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EP 5

マッドサイエンティストの敗北

「さあ、とくと見るだべ! これが我らドンガン地下帝国の誇る最高技術の結晶……『特大高圧縮・魔導バッテリー』だべさ!」

ドンガン地下帝国の兵器工廠。

ガンドフがドヤ顔で布をバサァッと取り払うと、そこには高さ2メートル、重さ数トンはありそうな巨大な鉛色の金属塊が鎮座していた。

「このバッテリーには、ドワーフの魔術師百人が三日三晩かけて魔力を込め、街一つを一日稼働させるだけのエネルギーが詰まっているだべ! どうだ、地上にはこんな凄まじい技術はねぇべさ!」

ドワーフの兵士たちが「おおーっ!」と誇らしげに歓声を上げる。

「……でかくて、重くて、非効率だな」

優太は、タバコの煙を吐き出しながら一刀両断した。

「な、なんだとォ!?」

「そんなデカブツ、戦場に運ぶだけで輸送コスト(兵站)が圧迫される。それに、魔力が尽きたらただの鉄くずだ。……『無限のエネルギー』ってのは、こういうのを言うんだよ」

優太は、腰のポーチ(EDC)から黒い布状の束を取り出し、ガサガサと広げた。

それは、地球の登山家や特殊部隊が愛用する『折りたたみ式ソーラーバッテリー』だった。

優太が持っていたLEDライトのケーブルを繋ぐと、地下工廠のわずかな照明の光すら吸収し、ライトがピカァァァッと強烈な光を放ち始めた。

「な、なんだべその薄っぺらい板は!? 魔力反応が一切ねぇのに、なぜエネルギーを生み出し続けているんだべ!?」

ガンドフが目玉を飛び出させて驚愕する。

「太陽光(光子)を電力に変換するパネルだ。天候さえ良ければ、魔術師なんて使わずに、半永久的にデバイスを稼働させられる。……これが『機能美』ってやつだ」

「バ、バカな……! そんなペラペラの板っきれで……我々の魔導工学が……!」

ガンドフがよろめくが、優太の追撃ロジックは止まらない。

優太は次に、ポケットから一本の黒いバンド……【CAT(戦闘用止血帯)】を取り出した。

「お前らの武器は『殺す』ことばかり考えていて、『生かす』設計がお粗末だ。これを見てみろ」

「た、ただのナイロンの紐とプラスチックの棒だべさ! それがなんだって言うんだべ!」

「ただの棒じゃない」

優太は、自分の片腕にCATを巻き、マジックテープを固定して、プラスチックのウインドラスをキュルキュルと数回回し、クリップで固定した。わずか10秒の出来事である。

「……これで、動脈からの出血は完全に止まる。片手で、誰でも、10秒以内にだ。回復魔法が使える人間が現場にいなくても、この数百円の道具一つで兵士の生存率(兵站)は劇的に跳ね上がる。……命を繋ぐ完璧なロジックだ」

「たったそれだけの単純な構造で……魔法を使わずに致命傷を……!?」

ガンドフは、CATの圧倒的な『合理性』を前に、マッドサイエンティストとしての脳をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

「……ユ、ユウタはん。もうその辺にしたってえな。爺さん、泡吹いて倒れまっせ」

ニャングルが苦笑いしながら止めるが、トドメの一撃はさらに別の方角からやってきた。

「ユウタさーん! 皆さーん! お弁当(PRO型)持ってきましたよー!」

上の穴からロープを伝って、紅蓮のクリムゾンアーマーに身を包んだ美女がスルリと降りてきた。

ポポロ村の自警団リーダーにして、賞金稼ぎ兼鍛冶師のダイヤである。

「お、ダイヤ。ご苦労」

「あれ? ユウタさん、ここどこですか? わっ、すごい! ドワーフの工房じゃないですか!」

ダイヤは、目を輝かせて周囲の魔導兵器群を見渡した。そして、近くにあった未完成の『魔導アサルトライフル』をヒョイと持ち上げた。

「これ、すごくいい素材使ってますね! でも……」

ダイヤの目が、一瞬にして職人のそれへと変わった。

彼女のユニークスキル【ウェポンズマスター】が発動する。

カチャカチャカチャッ! ガキンッ! チャキッ!

