第一部最終話。契約更新、永遠の専属ゴミ箱
「カイル!ビンタされなさい。これは、筆頭聖女としての絶対命令よ!」
いつもの威圧的な、けれどどこか甘く震える声が響く。俺は苦笑いしながら、されるがままに頬を差し出した。
「はいはい、聖女様。不備があったなら、いくらでも受け止めますよ」
「いくわよ!…チュッ♡」
振り上げられたはずの衝撃は、柔らかな温もりとなって俺の頬に触れた。
目を開けると、そこにはドSな暴君の面影など微塵もない、大好きという感情を隠しきれずに溢れさせている一人の少女の笑顔があった。
俺たちは今、歓喜に沸く街の中を歩いている。
隣で俺の腕をがっちりと組み、まるで宝物でも自慢するように頬を寄せてくるのは、国中の信仰を一心に集める大聖女エルフレイデだ。
そして、その先頭を行くのは、凛々しく旗を掲げる騎士ヒルダ。
だが、その白地の旗の中央に誇らしげに咲いている『赤い丸』は、紋章でも何でもない。
…昨夜、俺たちが愛の証として、そして彼女が『一人の女』になった証として汚してしまった、あのシーツだった。
純潔を脱ぎ捨て、純血を散らした大聖女。
それを神殿の旗として掲げるなど、本来なら前代未聞の不祥事だろう。
だが、昨夜のあの奇跡の光を目にした民衆は、それを『愛という名の新しい神話』として熱狂的に受け入れている。
「カイル、見て。みんなが私たちを祝福しているわ。もう、ゴミ箱なんて呼ばせない。貴方は今日から、私の生涯を支える『伴侶』なんだから」
「光栄ですね。でも、俺の仕事は変わりませんよ。貴女の悩みも、汚れも、愛も、一生かけて、全部俺が引き受けますから」
純白のドレスに身を包んだ彼女が、また幸せそうに目を細める。
背後では、フィオナが「これからは公私混同し放題ですわね」と不敵に笑い。
モルガナが「たまには私の国への出張も認めなさいよ」と野心を覗かせ。
見習い少女のルルが花びらを撒きながら涙を流している。
向かう先は、俺を閉じ込めていた監獄のある神殿。
だが、今日のそこは俺を縛り付ける場所ではなく、二人の門出を祝う祭壇だ。
最高にブラックで、最高にホワイトな職場。
俺の社畜人生は、ついに『結婚』という名の、辞職不可・定年なしの終身契約に到達した。
「さあ、行きましょうか。エルフレイデ」
「ええ、行きましょう…大好きよ、私のカイル」
タキシードの袖を引かれ、俺は新たな業務へと一歩を踏み出した。
隣で微笑む、世界で一番わがままで、世界で一番愛おしい聖女と共に…
【完結】




