人間を消耗品にしない、健全なストレス解消型アミューズメント施設『神殿ブレイク・ルーム』の完成です。これで闇の神殿の経営は、完全にホワイト化されましたね」
俺が満足げな笑顔を向けると、背後から純白のプレッシャーが立ち上った。
「カイル…システムが完成したのは素晴らしいけれど。他国の女性の前で、そんなにキリッとプロの顔をしないでくれるかしら?今夜の『業務外』、覚悟しておきなさいね?」
ビジネススーツの襟元を少し緩め、妖艶かつ絶対的な独占欲の目を向けてくる大聖女社長。
どうやら、闇の国のブラック環境を打破した俺を待っているのは、正妻による激しすぎる時間外労働(ご褒美)のようだった。




