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EP 9

極限の勘違いと殺意の覚醒

「ひっ、ひっ、ひっ。今日も大漁、大漁だぁ!」

ルナミスパーラー・ポポロ支店の事務所。

ルナミス帝国の特務経済工作員である商人は、机の上に広げた金貨と銀貨の山を前に、下劣な笑いを溢れさせていた。

「バカな村人どもめ。自分の生活を切り詰めてまで、ただの『鉄の玉』に有り金を注ぎ込むとは。……この調子なら、あと一週間もすれば村の兵站は完全に枯渇する。我がルナミス帝国の完全勝利だ!」

商人が勝利の美酒(高級ワイン)を煽ろうとした、まさにその時だった。

ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

突如として、店舗全体が巨大な地震に見舞われたかのように激しく揺れ始めた。

「な、なんだ!? 魔獣の襲撃か!?」

商人が慌ててマジックミラー越しに店内を見下ろすと、そこには信じられない光景が広がっていた。

「「「龍魔呂さんを悲しませる害悪施設、絶対許さないぃぃぃッ!!」」」

パーラーの入り口の強化ガラスの自動ドアが、轟音と共に『物理的』に粉砕された。

土煙の中から現れたのは、三人の女たちだった。

先頭に立つウサギ耳の村長、キャルル。

右に控える次期エルフの女王、ルナ。

左で魔導端末スマホを掲げる天使、キュララ。

彼女たちの全身からは、ギャンブル依存症のゲッソリとした疲労感など微塵も感じられない。代わりに、致死量オーバードーズに達した『推しへの愛』が、圧倒的な魔力オーラとなってバチバチと放電していた。

「な、なんだお前らは! 閉店時間はとうに過ぎているぞ!」

慌てて出てきた商人が怒鳴るが、キャルルの目にはもはや彼(店長)などゴミのようにしか映っていなかった。

「……龍魔呂さんは言った。私たちがこんなところで傷つくのは、彼の流儀に反するって」

キャルルが、ゴクリと喉を鳴らす。

「つまり、龍魔呂さんは『この村の第一産業を脅かすルナミスの遊技施設を、お前たちの手で完全排除しろ』という、無言の指令オーダーを下したんですぅ!!」

「そんなこと一言も言ってないぞ!!?」

商人がツッコミを入れるが、遅い。

「行くわよ! エルフの森の盟約にかけて、龍魔呂さんの笑顔を曇らせるこのネオンサインを、更地ゼロに還すわ!」

ルナが両手を天に掲げると、空中に巨大な竜巻と雷雲が形成され始めた。

「リスナーのみんなー! 今からこの悪徳店舗の『リアル解体作業』を配信するよぉ! スパチャは全額、龍魔呂さんへの貢ぎ物にしまーす!」

キュララがスマホを片手に、もう片方の手で高位の光魔法『ジャッジメント・レイ』を生成する。

「お、おい待て! 貴様ら、狂ったか!? お前たち、このパチンコが大好きだったじゃないか! 景品のお菓子やフルーツを欲しがって、目を血走らせていただろうが!」

商人がパニックになりながら叫ぶ。

「勘違いしないでよね」

ルナが、絶対零度の冷たい声で見下した。

「私たちが欲しかったのは、ただの銀玉や景品じゃない。……龍魔呂さんに『頑張ったな』って、頭を撫でてもらうことだけよッ!!」

「そんな少女漫画みたいな理由で、国家の経済侵略プロジェクトを物理破壊しようとしてるのか、貴様らァァァッ!?」

商人が絶望の叫びを上げた瞬間。

女たちの圧倒的な暴力(愛)が、解き放たれた。

「『超・治癒打撃ヒール・スマッシュ』!!」

キャルルの強化された拳が、一番手前のパチンコ台(CR異世界転生トラックでドン)の液晶画面を木端微塵に粉砕する。

「『精霊の怒り(テンペスト)』!!」

ルナの放った竜巻が、数十台のパチンコ台を根こそぎ空中に巻き上げ、天井に叩きつける。

「『聖なる浄化ホーリー・バースト』!!」

キュララの極太の光線が、ネオンサインや精算機、そして商人の隠し金庫までを綺麗に消し炭にしていく。

「ぎゃああああぁぁぁぁっ!! 私の、私の売上金がぁぁぁっ!!」

吹き飛ぶ店内。飛び散る数万発の銀玉。

その混沌の地獄絵図の中。

「……ぐへ。ぐへへへへ。空から、銀玉が降ってくる……」

床には、全身にガムテープを巻きつけて完全な球体ミイラと化したリーザが、吹き飛ぶパチンコ台の雨を避けながら、無心で銀玉を回収し続けていた。

「アイドルの執念、舐めんなぁぁぁっ!!」

リーザはそのまま猛スピードで床を転がり、逃げようとしていた商人の足元に激突ストライクした。

「ひぶっ!?」

足をすくわれた商人が派手に転倒し、そこへキャルルたちが静かに歩み寄る。

「……さあ。私たちの村(と龍魔呂さん)から搾取した分、キッチリ払ってもらいますよぉ?」

「ええ。銀玉一つ残さず、徹底的にね」

三人の女たちの背後に、般若のようなオーラが浮かび上がっている。

「ヒ、ヒィィィィィィッ!! た、助けてくれぇぇぇぇっ!!」

大国ルナミス帝国の巧妙な経済工作は、ただ一人の無自覚なジゴロへの『推し活』を阻害したという、あまりにも理不尽な理由によって、完全に粉砕されたのだった。

一方その頃。

ポポロ亭のカウンター席。

ドッゴォォォォォォンッ!!

遠くから、村の中心部が吹き飛ぶような凄まじい爆発音と、閃光が窓を揺らした。

「…………」

優太は、手にしたコーヒーカップをピタッと止め、虚ろな目で窓の外を赤く染める炎を見つめていた。

「なんだ? 景気よく花火でも上がってんのか」

龍魔呂が、真鍮製のオイルライターをカチッと鳴らし、煙を吐き出しながら呑気に呟く。

「……お前が、女に火をつけたんだろ」

優太は、深く、深いため息をついた。

「俺はもう知らん。……明日からまた、更地の復興作業(ドブ浚い)のやり直しだ」

静かなる戦術医官は、崩壊したロジックの残骸(行動心理学のノート)をゴミ箱に捨てると、無言で冷めたコーヒーを飲み干すのだった。

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