空っぽの報酬
「くっ、聖女様…さすがに、もう…勘弁してください、俺にも、ヒールを。もう一滴も出ませんって…完全な、在庫切れです…」
俺はベッドに大の字になり、天を仰いだ。
全身の筋肉が倦怠感で鉛のように重く、頭の中はエナジードリンクの飲みすぎた後のような、奇妙な浮遊感に包まれている。
エルフレイデ様の執念は凄まじかった。首筋に残されたフィオナの当て付けを消し飛ばすかのように、彼女は何度も、何度も俺を貪り、上書きし、最後には俺を完全に搾り取ってしまった。
対照的に、俺の上に跨るエルフレイデ様は、汗に濡れた金髪をかき上げ、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
その肌は、かつてないほどピンク色に上気し、満足感で蕩けきっている。
「ふふっ…やっと、やっと貴方に勝てたわ、カイルっ♡」
彼女は俺の胸板に指先で、今度こそ自分だけの印をなぞるように滑らせる。
「ヒール?ふふ、致しませんわ!誰がしてあげるものですか!」
「えぇ。福利厚生が、おざなりすぎる…せめて、腰の痛みくらい取ってくださいよ…」
「ダメよ!泥棒猫に与える種など、一滴たりとも再生させるものですか!あの小娘、癒やし手の分際で私の持ち物に手を出した罰よ。いい?貴方は今、空っぽ。次に満たされる時まで、その渇きを私のせいだと思って耐えなさい」
彼女は俺の頬を優しく、けれど独占欲を込めてペチリと叩いた。
「いいこと?癒やし手ごときには、本質的な再生までは不可能なのよ!表面を磨くことはできても、貴方の芯を枯らすことも、満たすことも…筆頭聖女である私にしかできないんだから!あの子には、修行をしなさいと言ってやりなさい!修行よ!」
エルフレイデ様はそう言い捨てると、鼻歌混じりに自分の服を拾い集め始めた。
勝者の余裕。
彼女にとって、俺を使い物にならなくすることは、他の女への最強の牽制なのだろう。
「あ~。これじゃあ、フィオナさんが来ても『本日休業』の看板出すしかないな」
「…カイル。今、何か言ったかしら?」
ドレスのジッパーを上げながら、エルフレイデ様が冷ややかな、けれどどこか嬉しそうな視線を向けてくる。
「いえ、独り言です。聖女様、そんなにスッキリした顔で、今日の公務は大丈夫なんですか?」
「最高に決まっているわ。今日は、国中の汚れを吸い取ってあげてもいい気分よ。だって、夜にはまた、ここに来ればいいんですもの」
彼女は最後に、俺の唇にチュッと、まるで子供のような、けれど重い重い口づけを残した。
「また夜にね、私の『旦那様』」
結界が閉まる音。
静まり返った部屋。
俺は、一歩も動けないほど空っぽになった自分の体を感じながら、天井を見つめた。
はぁ。勝った負けたはいいけど、結局、一番過労死しそうなのは俺なんじゃないか?
「さて…一眠りして、体力を…」
そう思った瞬間。
扉の外から、また、あのジャリ…という、聞き覚えのある忍び寄るような足音が聞こえてきた。
…ま、まさか…フィオナ、もう来たのか?




