EP 3
貫通! ドンガン地下帝国
ギュイィィィィンッ!! ガゴォォォンッ!!
ポポロ村の地下深くに響き渡る、重低音のディーゼルエンジンと油圧シリンダーの駆動音。
隠田および巨大シェルターの掘削作業は、三日目を迎えていた。
「よし、予定より30%早いペースだ。ロードの『地盤結合魔法(※本当は時間逆行)』のおかげで、落盤を気にせずフルスロットルで掘れる」
黄色い鋼鉄の重機の運転席で、優太は空中の電子ボードを確認しながら、満足げにレバーを操作していた。
「ゼェ、ゼェ……ユウタ殿ぉ……。拙者、もうツルハシを持ったまま腕がプルプルして、暗黒物質が霧散しそうでござる……。時給、上げてくれないでござるか……?」
泥だらけになった良樹が、フラフラになりながら懇願してくる。
「甘えるな。お前の善行ポイント(労働力)は、昼飯の『牛丼』で全額還元されてるだろうが」
優太が冷たく一蹴する。実際、良樹が昼に【丼マスター】のスキルで召喚した牛丼は、疲労した体に染み渡る異常な美味さだった。
「……穴を掘り、土を運び、そして己の胃袋を満たすためだけに肉と米を喰らう。これが『生きる』ということの無為なるサイクルか。……おかわり(特盛)を所望したい」
荷車を引くロード(始祖竜クロノ)が、やれやれと首を振りながらも完全に牛丼の虜になっていた。
「よし、この壁の奥の硬い岩盤を崩せば、予定の第一区画は貫通だ。……最大出力でいくぞ」
優太がショベルカーの操縦桿を深く倒し込んだ。
巨大な金属の爪が、土壁の奥にある分厚い岩盤へと激突する。
――ギギィィィィンッッ!!
「……ん?」
優太は、レバーから伝わる異様な『硬さ』と、岩を砕くのとは違う甲高い反響音に眉をひそめた。
(ただの岩盤じゃない。金属装甲を引っ掻いたような音だ。……ミスリルか何かの鉱脈か?)
優太は、一度バケットを引き戻すと、ショベルカーの油圧パワーを限界まで高め、真上からフルスイングでその『壁』へと叩き込んだ。
ズドォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!
天地を揺るがすような轟音と共に、壁が物理的に『ぶち抜け』た。
土砂が滝のように崩れ落ち、視界を遮るほどの猛烈な土煙が舞い上がる。
「ゲホッ、ゴホッ! な、なんだ!? 敵の奇襲でござるか!?」
良樹が慌ててツルハシを構えてポーズをとる。
土煙の向こう側から、優太のショベルカーの強烈なLED作業灯が、未知の空間を照らし出した。
そこにあったのは、ただの地下空洞ではなかった。
真っ赤に煮えたぎる溶炉の炎。
無数に積まれた、魔導ライフルの銃身や、大砲の砲弾。
そして、建造途中の『魔導戦車』の分厚い装甲板と、飛び交う火花。
「……ここは、軍事工場か?」
優太が、マスク越しに目を細めた。
――一方、壁をぶち抜かれた側。
「な、なんだべぇぇぇぇっ!?」
マンルシア大陸の地下に広がる、ドワーフたちの秘密国家『ドンガン地下帝国』の第4兵器工廠は、かつてない大パニックに陥っていた。
「が、ガンドフ様! 西の第8防壁が、突如として粉砕されましたべ!」
「敵襲だ! 地上の連中が、我らの地下帝国を嗅ぎつけて攻めてきたんだべさ!」
怒号が飛び交う中、防塵ゴーグルを頭に乗せた小柄で屈強な老人――ドンガン地下帝国の内務官兼、最高峰の兵器開発者であるガンドフ(80歳)は、震える手で愛用の巨大スパナを握りしめていた。
「バカな! ここは地中深く100メートルだべ! 魔法探知にも引っかからねぇはず……ッ!?」
ガンドフが崩れ落ちた壁の向こうを見上げた瞬間、彼の心臓が恐怖で跳ね上がった。
土煙を切り裂いて現れたのは、巨大な『黄色い鋼鉄の竜』だった。
魔力の気配は一切ない。代わりに、鼻をつく強烈な『燃える油の匂い(軽油の排気ガス)』と、地響きのような未知の駆動音(ディーゼル音)を轟かせている。
その竜は、見たこともない鋭い「鋼鉄の顎」を振り上げ、片目(LEDライト)で周囲をギロリと威圧していた。
「ひぃぃぃッ! 魔力を使わずに動く、未知の機甲竜だべ! なんて凶悪なツラ構えだ……地上の魔王軍が、我らを皆殺しにしに来たんだべぇぇっ!」
ドワーフの兵士たちが、慌てて未完成の魔導対空砲をショベルカーに向けようとする。
プシュゥゥゥ……。
その時、黄色い鋼鉄の竜の動きが止まり、頭部の『装甲』がガチャリと開いた。
「……静かにしろ。中に誰か乗ってるべ……!」
ガンドフが息を呑み、ドワーフ全員が銃を構えたまま固唾を飲んだ。
鋼鉄の竜から降り立ったのは、一人の人間の男だった。
動きやすいパーカーにジーンズ。そして、腰や足には【CAT(止血帯)】や【タクティカルボトル】といった、ドワーフの技術体系には存在しない、異常に洗練された野戦装備(EDC)がびっしりと装着されている。
男は、ドワーフたちが向ける無数の魔導兵器の銃口を前にしても、顔色一つ変えなかった。
ただ、呆れたように周囲の兵器群を見渡し……
「……シュボッ」
懐から軍用マッチを取り出し、靴の裏で擦って火を起こした。
「……ッ!」
その滑らかで無駄のない動きに、ガンドフは戦慄した。
(火起こしの魔法すら使わねぇ……! なんだ、あの小さな棒は! まさか、爆発物の起爆装置か!?)
男――静かなる戦術医官・優太は、無添加のタバコ『アメリカン・スピリット』をくわえ、ゆっくりと火を点けた。
そして、ふぅーっと長く紫煙を吐き出し、ガンドフたちを見下ろして、こう言った。
「……悪いな。うちの『隠田』の拡張工事で、少し掘りすぎたらしい」
「の、のうどん……? お、隠田ぁ!?」
ガンドフが目を白黒させる。
「こんなバケモノ(ショベルカー)で防壁をぶち抜いておいて、畑の工事だなんてふざけた嘘をつく気か! 貴様、何者だべ!」
「俺か?」
優太は、タバコを指に挟んだまま、平坦な声で答えた。
「ただのポポロ村の村人(医官)だ」
その冷徹な佇まいと、鋼鉄の竜を背負ってタバコを吹かす男の姿は、ガンドフの目に『大陸の全てを破壊し尽くす、死の軍団の冷酷なる指揮官』として完全に映ってしまっていた。
(こ、この男……間違いなく、ドンガン地下帝国を更地にする気だべ……ッ!)
三大国の監視網を躱すための極秘工事は、うっかりドワーフの軍事国家の天井をぶち抜いたことで、一触即発の国際(地下)問題へと発展しようとしていた。
「……おい良樹。ロード。スコップを置け。ここから先は『算盤』の時間だ」
優太の言葉に、後ろで縮こまっていた中二病と牛丼好きの竜が、おずおずと顔を覗かせた。