目にも留まらぬ神速で、ダイヤは魔導ライフルを一度バラバラに分解し、そこらにあったスプリングやネジを組み込みながら、わずか10秒で再構築(魔改造)してしまった。

「この銃身のライフリング、少し甘かったので角度を調整しました。あと、排気口ガスポートの穴を1ミリ広げたので、反動が今の半分になりますよ。あ、魔力伝導率を上げるために、ここの接点も削っておきましたから、威力は3倍出ますね!」

ダイヤがニッコリと笑って銃を差し出す。

ガンドフは、震える手でその銃を受け取った。

……完璧だった。

自分たちが何ヶ月も悩んでいた設計の矛盾が、地上からやってきた小娘によって、たったの10秒で完全に最適化されていた。

「あ、あんた……人間だべ……? その若さで、なぜそんな神業を……」

「え? 私、ただの貧乏な賞金稼ぎですけど? 武器のメンテ代を節約するために自分で弄ってたら、なんかできるようになっちゃって」

「(才能の無駄遣いにもほどがあるだべぇぇっ!)」

ガンドフは、その場にガクンと膝をついた。

「……爺さん。まだやるか?」

優太が、タバコを携帯灰皿にしまいながら見下ろす。

「……負けだ」

ガンドフは、ポロポロと涙をこぼしながら、愛用の巨大スパナを床に置いた。

「地球の光のソーラーパネルに、命を繋ぐ魔法の紐(CAT)。そして、神をも恐れぬ武器の最適化ウェポンズマスター……。完敗だべ。我らの誇る技術なんて、貴様らの前じゃ児戯に等しいだべさ……」

だが、ガンドフは涙を拭うと、顔を上げて優太とダイヤの手をガシッと握りしめた。

その目には、敗北の悔しさではなく、技術者としての狂喜が燃えたぎっていた。

「アンタら、最高の狂人エンジニアだべ!! オラ、感動しただべさ!!」

「狂人って言うな。俺は医官だ」

優太が呆れ顔で突っ込む。

「よっしゃ! これで勝負あり、やな!」

ニャングルが嬉々として算盤を掲げた。

「さあガンドフはん、ウチの技術力、認めてもらいまっせ! 地下の隠田の許可と、秘密の密輸ルートの開通……前向きに検討してくれまっか?」

「ああ! アンタらとなら、三大国を出し抜いて最高の兵器が作れそうだべ! 喜んで協力させてもらうだべさ!」

ガンドフが満面の笑みで頷く。

圧倒的なロジックと技術の暴力によって、ポポロ村とドンガン地下帝国の『闇の同盟』が事実上成立した瞬間だった。

「……ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

その時、感動的な和解のムードをぶち壊す、地鳴りのような腹の虫の音が響き渡った。

「ゼェ、ゼェ……ユウタ殿ぉ。拙者もう、限界でござる……。早く……早く牛丼を……」

良樹が、ツルハシを杖代わりにしてプルプルと震えながら倒れ込んだ。

「我もだ……。腹が減っては、時を戻すこともできん……」

ロードも、文字通り目が死んでいる。

「……そういえば、徹夜で掘り続けて腹ペコだったな」

優太が息を吐く。ガンドフたちドワーフも、一触即発の緊張から解放され、急激な空腹を覚えていた。

「よし。良樹、見せてやれ。お前が労働で稼いだ『善行ポイント』の真髄を」

「ふはっ……! 待っていたでござるよ、その言葉を……ッ!」

中二病の青年が、フラフラと立ち上がり、天に向けて両手を掲げた。

いよいよ、地下帝国に『伝説の牛丼』が顕現するときがやってきたのだ。

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