第11話「触れる理由」
第11話です。
ここで、
二人の関係に“理由”が生まれます。
距離は。
まだ、完全には戻っていない。
しかし、
確かに。
変わっていた。
アルセリアは、庭園に立っていた。
昨日と同じ場所。
同じ時間。
そして。
(……違う)
同じでは、ない。
待つことに、迷いがなかった。
何をすべきかではなく。
どう在るべきかが、分かっている。
足音が、近づく。
振り返る。
今度は、逃げない。
「……来たか」
レオンハルトが言う。
「はい」
短く答える。
沈黙。
だが、昨日のそれとは違う。
重くはない。
ただ。
互いに、言葉を選んでいるだけだ。
やがて。
「……昨日の続きだ」
レオンハルトが口を開く。
「はい」
視線を逸らさない。
「……一つ、確認したい」
一歩。
踏み出される。
距離が、縮まる。
アルセリアは、動かない。
逃げない。
そのまま、受け止める。
「……お前は」
言葉が、わずかに揺れる。
だが。
止まらない。
「本当に、分からないまま見ているのか」
問い。
試すような声音。
疑いではなく。
確かめるための問い。
アルセリアは、息を吸う。
そして。
「……はい」
迷わず答える。
「分かろうとしているのではなく」
一歩。
ゆっくりと、踏み出す。
「分からないまま、見ています」
言い切る。
その言葉は、不完全だ。
だが。
嘘ではない。
レオンハルトは、しばらく何も言わなかった。
ただ、見ている。
やがて。
「……なら」
小さく、呟く。
そして。
手が、伸びる。
一瞬。
止まる。
以前と同じ場所。
同じ距離。
だが。
違う。
今度は。
逃げない。
アルセリアは、目を逸らさない。
そのまま。
受け入れる。
指先が、触れる。
ほんのわずか。
確かに。
触れた。
その瞬間。
呼吸が、乱れる。
引かない。
レオンハルトもまた。
離さない。
「……分かるか」
低い声。
問い。
(……分からない)
だが。
それでいい。
「……分かりません」
正直に答える。
そのまま。
視線を向ける。
「ですが」
続ける。
「これは、分かります」
言葉を選ぶ。
ゆっくりと。
慎重に。
「今までとは、違う」
レオンハルトの指先が、わずかに動く。
逃げるか。
離すか。
その判断の、ほんの手前。
だが。
アルセリアは、手を引かない。
そのまま。
そこに、ある。
「……そうか」
レオンハルトが、息を吐く。
その声は。
少しだけ、軽かった。
完全ではない。
まだ。
何かを、抑えている。
「……もう一つ、いいか」
「はい」
「……あの時」
言葉が、止まる。
続ける。
「“見ていてくれ”と言った時」
視線が、重なる。
「今は、どう受け取る」
問い。
核心。
アルセリアは、迷わない。
「……殿下を、見続けることです」
一拍。
そして。
「ただ、観測するのではなく」
言葉が、揺れる。
だが、止めない。
「……離れずに、向き合うこと」
言い切る。
沈黙。
レオンハルトは、目を閉じる。
そして。
ゆっくりと、開く。
そこにあったのは。
昨日よりも、明確な感情だった。
「……半分だな」
小さく、言う。
(……半分)
アルセリアは、その言葉を受け止める。
否定ではない。
だが、完成でもない。
それでいい。
今は。
それでいい。
「……残りは」
アルセリアは、問う。
初めて。
自分から。
教えを求めるのではなく。
知ろうとして。
レオンハルトは、少しだけ笑った。
ほんのわずかに。
「……自分で考えろ」
その言葉は。
突き放しではなかった。
むしろ。
委ねるような響きだった。
そして。
指先が、ゆっくりと離れる。
温度が、消える。
今度は。
喪失ではなかった。
そこにあったものが。
確かに、存在したと分かっているからだ。
「……また来る」
レオンハルトが言う。
それは。
約束ではない。
だが。
続く意思だった。
「はい」
アルセリアは、頷く。
その答えに、迷いはない。
距離は、まだある。
だが。
今度は。
埋めるべきものとして、そこにあった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
触れる距離に、
ようやく意味が宿りました。
最終話へ続きます。




