■番外編「気づかないままでいいなら」
番外編です。
第三者から見た、
少しだけおかしな関係です。
最初に違和感を覚えたのは。 いつだったか。 正確には覚えていない。
気づけば、増えていた。
「また呼び出しか?」
アルセリアの言葉に、軽く返す。
「合理的判断よ」
即答。
(……合理的、ね)
昔からそうだ。
正しいことを言う。 正しいことをやる。
だから。
(間違えない)
……はずだった。
***
訓練場。
殿下が、妹を引き寄せた時。
一瞬だけ。 空気が、変わった。
(……あれ)
違和感。
ほんのわずか。
だが。
見慣れているはずの光景の中に、 “違うもの”が混ざっていた。
言葉にするには、足りない。
けれど。
(……なんか、違う)
そう思った、その直後。
「ヴァルク、殿下にお礼を」
その一言で、すべて流された。
(……違うだろ)
思ったが。 言わなかった。
理由は、簡単だ。
(説明できねえ)
そして。
(確信が、持てねえ)
***
応接室。
アルセリアの提案を聞いた時。
「関係性の安定」
その言葉で。
(……ああ)
理解した。
(こいつ、分かってねえ)
何をかは。 分からない。
けど。
(何かがズレてる)
しかも。
(たぶん、結構ヤバい方向に)
それだけは分かる。
***
そして。 今日。
廊下で待っていた妹の顔を見て。
(……楽しそうだな)
そう思った。
ほんの少しだけ。 口元が緩んでいた。
見たことのない顔。
それを見て。
(……まあいいか)
そう思った。
本人が納得しているなら。 それでいい。
はずだった。
***
「……無理すんなよ」
言葉が出た。
理由は分からない。
ただ。
このまま進ませていいのか。
ほんの少しだけ。 引っかかった。
***
去り際。
一度だけ振り返る。
殿下は。 そこに立っていた。
何も言わずに。 動かずに。
ただ。
視線だけが。
まっすぐに、アルセリアへ向けられていた。
(……あーあ)
小さく息を吐く。
(面倒なことになってるな)
分かっている。
踏み込めば、何かは変わる。
だが。
踏み込まない。
それは。
(俺の役目じゃねえ)
そう思ったからだ。
そして。
その判断が。
後になって。
取り返しのつかない“見過ごし”だったと知ることを。
まだ、知らない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この時点では、
まだ誰も“正しく理解していません”。




