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EP 4

アメスピと、交渉の算盤

「……ただのポポロ村の村人(医官)、だと?」

ドンガン地下帝国の内務官兼鍛冶師、ガンドフ(80歳)は、震える声でその言葉を反芻した。

彼の目の前には、壁をぶち抜いて現れた黄色い鋼鉄のショベルカーと、その傍らで静かに『アメリカン・スピリット』を吹かす男。

(嘘をつくなだべ! ただの農民が、こんな未知の鋼鉄獣を乗り回し、我らの魔法探知をすり抜けて侵入できるわけがねぇべさ! しかもあの男の目……何百という死線を潜り抜けてきた『本物』の目だ!)

ガンドフの顔面に冷や汗が伝う。

ドワーフの兵士たちは、魔導ライフルや魔導バズーカを構えながら、恐怖でカタカタと腕を震わせていた。

優太は、タバコの煙を細く吐き出しながら、彼らが構える兵器群を冷徹な視線でスキャンしていた。

(……火縄銃レベルの文明と聞いていたが、思ったより発展してるな。魔力の伝導率を活かしたアサルトライフルもどきに、装甲板の厚みからして榴弾砲の直撃にも耐えそうな魔導戦車。……だが、どれも『現場(実戦)』を知らない頭でっかちの設計だ)

現代地球の『グリーンベレー式戦闘技術』と『TCCC』のロジックを脳内にインストールしている優太にとって、ドワーフたちの兵器は荒削りで隙だらけだった。

「……おい、そこの爺さん」

優太が、タバコを指に挟んだまま、ガンドフを真っ直ぐに指差した。

「ひぃッ! う、撃て! 撃つ準備をするだべ!」

ガンドフがパニックになりかけるが、優太の次の言葉がその動きをピタリと止めた。

「お前らの持ってるその魔導ライフル、安全装置セーフティの設計が甘いぞ。極度の緊張で引き金に指がかかってる奴が何人もいる。この閉鎖空間で一発でも暴発したら、連鎖誘爆してお前らの自爆で終わるぞ。……銃口を下ろせ」

「な……ッ!?」

ガンドフは息を呑んだ。

自軍の最新鋭兵器の構造と、戦術的リスクを、ただの一瞥で見抜いただと!?

「ふはははッ! 恐れおののくが良い!」

ドワーフたちが動揺した隙を突き、優太の背後から良樹が飛び出してきた。彼はボロボロのマントを翻し、何もない空間に向かってドヤ顔でポーズを決めた。

「拙者の背後にそびえ立つ『一撃必殺浪漫砲(※入り口のテントに没収中)』が火を噴く前に、大人しく降伏するでござるよ!」

「なにも持ってねぇのに、あの恐るべき自信! まさか、空間魔法で見えない超兵器を構えているのかべ!?」

ガンドフが勝手に深読みして震え上がる。

さらにその後ろから、ロード(始祖竜クロノ)が「我はもう疲れた。早く牛丼をよこせ……」と重低音の愚痴をこぼしながら現れた。

その姿を見たドワーフ兵の一人が、悲鳴を上げた。

「ガ、ガンドフ様! あの地竜……ただのジオ・リザードじゃねぇだべ! 計り知れねぇ『古の覇気(始祖竜のプレッシャー)』を感じるべさ! こいつら、全員化け物だべぇぇっ!」

「だ、ダメだ……! 勝てねぇ。この地下帝国は今日、滅亡するだべ……ッ!」

ガンドフが絶望し、愛用のスパナを取り落としそうになった、まさにその時だった。

パチパチパチパチッ!

極度の緊張感が張り詰める空間に、なんとも場違いな、軽快な木の弾ける音が響き渡った。

「いやぁ〜、物騒な歓迎でんなぁ。せっかくのええ御縁やっちゅうのに」

黄色いショベルカーの影から、算盤を片手にチャキチャキと弾きながら現れたのは、ポポロ村の財務担当・ニャングルだった。

「お前……いつからそこにいたんだ」

優太が呆れたようにため息をつく。

「へへっ、ユウタはんが地下を掘るっちゅうんで、なんかええ金脈でも埋まっとらんかとコッソリ付いてきたんですわ。そしたら、こんなお宝(兵器工廠)の山にぶち当たるとは……ホンマ、笑いが止まりまへんなぁ」

ニャングルは、ガンドフに向かってニッコリと愛想のいい(しかし腹黒い)笑顔を向けた。

「ドンガン地下帝国はんとお見受けしまっせ。わてはポポロ村のニャングル、ゴルド商会の端くれですわ」

「猫耳族の商人……ゴルドのバッジだと!? なぜ商人がこんな地下に!」

ガンドフが警戒を強める。

「まあまあ、銃口下ろして話しまひょや」

ニャングルは算盤を小脇に抱え、一歩前に出た。

「お互い、地上の三大国ルナミスやレオンハートには内緒にしときたいモンがあるんとちゃいますか? 撃ち合いしてドカンと自滅するより……美味いカネ、吸い合いまへんか?」

ニャングルの提案は、あまりにも唐突で、そして蠱惑的だった。

「カ、カネ……だと?」

「せや。うちは三大国の目ぇ盗んで、非課税の土地(隠田)が欲しい。そちらは、地上の物資(新鮮な食糧や嗜好品)が欲しいんとちゃいまっか? お互いの利害、バッチリ一致しまっしゃろ」

優太もアメスピの灰を落とし、静かに頷く。

「俺は兵站を安定させたいだけだ。そっちの兵器に用はない。……不可侵と、秘密の流通ルートの構築なら応じてやる」

圧倒的な強者からの、慈悲のような提案。

だが、そこは誇り高きドワーフ。ガンドフはギリッと奥歯を噛み締めた。

「……ふざけるなだべ!」

ガンドフがスパナを拾い上げ、優太たちを睨みつけた。

「ポポロ村など聞いたこともねぇ! 我らドワーフの誇り高き『ドンガン地下帝国』が、地上の一介の村ごときと対等に取引などできるかべさ! 第一、その『黄色いショベルカー』以外に、貴様らに何があるってんだ!」

マッドサイエンティストとしての矜持が、彼を譲らせない。

「ほほう。ドワーフのプライド、でっか」

ニャングルがニヤリと笑い、優太の背中をポンと叩いた。

「ならば、ウチの『技術』とどっちが上か、勝負してみまっか?」

「……おいニャングル、俺は忙しいんだ」

優太が不機嫌そうに言うが、ニャングルは小声で「ええからええから! ここでガツンとわてらの凄さを見せつけといた方が、今後の取引(密輸)で絶対的にマウント取れまっせ!」と囁く。

「……チッ。手短に終わらせるぞ」

優太はタバコを携帯灰皿にしまい、ガンドフに向き直った。

「いいだろう! ドワーフの叡智に勝てると思っているなら、見せてみろだべ! もし貴様らの技術が我らを上回ったら……どんな条約でも結んでやるべさ!」

ガンドフが、職人としての目をギラギラと輝かせて宣言する。

かくして、血で血を洗う戦争の危機は、ニャングルの算盤によって『技術評価試験(品評会)』というビジネスのテーブルへと見事にすり替えられた。

そしてガンドフはまだ知らない。

目の前にいる静かなる医官が、ポケット(EDC)の中に、異世界の魔法工学すら過去の遺物にしてしまう『地球の極小技術』を山のように隠し持っているということを。

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