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EP 2

ショベルカーと始祖竜の土方作業

ズゴォォォォォォンッ!!

ブルォォォォォォォォンッ!!

ポポロ村の地下深く。

黄色い鋼鉄の竜――地球のディーゼルエンジン駆動・小型油圧ショベルの爆音が、薄暗い坑道に轟き渡っていた。

「よし、このラインまで掘り進めるぞ。……おい新入り、手が止まってるぞ!」

運転席キャビンの中でレバーを巧みに操る優太が、不織布マスク越しに鋭い声を飛ばす。

「ふ、ふはははッ! 案ずるな! これはサボりではない! 拙者の右腕に宿る『暗黒物質ダークマター』をツルハシに充填するための、儀式的なタメ(チャージ)でござるよ!」

優太の指示を受けた良樹は、泥だらけのボロ布マントを翻し、ヘルメットを斜めに被りながら、無駄にスタイリッシュなポーズでツルハシを振り上げた。

(ちなみに、自慢の『一撃必殺浪漫砲』は優太に「邪魔だ」と没収され、入り口のテントに置かされている)

「喰らえ! 漆黒の牙……『メテオ・スマッシュ・ゼロ』!!」

カーーンッ!

良樹が叫びながらツルハシを岩盤に叩きつけるが、火花が散るだけで岩は少ししか削れない。

「……チャージ時間が長い割に、威力が伴ってねぇぞ。時給分はしっかり働け」

「ひぃっ! す、すんません! すぐやりますぅ!」

優太の冷徹な一瞥に、良樹は一瞬で中二病のメッキを剥がし、情けない声を出してシャカリキに岩を叩き始めた。

その横で、良樹が砕き、優太のショベルカーが掻き出した大量の土砂を、文句一つ言わずに(実際には文句だらけだが)荷車に乗せて運んでいる存在がいた。

「……万物は流転し、時は冷酷に過ぎゆく。だというのに、我はなぜ、ただ泥を右から左へ移すだけの虚無(シシュポスの岩)に身を投じているのだ……」

ジオ・リザードのロード(始祖竜クロノ)が、首にかけられた頑丈なロープを軋ませながら、哲学的な愚痴をこぼしてトロッコを引いている。

「文句を言うな、ロード。労働の対価として、今日の昼飯は美味い『牛丼ギュウドン』を食わせてやるでござるよ!」

「ふん。貴様のその『ドン』とやらが不味ければ、この場でストライキを起こすからな」

「おい、そこの一人と一匹。無駄口叩いてないで土砂を外に出せ。兵站基地の完成が遅れる」

優太がショベルカーの旋回レバーを引きながら急かす。

「了解でござる!」

「やれやれ……」

絶望的に噛み合わない三人の作業だったが、優太の重機による圧倒的な掘削力のおかげで、地下シェルター兼隠田のスペースは驚異的なスピードで拡大していた。

――しかし、事故は突如として起きた。

メキメキメキッ……!!

優太のショベルの爪が岩盤を削り取った瞬間。

天井付近の地層から、不吉な亀裂音が鳴り響いた。

(……チッ! 脆い断層フォールトを引き当てたか!)

優太の戦術ロジックが、瞬時に最悪の事態を弾き出す。

見上げれば、良樹とロードの頭上にある巨大な岩盤が、クモの巣のようにヒビ割れ、今まさに数トン規模の土砂となって崩落しようとしていた。

「おい、良樹! トカゲ! 下がれッ!! 落盤するぞ!!」

優太がクラクションを鳴らしながら叫ぶ。

「えっ……? ひぎゃあああぁぁぁっ!! 拙者の浪漫溢れる人生が、こんな泥臭い地下で終わるでござるかぁぁっ!?」

良樹が頭を抱えてしゃがみ込む。逃げるには遅すぎる。土砂はすでに天井から剥がれ落ちていた。

(……やれやれ。こんなところで潰されては、昼の『牛丼』が食えんではないか。世話の焼ける阿呆どもだ)

ロードは、落ちてくる巨大な岩の雨を見上げながら、深く、深くため息をついた。

そして、誰にも気づかれないように、ほんの微かに口を開き、息を吐き出した。

『プチ・ブレス(時間逆行)』

始祖竜クロノの権能。それは「時間の巻き戻し」である。

水爆並みのブレスを吐けば大陸の時間を狂わせるが、今の彼が吐いたのは、ほんの数メートル四方だけの時間を『数秒前』に戻す、極小のブレス。

ピタッ。

落下しかけていた数トンの岩盤と土砂が、空中で静止した。

そして、まるで映像の逆再生リワインドを見るかのように、パラパラと天井に向かって逆落下し、ヒビ割れていた岩盤にピッタリとはまり込んだ。

カチッ。

最後に、亀裂すらも完全に消滅し、落盤の危機は「最初から無かったこと」になった。

「…………へ?」

頭を抱えていた良樹が、恐る恐る目を開ける。

「お、落ちてこない……? 拙者の日頃の行い(善行ポイント)が奇跡を起こしたでござるか!?」

「…………」

ショベルカーのキャビンの中で、優太は目を細め、信じられないものを見るように天井の岩盤を凝視した。

(今、崩れ落ちた岩が……上に『戻った』ように見えたぞ……? いや、そんな物理法則を無視した現象があるわけない。目の錯覚か……?)

優太の冷徹な戦術ロジック(TCCC)では、「時間が巻き戻った」というファンタジーの極致のような事象は処理しきれない。

彼はロジックをフル回転させ、目の前の不可解な現象を、無理やり『この世界における合理的な理由』へと落とし込んだ。

優太の視線が、荷車を引いているロードへと向く。

ロードは「我はただのトカゲですが何か?」とでも言いたげに、明後日の方向を向いて口笛(のような音)を吹いている。

「……おい、トカゲ」

「我が名はロードだ」

「お前……今、高度な『土属性の地盤結合魔法』を使ったな?」

「…………はい?」

ロードが、思わず素のトーンで聞き返す。

「土砂の落下を魔力で強引に押し留め、一瞬で岩盤の亀裂を結合(圧着)させたんだろう。……お前、ただの荷引きトカゲじゃねぇな。地盤固めのスペシャリスト(重機代わり)として、メチャクチャ優秀じゃないか」

優太は、ロードの正体(時間を操る始祖竜)など微塵も疑わず、彼を「便利な地盤改良の魔導ツール」として超・高評価を下した。

「よし。これなら落盤の心配をせずに、ショベルカーの出力を限界まで上げて掘り進められる。……トカゲ、お前には特別手当として、今日のまかない(牛丼)を『肉メガ盛り』にしてやる」

優太の言葉に、ロードの目がピクッと動いた。

「……ふん。我は土属性などという安っぽい力を使った覚えはない。……だが、肉がメガ盛りになるというのなら、そういうこと(土の魔法)にしておいてやろう」

ロードは、哲学的なプライドをあっさりと捨て去り、メガ盛りの牛丼(労働の喜び)を選んだ。

「ちょっと! ユウタ殿! なぜトカゲばかり褒められるのでござるか! 拙者もツルハシで一生懸命――」

「お前はメガ盛りキャンセルな。さっさとそこを掘れ」

「ひどいでござるぅぅぅっ!!」

最強の始祖竜による時間逆行を「土を固める便利魔法」と勘違いしたまま、優太の掘削作業はさらなるペースアップを見せた。

そしてこの「効率最優先の突貫工事」が、数日後、ルナミス帝国をも震撼させる『トンデモない場所(ドンガン地下帝国)』へと貫通してしまう引き金になることを、この時の優太はまだ知る由もなかった。

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