社畜の処世術
「はぁ、はぁ。どうだ、カイル! 私の『重圧』に、まだ耐えられるか!」
ヒルダは荒い息を吐きながら、俺を壁に押し付けたまま勝ち誇ったような声を出す。
だが、俺はブラック企業で鍛えられた接待スキルをフル稼働させていた。
こういう体育会系の『お気に入り優遇型取引先』を攻略するコツは、相手の土俵に乗りつつ、徹底的に痒い所に手を届かせることだ。
「…さすがですね、ヒルダ様。この圧倒的な質量、並の男なら一秒で圧死してますよ。でも、わかってます。これ、騎士団の激務で凝り固まった『疲れ』ですよね?」
俺はヒルダの鎧の隙間から、強張った肩の付け根に指を滑り込ませた。
「な、何をっ!?」
「…ここですよ。盾を構え続けて、僧帽筋がパンパンだ。よし、ちょっと失礼しますね」
俺は、彼女の汚れを吸い取りながら、同時に指先で筋肉の深層を的確に捉え、絶妙な力加減で揉み解した。
「…っ!?…あっ、そこっ、貴公、何を…している…」
「いいから、力を抜いて。飲みの誘いも、サウナの付き合いも、俺は断りませんよ。あなたのその『重い汚れ』を一番理解できるのは、世界中で俺だけですから」
ブラック時代のサウナ接待で培った、相手の心拍数と呼吸を読み取る技術。
俺が彼女の呼吸に合わせ、汚れを吸い出す速度を調整しながら、一番『効く』場所を攻めると、ヒルダの強気な瞳がみるみるうちに潤み始めた。
「…ふぅ…あ、あぁっ。な、なんだ…この感覚。聖女様に尽くすのは『義務』だが、貴公にこうして…『手入れ』されるのは…っ」
「義務じゃなくて、ご褒美でしょうか?ヒルダ様」
「…っ!!」
ヒルダの顔が、兜のバイザーよりも赤く染まる。
「…ふぅ、あ、あぁ…な、なんだ…この、身体の芯が溶けるようなっ」
ヒルダは壁に背を預けたまま、ずるずるとその場に崩れ落ちた。
鎧の鳴る音が、彼女のプライドが崩壊する音のように部屋に響く。
体育会系の人間は、一度こいつは信頼できると確信した相手には、驚くほど脆い。
前世の強面な部長が、サウナで背中を流してやった瞬間に「お前、いい奴だな」と涙ぐんだあの光景の再現だった。
俺は彼女の耳元で、社畜特有の相手を立てつつ懐に入る低い声で囁いた。
「…騎士様。今夜の『公務』が終わったら、二人で…静かなところで、また『汚れ』の出し合いをしませんか?サウナより熱い、とっておきのデトックスを教えますよ」
「…っ、貴公。あ、ああ…分かった。私の『お気に入り』にしてやるから、もっと、もっとそこを、私を、ダメにしろっ!」
俺は膝をつき、彼女の硬い手を取り、その手のひらにそっと口づけを落とした。
騎士としての誇り。聖女への忠誠。そして、女として押し殺してきた衝動。
それらが混ざり合った特濃の汚れが、俺の中に濁流となって流れ込んでくる。
「っ、ぅ。カイル、貴公。私は、あぁ…もう、駄目だっ!」
ヒルダの瞳からは、ついに大粒の涙が溢れ出した。彼女は俺の首にしがみつき、鉄の篭手を投げ捨てて、むき出しの指で俺の背中に爪を立てる。
「お気に入りだ!貴公は、今日から、私の、特別なお気に入りだっ!聖女様には、内緒で、私だけの、特別な『ゴミ箱』に…」
警察権力(騎士団)の象徴であった彼女は俺のかゆい所に手が届く接待術の前に、あっけなく陥落した。
自分を律し、常に張り詰めていた彼女にとって、俺という何をぶつけても受け入れてくれる絶対的な肯定感(ゴミ箱)は、何よりも強力なドラッグだったのだ。
「あらあら。騎士様、現場で『癒着』しすぎではありませんこと?」
「ヒルダ、貴女…私の護衛を忘れて、随分とだらしのない顔をしているわね」
フィオナの皮肉と、エルフレイデ様の氷のような視線が突き刺さるが、今のヒルダには聞こえていない。
彼女は俺の胸に顔を埋め、甘えるように、けれど騎士らしい力強さで俺を抱きしめていた。
「はい、分かりました。ヒルダ様。今夜は、残業の予約を入れておきますね」
「あ、ああ!…最高のご褒美を、期待しているぞっ♡」
ガシャリ、とヒルダの膝から力が抜け、俺の胸元に崩れ落ちる。
「あらあら。騎士様、随分とチョロいですわねぇ」
「カイル。貴方、いつの間にあの子の『ツボ』を把握したのかしら。後で詳しく、事情聴取が必要ね」
フィオナの呆れたような声と、エルフレイデ様の嫉妬に満ちた冷たい視線。
三者三様の汚れを抱えた女性たちに囲まれながら、俺は心の中でガッツポーズを作った。
よし。これで騎士団(警察)のルートも確保した。
そして、エルフレイデ様の顔を汚した問題も、うやむやに出来た。




