満杯のゴミ箱と聖女の祈り
最高のホワイト職場。そう思っていた。
二人の聖女と一人の女騎士、そして隣国の聖女までもが俺というゴミ箱に依存し、日々のストレスを納品していく。
だが、どれほど高性能なゴミ箱であっても、中身を捨てずに溜め込み続ければ、いつかは限界が来る。
始めは、些細な体調不良だった。
微熱が続き、指先がわずかに震える。だが俺は社畜の根性でそれを見逃した。
しかし、そのうちに俺の心は制御を失い、呼吸をすることさえ重苦しい『穢れ』の重圧に押し潰され始めていた。
「…あ、れ…?身体が、動かない…」
俺はベッドから起き上がることさえできず、ただ濁った瞳で天井を見つめていた。
「どうしたっていうのよ!私のボディーブローだって、どんな無茶な搾取だって、笑って受け入れてきたあんたが…何でこんなに冷たくなってるのよ!」
エルフレイデ様が俺の胸ぐらを掴んで揺さぶる。だが、今の俺には彼女の汚れを受け止める隙間すら残っていなかった。
「エルフレイデ、落ち着きなさい。私の国で見たことがあるわ。これは…もう、助からない…」
モルガナが、青ざめた顔で俺の容態を見つめる。
「器の限界よ。浄化しきれない穢れが蓄積して、内側から心が腐り落ちていく。ゴミ箱が消耗品と呼ばれるのはこの為よ。彼は死ぬのよ。残念だけど、これがゴミ箱の末路だわ…」
「なっ!出て行って!モルガナ、出て行って!!」
エルフレイデ様の絶叫が部屋に響く。
彼女は俺のそばに崩れ落ち、震える手で俺の頬を撫でた。
「あぁ、私のせいだわ…あんたが、全部…何でもない顔をして、優しく、全部受け止めてくれるから…つっ…もう、分からないのよ。私、どうすればいいか…」
彼女の瞳から、大粒の涙が溢れ出す。
「お願いだから、いつものようにビンタをさせてよ…ぐすっ…汚い不満をぶつけさせてよ…や…やだよぉ、カイル…いなくならないでよぉ…」
傲慢だった聖女の仮面が剥がれ落ち、そこにはただ、大切な人を失いたくないと泣き叫ぶ一人の少女がいた。
「エルフレイデ…さま…ビンタ…しますか?…受け止め…ます、よ?…ふふ、泣かないで、くださ…うぐっ…」
口の端から、どす黒い穢れが血のように混じって溢れる。
それでも俺は、職業病のように笑おうとした。
「カイル、カイル!…バカ、もういいわよ!私は聖女よ、筆頭聖女エルフレイデよ!何を弱気になってるの…っ!」
彼女は泣きながら、乱暴に自分の服を脱ぎ捨てた。
そして、冷たくなり始めた俺の身体を、その温かい肌で包み込むように抱き締める。
「カイル、眠って。私には、貴方みたいに何でも受け止める度量はないけれど…こうして裸で抱き締めることしか、できないけれど…朝まで、魔力が尽き果てるまで、貴方の壊れた心を『エクストラヒール』で繋ぎ止めてあげる…」
耳元で、彼女の熱い吐息と、震える告白が聞こえた。
「…大好きよ、カイル。だから、勝手に『仕事納め(死ぬ)』なんてさせないんだから…」
彼女の全魔力を込めた光が、俺の身体を包み込んでいく。
それは、汚れを押し付けるための力ではなく、ただ、俺という存在をこの世界に留めるための、純粋な祈りだった。




