怒りの聖女と、最優先の復旧作業
エルフレイデ様たちが遠征から戻った時、俺はチクる必要すら感じなかった。
なぜなら、今の俺の姿こそが、何よりも雄弁な不当労働の証拠品だったからだ。
肌は粉を吹くほどカサカサになり、風呂にも入れず、自分でも引くほどの異臭を放っている。
何より、美食で維持していた身体は見る影もなくガリガリに痩せ細り、目は落ち窪んでいた。
「ただいま、カイル。留守の間、ちゃんと私のために清潔を保って…えっ?」
部屋の扉を開けたエルフレイデ様の言葉が、凍りついた。
ベッドに横たわり、虫の息で「あ、お帰りなさい…」と弱々しく手を振る俺を見た瞬間、彼女の背後から立ち上がったのは、神々しい後光ではなく、文字通りの暴魔力だった。
「…これ、は。どういう、ことかしら?」
「せ、聖女様!これは、その、ゴミ箱の耐久テストの一環でして…」
背後で言い訳を並べようとした老司祭たちだったが、次の瞬間、部屋の空気が爆ぜた。
「私の…私が、丹精込めて、磨き上げて、一番使い心地がいいように調整し続けてきた、私の『所有物』を!!誰がここまで『劣化』させていいと言ったのよォォォ!!」
「ひ、ひぃぃぃっ!」
怒り狂ったエルフレイデ様が魔力鞭を振り回す。それはもはや浄化の光ではなく、純粋なる破壊の嵐。
老害司祭たちが腰を抜かし、這いずって逃げ惑うのも構わず、彼女は神殿の壁ごと彼らをなぎ倒していった。
「カイル様!何てこと、私の『上書き』が消えて、不快な餓死の匂いがするなんて!殺す…司祭たちを全員、腐った肉の塊に変えてやりますわ!」
フィオナの冷笑が消え、瞳には本物の殺意が宿る。ヒルダも、無言で剣を抜き、逃げ遅れた神殿兵の足を冷酷に叩き斬っていた。
「あ、あの…聖女様。お怒りはごもっともですが…先に、ヒールか…何か栄養のあるものを…くれま、せんか…ガクッ…」
極限状態だった俺の意識が、彼女たちの顔を見た安心感でプツリと切れた。
「っ!?カイル!カイル!!」
エルフレイデ様が、なぎ倒した司祭たちのことなど目もくれず、俺の元へ滑り込んできた。
「しっかりしなさい!嫌よ、こんなところで壊れるなんて許さないわ!旦那様(ゴミ箱)!!起きて、起きてちょうだい!!」
「…。聖女様、隠さず『旦那様』って叫んでますわよ。ヒルダ、聖女様を支えて。私が今すぐ、全魔力を注いでカイル様を『再起動』させます!」
「ああ!司祭どもの首は後でいい!今はカイルの復旧が最優先だ!」
薄れゆく意識の中で、俺はエルフレイデ様の柔らかい(けれど必死に俺を揺さぶる)腕の感触と、二人がかりの過剰なまでの回復魔法の熱を感じていた。
…はは、やっぱり。このブラックなホワイト職場。辞められそうに、ないな…
俺の意識は、彼女たちの必死な呼び声に包まれながら、深い眠りへと落ちていった。




