モルガナ様の社内規定違反
「…あ、あぁ…カイル。でも、私より先に、あの子たち(聖女たち)の浄化をお願いするわ。私はまだ、ギリギリ大丈夫だから…」
大丈夫なわけがない。
目の下のクマはもはや芸術の域に達しているし、呼吸のたびにどす黒い魔力の火花が散っている。
だが、そこで「大丈夫じゃないだろ!」などとツッコミを入れるのは、プロのコンサルタントとして三流だ。
流石は闇の国を一身に背負う筆頭聖女、部下(現場の聖女)への気遣いと責任感は完璧と言わざるを得ない。
「承知いたしました。モルガナ様のその素晴らしいリーダーシップ(福利厚生精神)に敬意を表し、一般社員の皆様から順に処理いたします」
場所を神殿の広間へと移し、俺は整列した現地の聖女たちと向き合った。
皆、過労とストレスで限界を迎え、目が完全に据わっている。
「さあ、来てください。皆さんの心の中の汚れ、不満、すべて俺が受け止め…ふぐぅ!?ぐはぁっ!!」
汚れをハグで優しく吸引しようと両手を広げた瞬間、最前列の聖女から電光石火のボディーブローがみぞおちに突き刺さった。
「くっ…そ、そうだった…これが、この現場の『仕事(仕様)』!久しぶりすぎて、完全に忘れてた!」
光の国での新婚生活(ホワイト環境)に甘やかされていた俺の身体に、強烈な現場の洗礼が刻まれる。
だが、元社畜の身体はすぐに感覚を取り戻した。
「いいパンチです!次の方、どうぞ!」
と、次々に放たれるビンタ、蹴り、罵詈雑言という名のストレス(汚れ)を、俺は懐かしい快感とともに次々と受注(処理)していった。
数時間後。
広間には、すっかり毒気が抜けて。
「…え?私、なんであんなにイライラしてたのかしら?」
「世界が輝いて見えるわ…」
と、スッキリした顔で座り込む聖女たちの姿があった。
「ふぅ…これで、最後はモルガナ様ですね。その前に、どなたか『ヒール』をいただけますか?流石に肋骨が数本イキかけています」
俺がそう言うと、ボロボロのモルガナ様が神聖な闇の魔力を編み上げた。
【ヒール】
じわ、と身体の芯から痛みが消え、細胞が超高速で修復されていく。
「…素晴らしいヒールですね。エルフレイデ様の純白の光にも、決して負けず劣らずの回復力です」
「あら、嬉しいわ。私の方が、締め付けられるような『気持ちいいヒール』でしょ?」
モルガナ様が艶っぽく微笑む。
その瞬間、背後からピキッと空気が凍りつく音がした。
ビジネススーツ姿のエルフレイデ様が、般若のような笑顔でこちらを睨んでいる。
後で個別の面談(お説教)が確定した瞬間だった。
「さあ、モルガナ様。お待たせいたしました。来てください!」
俺が両手を広げると、モルガナ様は待てを解除された肉食獣のように、俺の胸へと飛び込んできた。
「あ、あぁ…カイルぅ♡ちゅっ、ちゅっ、ぶちゅ~♡」
「「せ、聖女様!?なんてハシタナイ…けれどなんて羨ましいっ!」」
浄化されたばかりの現地の聖女たちが、その濃厚すぎるデトックスに顔を赤くして叫ぶ。
しかし、モルガナ様は俺の首に腕を絡ませたまま、部下たちを振り返って妖しく微笑んだ。
「貴女たちも、暴力で発散するなんて効率の悪いことしていないで、カイルに身も心も委ねてみたら?」
「「私たちも…そんな、カイル様に抱きついて…そんなこと…でも、私たちは神に仕える身、純潔の義務が」」
戸惑う聖女たちに、モルガナ様は事も無げに言い放った。
「大丈夫よ♡もしアレが壊れたら、私が『エクストラヒール』で何度でも修復してあげるから♡」
「「聖女様!もしかして既に純潔を…素敵です、一生ついていきます♡」」
神聖な回復魔法を処女膜のリサイクルに使うという、前代未聞のパワープレイ。
そのブッ飛んだ福利厚生に、闇の聖女たちは目を輝かせて歓声をあげる。
その時、限界突破した大聖女の絶叫が神殿に響き渡った。
「ちょっとおぉぉぉモルガナ!!何勝手に私の旦那様で職権乱用して、さらに不純異性交遊を推奨してるのよ!!カイルは私の、私の旦那様なのよ~っ!!」
スーツのジャケットを脱ぎ捨て、神々しい光の魔力を全開にしたエルフレイデ様が、モルガナ様を引き離そうと突撃してくる。
新婚旅行の出張先は、予想通り、公私の境界線と倫理観が完全に崩壊したハイパー・ブラック・ハーレム現場と化していた。




