EP 19
運命の100pガチャ!【二人で一つの兵器】
「ギィィィィィィィィィィッッ!!!!」
村を揺るがす咆哮。
地割れから這い出た『死王蟻型』は、ポポロ村の家屋を見下ろすほどの巨体を誇っていた。
その強靭な顎の奥で、全てを溶かす超高濃度の酸が、不気味な緑色の光を放ちながら圧縮され始めている。
あれを一発でも吐き出されれば、防壁はおろか、村の半分がドロドロに融解するだろう。
「……時間がねぇぞ、医者」
強化アーマーを軋ませながら、龍魔呂が鋭く告げた。
「ああ。分かってる」
優太は火傷を負った右手を引きずりながら、視界に浮かぶ電子ボードを睨みつけた。
『現在の善行ポイント:100p』
(魂の熱量に依存する、不確定な運命のルーレット。……上等だ。俺の戦術と、こいつの覚悟、全部乗せて回してやる)
優太は、血と泥に塗れた指先で、黄金に輝く『100p特別機能』のアイコンを、力強く叩き割るようにタップした。
『――ポイント全消費を確認。運命に干渉します』
ピィィィィンッ!!
無機質だった半透明のボードが、突如として眩い『虹色の光』を放った。
パチンコの大当たり(プレミアム)を思わせる、激熱の光の奔流。
その光が優太の頭上へと収束し、空中に巨大な魔法陣にも似たデジタル幾何学模様を展開する。
ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!!
泥の広場に落下してきたのは、全長3メートル、重量数百キロを超える『黒鋼の塊』だった。
「……なんだこりゃあ」
龍魔呂が目を丸くする。
土煙の中から姿を現したのは、戦車砲すら凌駕する極太の砲身。
地球の最新軍事技術の結晶――『超大型電磁加速砲』の試作機だった。
だが、砲身の側面に備え付けられた小型モニターには、赤い警告文が点滅していた。
『※警告:本兵器の運用には専用装甲車が必要。歩兵単独での発射は、反動による射手の致死率99.9%。ロックを解除しますか?』
「……一人じゃ反動で死ぬ、か」
優太は笑った。
「なら、二人で撃てばいい」
優太が視線を向けると、龍魔呂はすでに強化アーマーのサーボモーターを唸らせ、レールガンの横に立っていた。
「俺を三脚にする気か。……人使いの荒いヤブ医者だ」
龍魔呂は不敵に笑い、レールガンの巨大な砲身を両腕でガッチリと抱え込んだ。
ガシャンッ! ガシャンッ!
強化アーマーの脚部から鋭い金属杭が射出され、ポポロ村の岩盤深くまで突き刺さる。
男の鋼の肉体と、アーマーの重量が、文字通り『絶対にブレない砲台』と化した。
「固定完了。……撃ち抜け、優太!」
「了解だ、相棒」
優太は龍魔呂の背中に密着するように立ち、レールガンの後部にある照準器を覗き込んだ。火傷を負った右手と、無傷の左手で、重いトリガーを握りしめる。
静寂。
暴風の吹き荒れる戦場の中で、優太の『戦術脳』が恐るべき速度で計算を始める。
(距離120。風速、南南東へ7メートル。目標、死王蟻型の頭部・酸の圧縮器官)
ウィィィィィィィィン……ッ!!
電磁加速砲のコンデンサが、莫大な電力をチャージし、青白いプラズマの火花を散らし始める。
目標のクイーンも、こちらを最大の脅威と認識し、緑色の酸弾を放とうと顎を大きく開いた。
コンマ一秒の、死の駆け引き。
優太は、息を吸い、そして――止めた。
「――射撃管制、クリア」
優太の指が、トリガーを引き絞る。
ズドパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!
落雷の数十倍の爆音が、マンルシア大陸の空気を完全に叩き割った。
銃口から放たれたのは、弾丸ではない。
マッハ7(秒速2キロ)を超える速度で撃ち出されたタングステン弾芯が、大気との摩擦でプラズマ化し、『蒼い閃光のレーザー』となって一直線に夜空を貫いたのだ。
「オオオオオオオオッッ!!」
「チィィィッ!!」
発射の凄まじい反動が、龍魔呂のアーマーの装甲を軋ませ、固定した地面をクレーターのように陥没させる。
優太の腕の骨がミシミシと悲鳴を上げるが、龍魔呂の肉体がその衝撃の九割を受け止め、砲身のブレを完全に殺し切った。
一直線に放たれた蒼い閃光は、死王蟻型の吐き出そうとした酸弾を真正面から蒸発させ――そのまま、巨大な頭部から胴体へと、一切の抵抗を許さずに貫通した。
「ギ、ェ……」
死王蟻型の時間が、止まった。
その巨体の中心に、直径一メートル以上の綺麗な『円形の穴』が開いている。
遅れてやってきた超音速の衝撃波が、怪物の内側からすべてを粉砕した。
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
ポポロ村を絶望の淵に追いやった死王蟻型が、大爆発と共に木っ端微塵に吹き飛んだ。
女王を失った空の死蟲たちも、統率を失って次々と墜落し、機能を停止していく。
夜空を覆っていた黒雲が晴れ、輝く満月がポポロ村の広場を照らし出した。
「ははっ……。やりやがった、あの野郎ども……」
イグニスが、尻餅をついたまま空を見上げて笑った。
土煙が晴れた広場の中央。
赤く焼け焦げたレールガンの砲身を支えたまま、膝をつく龍魔呂。
そして、その背中を預けるようにして、荒い息を吐きながら座り込む優太。
静かなる医官と、死を呼ぶ四番。
決して交わるはずのなかった二人の男が、ポポロ村という小さな箱庭で、一つの強固な『兵站(絆)』を結んだ瞬間だった。




