ダブルブッキングは修羅場
俺の監獄生活は、今や二十四時間年中無休のブラック営業と化していた。
日中はエルフレイデ様による苛烈な搾取、そして彼女が公務に戻った隙間時間に滑り込んでくるフィオナの侵食。
二人の聖女(候補)が交互に現れ、俺というゴミ箱の容量を奪い合う。俺の身体は、聖女の熱い再生魔法と癒やし手の冷たい再生魔法が絶え間なくぶつかり合う、超高負荷の実験体のようだった。
…はは、これ、前世の三日連続徹夜明けよりキツいぞ。
だが、そんな綱渡りの運営が、長く続くはずもなかった。
「あ、あぁ♡カイル様…素敵。聖女様の痕跡を、こうして私の魔法で一つずつ『書き換えて』いく時間が、一番の幸せ♡」
フィオナが上に乗り、俺の胸に顔を埋め、甘く粘着質な吐息を漏らしていた、その時だ。
ドォォォォン!!
部屋の入り口に張られていたはずの、フィオナ独自の隠蔽結界が、外側から物理的な衝撃波によって粉砕された。
「あら?忘れ物をしたと思って戻ってみれば、私の部屋に、ずいぶんと大きな『ネズミ』が迷い込んでいるみたいじゃない?」
扉の枠を掴み、どす黒い笑顔を浮かべて立っていたのは、公務を途中で切り上げて戻ってきたエルフレイデ様だった。
その手には、怒りに呼応してバチバチと放電する魔導鞭が握られている。
「っ!? せ、聖女様…」
フィオナが素早くシーツを被り、肌を隠す。
だが、その瞳には恐怖だけでなく、どこか『ついに見つかっちゃった』という歪んだ歓喜が混じっていた。
「カイル。説明してくれるかしら?私が大切に、大切に使い潰しているはずのゴミ箱から、どうして、別の女の…それも、あんなに修行しろと言ったはずの、出来損ないの癒やし手の匂いがするのかを」
「あ~。えっと、これは、その…ヒールの、セカンドオピニオンと言いますか…」
「黙りなさい」
エルフレイデ様が一歩踏み出すたびに、床が熱で焦げ付いていく。
対するフィオナも、俺に座ったたまま、勝ち誇ったような笑みを浮かべて挑発した。
「ふふ、聖女様。お戻りが早くて驚きましたわ。でも、遅すぎたかもしれません。カイル様の『中』は、もう私の冷たい魔法で…隅々まで、上書き済みですもの」
「なんですって?」
エルフレイデ様の眉間がピクリと跳ねる。
聖女と癒やし手。日向と日陰。
俺という唯一無二のゴミ箱を巡る二人の聖女の視線が、空間を焼き切らんばかりに激突する。
「いいわ。汚れたなら、また『一』から焼き尽くして洗うだけ。フィオナ、貴方も覚悟しなさい。私の私物を盗もうとした罪…その身体で、たっぷり贖わせてあげるわよ!」
「望むところですわ。カイル様が、どちらの『浄化』を求めているか…今ここで、はっきりさせましょう!」
…あ、これ、俺が二人に挟まれて引き裂かれる(物理)やつだ。
俺は、前世のクライアント同士が目の前で殴り合いを始めた時のような絶望感とともに、これから始まる地獄の残業を予感して、そっと目を閉じた。




