闇の聖女のヘッドハンティングと、揺るがない愛社精神
ルル(見習い少女)への特別手当(接待)を終え、ようやく平穏なホワイト業務に戻れるかと思った矢先。
監獄の結界を強引にこじ開けて、真っ黒なドレスを纏った美女が乱入してきた。
「見つけたわ。貴方が、どんな汚れも飲み干すという『伝説のゴミ箱』ね?」
彼女は隣国の筆頭聖女。
通称『闇の聖女』モルガナ。
その身からは、エルフレイデ様の比ではない、ドロドロとした負の魔力が溢れ出している。自壊寸前のパンク状態。まさに極限のブラック環境で戦う同業者?の匂いがした。
「カイルと言ったかしら。単刀直入に言うわ。私のところに来なさい。今の職場より三倍の給料と、完全週休二日制を約束するわ!」
「えっ、ヘッドハンティングですか?」
「そうよ!こんな薄汚い監獄に押し込められて、三人の女に搾取されるなんて非効率極まりないわ。私の『負の闇』を処理してくれれば、貴方を私の神殿の重役に迎えてあげてもいいわよ?」
前世で何度も受けた、甘い言葉の引き抜き。
だが、社畜としての経験が俺に告げている。
急成長を謳う競合他社ほど、入ってみれば地獄だと。
「お言葉ですが、モルガナ様。俺は今の職場に満足しています。福利厚生(彼女たちの愛)も充実していますし、何より人間関係がアットホーム(物理的に密)ですから。転職はお断りさせていただきます」
「なっ!?断るというの?なら、力ずくで連れて行くだけよ!私の闇を喰らいなさい!」
モルガナは強引に俺を抱き寄せ、その身に溜まった漆黒の汚れを俺に流し込み、気絶させて連れ去ろうとした。
だが。
「うわ、すごい質量だ。でも、これ…エルフレイデ様の『傲慢』に比べれば、整理整頓されてて飲みやすいですね。ちょっと、そこ。左の深層に溜まってる後悔、全部出しちゃってください。俺が検品しますから」
「えっ?あ、あぁ…あっ!?」
逆に俺が、彼女の負を凄まじい速度で吸い上げ、同時に社畜特有の相手の懐に入る指圧で彼女の防衛本能を解かしていった。
「カイル!今助けに来たわよ!!」
「あらあら、うちの看板社員に、どこの馬の骨が手を出してくれているのかしら!」
「我が主を奪おうとする不届き者、万死に値する!!」
数分後、俺のピンチ?を聞きつけたエルフレイデ様たちが、武装して部屋に突入してきた。
彼女たちの目には、ライバル企業を粉砕せんとする経営陣の怒りが宿っていた。
だが、彼女たちが目にしたのは…
「あ、あぅ。カイル様…もっと…もっと私の『闇』を、抜いてください。もう、貴方なしじゃ、生きていけないわ…」
俺のベッドの上で、さっきまでの威厳はどこへやら、喉を鳴らす子猫のように俺の膝に擦り寄るモルガナの姿だった。
彼女はすでに、俺という極上の受け入れ先に完全に飼い慣らされていた。
ちなみに純潔は散らしてはいないぞ。
「は?モルガナ、貴女…何、私のカイルで勝手にデトックスしてるのよ!?」
エルフレイデ様の鞭が床を叩くが、モルガナはうっとりと俺の腕の中に収まったままだ。
「あっ、聖女様、お帰りなさい。ちょうど今、競合他社との業務提携が終わったところです」
俺はモルガナの頭を撫でながら、詰め寄る三人に平然と言い放った。
「モルガナ様からも強い要望がありましたが、やはり転職はしません。今の職場の人間関係が一番ですから。ただ、彼女も相当なブラック環境で働いていたようなので、今後は『外注先』として、たまにメンテナンス(接待)を引き受けることにしました」
「勝手に事業拡大してんじゃないわよ!!」
聖女様の絶叫が響く!
だが、俺は確信していた。
どれほど好条件を提示されても、この慣れ親しんだ地獄(ホワイト職場)以上の場所など、この世界には存在しないということを。
「さあ、皆さん。モルガナ様の後は、皆さんの『お土産(汚れ)』もしっかり検品しますよ。今日も残業、頑張りましょうか!」
社畜の愛社精神は、ついに国境を越え、隣国の聖女までも常連客へと変えてしまったのである。




