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EP 10

物理的清算と元の村

赤々と燃え上がる炎が、ポポロ村の夜空を不気味に照らし出していた。

「あーあ、スッキリしたぁ! これで龍魔呂さんの笑顔を曇らせる元凶はなくなったね!」

「ええ。私たちの愛の力で、村の平和(と推し)は守られたわ!」

猛烈な勢いで炎上し、黒煙を上げる『ルナミスパーラー・ポポロ支店』の残骸(瓦礫の山)を前に、キャルル、ルナ、キュララの三人は、まるでピクニック帰りのような清々しい笑顔を浮かべていた。彼女たちの背後には「完全勝利」のオーラが漂っている。

「……お、おのれ……。我が大ルナミス帝国の極秘任務が……こんな、こんな理不尽な理由で……」

瓦礫の傍らで、ルナミス帝国の商人が涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら呻いていた。

彼は現在、全身を『逆巻きガムテープ』でグルグル巻きにされたリーザにのしかかられ、完全に身動きが取れない状態(ミイラ固め)にされている。

「ぐへへ……。店長さん、こぼれ玉がまだポケットに入ってるよぉ……。サバ缶……」

「ひぃぃぃッ! クレージーだ! この村の女どもは全員クレージーだぁぁっ!!」

そこへ、ゆっくりとした足音が二つ、近づいてきた。

「……派手にやったな」

炎の照り返しを受ける中、パーカーにジーンズ姿の優太と、赤黒いジャケットを羽織った龍魔呂が、並んで歩み寄ってきた。

「ああっ! 龍魔呂さん、ユウタさん!」

キャルルがパタパタと駆け寄る。

「見てください! 私たち、村の第一産業を脅かす悪いお店を、キッチリ排除しましたよ! これで龍魔呂さんも悲しまないで済みます!」

「……おう。よく分からんが、ご苦労だったな」

龍魔呂が、燃え盛る瓦礫の山を見上げながら、いつも通り無表情で(しかし少し呆れたように)頷いた。

「……シュボッ」

隣で優太が、無言で軍用マッチを擦った。

くわえていた『アメリカン・スピリット』にゆっくりと火を点け、肺の奥まで深く吸い込む。

「……カチッ」

龍魔呂もまた、真鍮製のオイルライターで『マルボロ・レッド』に火を点けた。

重厚なカチカチという音が、パチパチとはぜる炎の音に混じる。

二人の男は、何も言わず、ただ並んで夜空に白い紫煙を吐き出した。

「……終わったな」

優太が、アメスピの煙と共に、溜まりに溜まった疲労を吐き出すように呟く。

「ああ」

龍魔呂が、マルボロを指に挟んだまま、ヒロインたちと縛り上げられた商人を見やった。

「……やっぱ、女ってのは怒らせると一番おっかねぇな。俺には、あいつらが何にキレて店を爆破したのか、さっぱり分からねぇが」

「……全部お前のせいだ、無自覚ジゴロ」

優太が心底恨めしそうに睨むが、龍魔呂は「人聞きの悪いこと言うな」と鼻で笑うだけだった。

大国の仕掛けた巧妙な『経済工作』は、優太の冷徹な算盤ロジックでも、龍魔呂の圧倒的な暴力(鬼神の力)でもなく、ヒロインたちの「ホスト狂い(勘違い)」という究極のバグによって、完全に物理的清算を迎えたのだ。

「……おい、そこのルナミス工作員」

優太が、ガムテープのリーザの下敷きになっている商人を見下ろした。

「ほ、ほうら見ろ! 村の指導者よ! お前の女どもが我が帝国の店を破壊したのだぞ! これは国際問題だ!」

「……寝言は自分の国に帰ってから言え」

優太は、冷たい目で商人を一瞥した。

「お前が吸い上げた村人の金は、全額回収させてもらう。……それと、内務卿オルウェルに伝えろ。『次、うちの村に余計なちょっかいを出したら、帝都の真ん中にショベルカー(物理)を降らせるぞ』ってな」

「ヒッ……!! わ、分かった! 伝える、伝えるから命だけはぁぁっ!」

商人は夜空の星になる勢いで、ポポロ村から逃げ出していった。

――翌朝。

「いやぁ、目が覚めたべさ。あんな鉄の玉に夢中になって、大事なトマトを腐らせるところだっただ」

「全くだ。さあ、今日は遅れた分を取り戻すべ!」

広場からあのけたたましい電子音が消え去ったポポロ村には、再び穏やかな朝の空気が戻っていた。

すっかりパチンコの洗脳ドーパミンから抜け出し、正気に戻った村人たちが、活気ある声と共に畑へと向かっていく。

「……第一産業ヘイタンの回復を確認。被害状況、ルナミスパーラー全壊、負傷者ゼロ(工作員除く)」

優太は、空中の電子ボードにチェックを入れ、ようやく安堵の息を吐いた。

「ドブ浚いの再開だな、ユウタはん」

いつの間にか隣にいたニャングルが、算盤を弾きながらニヤリと笑う。

「まあ、ルナミスから巻き上げた金で、村の冬越しの備蓄は完璧や。結果オーライってやつやな」

「……お前が最初に店を入れたんだろうが」

優太が呆れて睨むが、ニャングルは「堪忍堪忍」と飄々と笑うだけだった。

「おーい、優太! 今日の昼飯はなんだ! 俺様、腹減って力が出ねぇぜぇ!」

畑の向こうから、イグニスが泥だらけになって手を振っている。

平和で、イビツで、騒がしい日常。

それが、優太が守りたかったものであり、龍魔呂が居場所と定めた村の姿だった。

世界最恐の戦術医官と、心優しき殺人鬼。

二人の不器用な男たちが、アホな村人たちに振り回されながらも兵站を守り抜く日々は、まだまだ終わらない。

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