石となる社畜と、水面下の侵略
修羅場におけるリスクマネジメント。それは、前世の修羅場で培った唯一の生存本能だ。
激昂する二人のクライアントを前にして、どちらかの肩を持てば、もう片方からの損害賠償(物理的破壊)は免れない。
話を遮れば火に油を注ぎ、その場しのぎの約束は後の訴訟リスクを跳ね上げる。
だから、俺は決めた。
俺は今、石だ。意識を遠くに飛ばし、魂を無の境地へと置く。
だが…
「あら?黙り込んでしまって。カイル、私の声が聞こえないのかしら?」
エルフレイデ様が、威圧感たっぷりにベッドへと近づいてくる。魔導鞭の放電が、チリチリと空気を焼く音がする。
「ふふ、聖女様。カイル様は今、私の魔法に『酔って』おられるのです。無理に起こそうとなさらないで?」
フィオナは、俺の上に乗ったまま、エルフレイデ様を冷ややかに見据えている。
…いや、フィオナさん。
…言い合いに夢中なのはいいけど。
…シーツの下で、俺たち、まだ…繋がってるんだけど!!
石になりきろうとする俺の決意を、内側から粉砕しようとする熱。
フィオナはエルフレイデ様を挑発しながら、あろうことか、シーツに隠れたその腰を、目立たないように、けれど確実に、じっくりと動かし始めた。
「んむ…っ、んん…ん♡」
「かはっ!? フィ、フィオナさん…」
俺の口から、漏れそうになる吐息を必死に飲み込む。
エルフレイデ様の正面で、別の聖女を受け入れたまま、平然を装う。
これ以上の背信行為(コンプライアンス違反)があるだろうか。
「ん?何か今、変な音が聞こえなかったかしら。カイル、貴方、どうしてそんなに顔を赤くして…汗をかいているの?」
「い、いや…そのっ。聖女様の…ご威光が…あまりに眩しくて…はうっ、熱中症気味、というか…」
俺は必死に声を絞り出す。
だが、フィオナはわざとだ。絶対にわざとやっている。
彼女は俺の首筋に指を這わせ、エルフレイデ様に見えない角度で、俺の耳元にその熱い吐息を吹きかける。
「ふふ。カイル様、頑張って♡…聖女様の前で、私のこと…隠し通してくださるのでしょう?それが、不義理な男の『誠意』ですものね…っ♡」
…この、小悪魔っ!!
フィオナの腰の動きが、さらに一段と深く、速く、粘着質に変化する。
エルフレイデ様の怒声が響く中、シーツの下では、秘められた快楽のピストンが加速していく。
目の前には、いつ鞭を振り下ろしてもおかしくない激昂したメインクライアント。
腰の上には、その隙を突いて既成事実を積み重ねようとする、粘着質な新規クライアント。
「カイル。貴方、やっぱり何か隠しているわね。そのシーツ、今すぐ剥ぎ取って、隅々まで『検品』してあげるわ!!」
「ちょ、待っ…! それは、マニュアル違反というか、業務停止命令…っ!!」
俺の絶叫は、エルフレイデ様がシーツに手をかけた瞬間、フィオナが放った絶頂の魔法?と混ざり合い、カオス極まる地獄の結末へと向かって加速していった。




