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EP 20

最高の宴と、世界への轟き

死蟲の残骸が転がるポポロ村の広場に、朝の光が差し込み始めていた。

「ハムッ、モグモグ……ッ! お肉ですぅ! 雑草じゃない、本物のお肉ですぅぅっ!」

広場の中央に急遽設けられた宴の席で、リーザが顔中を脂だらけにしながら、巨大なロックバイソンの骨付き肉に齧り付いていた。

その横には、すでに空になった皿が山のように積まれている。

「こらリーザちゃん、喉に詰まらせるよ? ほら、人参スープも飲んで」

「ふぁいっ! 村長もあーんしてください!」

泥だらけの服を着替えたキャルルが、苦笑いしながらリーザの口を拭いてやる。

キャルルの脇腹や背中には、優太が処置した真っ白な包帯が巻かれている。だが、もう血を吐くような無茶な治癒魔法は使っていない。軽傷者たちの手当ては、優太の指示のもと、村人たちが協力して終えていたからだ。

「ガッハッハ! 俺様の蒼い炎を見たか! あれぞ竜人族の真骨頂――って、おい! なんで誰も聞いてねぇんだ!」

ピカピカに磨き上げられた鱗を輝かせながら、イグニスがジョッキを片手に騒いでいる。

騒がしく、イビツで、底抜けに明るい日常。

優太がその身を呈して守り抜いた、ポポロ村の『兵站』がそこにあった。

「……随分と派手な代償だったな」

村の宿屋『ポポロ亭』のカウンター。

赤黒いジャケットに着替えた龍魔呂が、静かにグラスを拭きながら口を開いた。

「なに、安い買い物のツケだ」

カウンターの端に座る優太が、ぐるぐると包帯を巻かれた右手を見下ろして、薄く笑う。

絶対無効化の闘気による熱傷。完治には少し時間がかかるだろう。だが、指は動くし、メスも握れる。

コトリ。

龍魔呂が、優太の前に無骨なマグカップを置いた。

中身は、泥水のように黒いコーヒー。そしてその横の小皿には、山盛りの角砂糖。

「……ブラックじゃないのか」

「アンタが『俺の角砂糖まみれのコーヒーが必要だ』って、泣きついてきたんだろうが」

龍魔呂が、ニヤリと悪戯っぽく口角を上げる。

優太は鼻で笑い、小皿の角砂糖を躊躇なくすべてマグカップに放り込み、スプーンでかき混ぜた。

「……甘すぎる」

「だろうな。だが、疲労回復トリアージには最適だろ、センセ」

優太はマグカップを軽く掲げた。

龍魔呂も、口に咥えたマルボロを指に挟み、無言でグラスを掲げる。

カチン、と。

不器用な医官と、鬼神のバーテンダーのグラスが、静かな音を立てて交わった。

それ以上の言葉はいらない。二人の間には、血と泥と硝煙で結ばれた、確固たる『相棒』としての絆が確かに息づいていた。

――だが。

ポポロ村が平和な朝餉を楽しんでいるその裏で、世界はかつてないほどの『戦慄』に震え上がっていた。

「……報告に間違いはないのだな?」

ルナミス帝国。帝都の中枢、情報統括局。

冷徹な内務卿オルウェルが、魔導端末『ビッグ・ブラザー』のモニターを見つめたまま、低く唸った。

「は、はい! 特命役人三名の隠し口座の資金が、わずか三分で完全に掌握・凍結されました! さらに、各国の情報機関へ彼らの不正の証拠が完璧な暗号化を伴って一斉送信されています……! 我が国のサイバー防壁を、赤子のようにすり抜けて!」

「経済封鎖と、同時の社会抹殺……。恐るべき手際だ」

同じ頃、レオンハート獣人王国の王宮でも、内務官サイラスが冷や汗を流していた。

「隣村を滅ぼした『死王蟻型マザー』が……単独の村の防衛力によって物理的に『蒸発』させられただと? 我々ですら軍の一個師団が必要な化物を、一体どんな魔法で……!」

「わかりません! 観測手によれば、村の中心から『蒼い閃光』が宇宙に向かって一直線に伸びたと……っ!」

三大国のトップたちは、一様に同じ報告書を握りしめ、顔面を蒼白にしていた。

『ポポロ村』。

ただの農業が盛んな、田舎の緩衝地帯。

そう思っていた村には、大国の金融ネットワークを三分で破壊する【最強の経済部隊】と、軍隊を単騎で殲滅する死蟲の女王を跡形もなく消し飛ばす【未知の超兵器】が隠匿されていたのだ。

「……直ちに、ポポロ村周辺の部隊を全て撤退させろ。決して、彼らを刺激するな」

ルナミス、レオンハート、アバロン。

いがみ合う三大国が、この歴史上初めて、一つの意思で完全に統一された瞬間だった。

『あの村にだけは、絶対に手を出してはならない』と。

「ごちそうさまでしたぁ! ユウタさん、私、お昼ご飯はお魚が食べたいです!」

世界が恐怖のどん底に突き落とされていることなど露知らず。

ポポロ村では、食後のリーザが満面の笑みで優太の服の裾を引っ張っていた。

「……食ったばかりだろうが」

優太は呆れながら立ち上がり、視界の空中に展開された電子ボードを確認する。

現在の善行ポイント:『0p』。

(さて。また一から、ポイント稼ぎ(兵站づくり)のやり直しだ)

「おいトカゲ。水路の溝掃除の続きをやるぞ」

「だ、誰がトカゲだ! 俺様は誇り高き――って、高圧洗浄機は勘弁してくれェェッ!」

逃げ出すイグニスの背中を追いかけながら、優太の顔には、この異世界に転生してきてから初めて、年相応の『心からの笑み』が浮かんでいた。

世界最恐の武装農村。

ワケありのバカたちが集うこの温かい居場所を、中村優太は今日も『算盤』と『現代兵器』で守り抜く。

【第1章 完】

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