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EP 7

裏方の実力と、我が道を行く医官

高圧洗浄機によるイグニスの『物理的更生』から数時間後。

優太は村の広場から少し離れた場所で、黙々と水路の最終点検を行っていた。

泥が取り除かれ、スムーズに水が流れ始めたのを確認し、小さく頷く。

衛生的な水は、感染症予防の第一歩だ。戦術医療において、清潔なインフラの確保は最優先事項である。

『ピコンッ』

【善行:水質改善への貢献により 2p 獲得しました】

(よし。これで合計14pだ)

優太がスコップを置き、額の汗を拭ったその時。

背後の広場の方から、太陽を直接持ち込んだかのような、異様に眩い光が弾けた。

「うふふっ、皆さんこんにちは! 世界樹様から今月のお小遣いが届きましたわ。村の資金の足しにしてくださいな!」

優太が振り返ると、そこには金髪の美しいエルフ――次期女王候補であるルナ・シンフォニアが、ふわりと微笑みながら立っていた。

そして彼女の足元には、文字通り『山のような純金の塊(推定100キロ)』が無造作に積み上げられていた。

村人たちが言葉を失い、石像のように固まっている。

(純金、だと……?)

優太の戦術脳が即座に警鐘を鳴らす。

あんな異常な質量の金がこの小さな村の市場に流出してみろ。一瞬でハイパーインフレが起きる。通貨の価値が崩壊すれば、物流が止まり、食料の調達ができなくなる。

それはすなわち、村の『兵站の死』を意味していた。

(まずい。経済システムが破壊される前に、あのエルフから金を没収し――)

優太が駆け出そうとした、次の瞬間だった。

「アホかァァァァッ!! なに考えとんねんこの天然耳長!!」

凄まじい関西弁の怒号と共に、どこからともなく猫耳の男――ニャングルが飛び出してきた。

彼は愛用の算盤をカタカタと弾きながら、顔を青ざめさせて純金の山に飛びつく。

「こんなモン市場に流れたらルナミス帝国の経済圏ごとぶっ壊れるわ! ポポロ村が世界の標的にされるで!! リバロンはん、急いで!!」

「ご安心を。……すでにお掃除の準備は整っております」

ニャングルの声に呼応するように、燕尾服を着た人狼族の男、リバロンが音もなくルナの背後に現れた。

彼は懐中時計をチラリと見ると、優雅にお辞儀をした。

「『ティータイム・ステップ』」

リバロンの姿が、ブレた。

優太の動体視力をもってしても、残像しか見えない異常な体術。

リバロンは紅茶の入ったティーカップを片手に持ったまま一滴もこぼさず、もう片方の手と足を使って、100キロの純金を一瞬のうちに魔法の袋へと放り込んでいく。

「ああっ!? 私の純金が……!」

「ルナ様。金などという俗物、貴女の美しさの前では石ころと同義。この私が、責任を持って『地下深くへ』片付けておきましょう」

リバロンは完璧な執事の笑みを浮かべながら、実質的な国家予算レベルの富を、光の速さで村長宅の地下金庫へと隠蔽した。

時間にして、わずか3秒の出来事だった。

「はーい! リスナーの皆さーん! キュララだよ! 今、ポポロ村で謎の黄金パニックが起きてるって噂を聞いて飛んできたんだけど――」

さらに上空。

背中に白い羽根を生やした天使族の少女、キュララが、空飛ぶ魔導カメラを構えながら急降下してきた。

この世界のインフルエンサーとも呼べる彼女の生配信に映り込めば、事態は世界規模で拡散されてしまう。

だが、そこにはすでに純金など欠片も存在しなかった。

「あれぇ? 何もないや! 黄金の山、どこー?」

首を傾げる天使のカメラの前に、スッとニャングルが入り込んだ。

彼は商人の顔に切り替わり、満面の笑みでカメラにピースサインを送る。

「お嬢ちゃん、何言うてんねん! 黄金の山ゆうたら、ウチの特産品『ハニーかぼちゃ』の事やろ! リスナーの皆さん! ポポロ村のハニーかぼちゃ、今ならL-Pay決済で送料無料のキャンペーン中でっせ!」

「えっ? かぼちゃ? あ、ほんとだ美味しそう! リスナーのみんな、スパチャじゃなくてかぼちゃ買ってねー!」

ニャングルの神がかった機転(すり替え)により、天使の配信は単なる農産物の宣伝へと早変わりした。

純金のインフレ危機と、全世界への情報漏洩。

村の存続を揺るがす二つの致命的なクライシスが、優太が動く間もなく、裏方の二人によって完璧に処理(隠蔽)されてしまったのだ。

「…………」

少し離れた場所で、優太はスコップを持ったまま一連の騒動を見つめていた。

インフレを引き起こす天然エルフ。上空から監視する天使の配信者。それを3秒で揉み消す猫と狼。

ポポロ村には、キャルルのような「表の北極星」だけでなく、どんな異常事態も裏で処理する「異常な有能さを持った怪物たち」が潜んでいた。

優太は、ゆっくりとスコップを水路の底へ突き立てた。

「……俺の管轄外(仕事じゃない)な」

深く追求するのはやめた。彼らは彼らの仕事(経済と隠蔽)をし、俺は俺の仕事(医療とインフラ)をする。それでいい。

優太は再び泥を掻き出し、水路の仕上げ作業に戻った。

『ピコンッ』

【善行:いかなる狂気にも流されず、己の職務を全うする精神力により 1p 獲得しました】

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