極光の柱と無償の祈り
その夜、神殿から放たれたのは、歴史上かつて誰も目にしたことのないほどの、巨大な『光の柱』だった。
それは漆黒の夜の闇を垂直に貫き、遥か天上の雲さえも白銀に染め上げた。
普段、エルフレイデ様が公務で見せる冷徹な浄化の光とは、明らかに異なっていた。
その輝きはどこまでも澄み渡り、包み込まれるだけで凍えた心が解けるような、圧倒的なまでの温かさを備えていたのだ。
街の民衆は、異変を感じて窓を開け、あるいは通りへと飛び出した。
そして皆、言葉を失ってその光を見上げ、導かれるように膝をついた。
「ああ、なんて…なんて温かい光なんだ」
「聖女様が、お祈りを…私たちのために、あんなにも…」
誰からともなく祈りの言葉が漏れ、人々の頬を涙が伝う。
だが、その光の正体が、一人の消耗品(ゴミ箱)を救うために、筆頭聖女が自らの命を削り、理性をかなぐり捨てて捧げた私的な純愛の輝きであることなど、民衆は知る由もない。
光の中心で、エルフレイデ様は俺を抱きしめたまま、狂ったように魔力を注ぎ続けていた。
「…足りない、まだ足りないわ!私の魔力なんて、全部あげる!だからカイル、その真っ黒な穢れを、私の光で上書きさせて!」
彼女の肌からは、もはや制御不能となった神聖な魔力が火花となって散り、部屋全体が白光の世界と化している。
「聖女様、もうやめてください! これ以上は、貴女の命が!」
駆けつけたヒルダが叫ぶが、そのあまりの光の密度に、部屋に踏み込むことさえできない。
フィオナもまた、涙を浮かべながら、ただその光の柱を見つめることしかできなかった。
【アルティメットヒール】
「…ふ…ふっ…エルフレイデ、さま…」
俺の意識の底に、その温もりが届いた。
内側から心を焼き切ろうとしていた『穢れ』が、彼女の無謀なまでの愛によって、一滴、また一滴と中和されていく。
…ああ…こんなの、採算度外視だ。コストも、リスクも…全部無視して…
これほどまでに非合理で、これほどまでにホワイト(愛の込められた)な情熱を、俺は知らない。
社畜として効率だけを求めてきた俺の心に、彼女の涙の温度が直接流れ込んでくる。
「…バカね、カイル。仕事なんかじゃ、ないわよ…これは、私の…わがままなんだから…」
彼女の震える声と共に、光の柱はさらに輝きを増した。
この夜、カイルという一人の男を救うために放たれた光は、奇しくも国中の汚れを浄化し、人々を救う伝説の奇跡として、後世まで語り継がれることになる。
それは、ブラックな運命を書き換えるために、一人の聖女が捧げた、世界で一番贅沢な『特別残業』の記録だった。




