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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
最終章 テラース最終戦争篇
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0099 魂

 レイド・サム公国海軍は、西海洋海戦の結果を知り、愕然としていた。大艦巨砲主義が既に過去のものとなり、これからは航空主兵主義の時代が来たのだ。苦肉の策としての装甲空母もまた、万能では無い事実を知らせていた。幾ら防御力が高くても、浮かんでいる軍艦は攻撃を受ければ、当たり所を間違えれば一撃で沈む。今の所、レイド・サム公国海軍第一航空艦隊の保有する空母は、6隻。その搭載機数は1隻につき平均65機。だが、マッドネリー諸島海戦にて消耗率が高かった爆撃機と雷撃機がまだ補充が出来ていない。

 装甲空母の限界。戦艦の限界。そして、レイド・サム公国海軍の限界。どう足掻いても、世界一の海軍力は手に入らないのか。いや、そもそもソメリト合衆国を仮想敵国として、あの「盤土戦争」の頃から、あの国の天下を阻止する為に準備し続けたのに、それが間違えていたと言うのか。

 いや、その基本的な指針は間違いでは無い。ただ、戦い方を間違えたのだ。何処でどうやって? 重商主義にて、あらゆる産業を育てて、国力を強くしてきた。その時点で、間違いだったのかも知れない。戦争以外のやり方で、やるべきだったのかも知れない。軍内部では、西海洋海戦の敗北と北ソメリト戦線の消滅の時点で、同盟軍の敗北は確定したと言う方向に考えが傾いていた。

 次にソメリト合衆国が狙うのは、こちらだ。西海洋の制海権を握った今、全力をあげてこちらの、大海洋の制海権も取りに来るに違いない。何処で戦うべきか。逆にこちらから攻め込むべきか。マッドネリー諸島海戦では、こちらの判定負けに終わった。もう一度、艦隊決戦を行うべきだ。と言う声もあったが、こちらから攻め込もうにも、爆撃機と雷撃機の補充に関しては、機体は兎も角、搭乗員の練度に不安が残る。

 そうこうしている内に、「さらと」級6万トン戦艦の2番艦、「むらせ」が就役していた。40.6㎝砲3連装3基9門と言う攻撃力は兎も角、防御力は今の惑星「テラース」に存在しているあらゆる戦艦の中で、最も高いと保障出来た。

 「さらと」「むらせ」、この2隻の6万トン級戦艦を中心とした第1艦隊は、世界最強の艦隊だった。西海洋海戦の敗北は、それを過去のものにしていた。沈められた大型戦艦は4万トン級と、図体だけを見れば小さいが、それでも航空機の前には赤子同然であると証明されてしまった。そして、この海戦にて証明された装甲空母の弱点。攻撃力と防御力の不均衡に関しても、課題山積である。

 「聯合艦隊幕僚司令部」は、この状況を政府に包み隠さずに伝えていた。もうソメリト合衆国大海洋艦隊の、残された2隻の正規空母は修理が完了している。航空戦力については互角かやや有利程度である。戦艦の数と質では、こちらが上回っているが、そんなのは自慢にも何にもならないのは証明された。

 政府の方でも、この戦争の行く末について悲観論が出始めていたが、首相は頑として降伏論を相手にしなかった。桂田之ミキオ首相は、「本土決戦に至るまで戦うべき」として、聯合艦隊に戦争の継続を命じていた。


 F5F戦闘機は、空母の飛行甲板の着艦ロープをフックでとらえて、分厚い装甲と頑丈な構造、その機体を高速で引っ張っていける馬力のエンジンが、空母の飛行甲板に止まる。

 次の戦闘機、F7F戦闘機は、よりパワーのある、より頑丈な構造をしている、量産可能な機体とされている。既に試作段階は過ぎて、これから量産に入る予定だそうだが、前線に現れるまでには、もう少し時間がかかりそうだ。

 少なくとも、次の艦隊決戦には間に合いそうには無い。ソメリト合衆国海軍諜報部門は、レイド・サム公国海軍聯合艦隊が、今一度、マッドネリー諸島への侵攻作戦を立てていると言う情報を齎していた。


 メリー姉さんこと、メリー・マテウスと、助手のフェルニナ・ケールは、その巨大な合衆国の魂そのものと言える戦闘機を眺めながら、自分達が乗せられている空母を見て、造り立ての空母の香りと言うのを、胸いっぱいにまで吸い込んでいた。

 40隻と言う大量発注が国中の造船所に命じられた3万トン級大型空母、搭載機数100機、速度32ノットの怪物空母が、「マリネス」級空母の1隻目が、遂に大海洋艦隊に配属されたのだ。


「最新鋭の空母の乗り心地はどうかな、メリー姉さん」

「まぁまぁです、艦長。ただ、この間まで乗っていた戦艦よりも、揺れが大きいです」

「戦艦は大きくて頑丈ですからな。この空母、取り敢えず急拵えで大量に造られているからな。就役してからまだ2ヶ月しか経っていない。乗員もようやく慣れてきたところだ。これから行われる艦隊決戦で、何処まで出来るか。君はどう思う?」

「戦い方次第では、負けます」

「そうか、手厳しいな。こちらは月に1隻のペースで「マリネス」級空母が造船廠から出てくる。早い話が、同士討ちでも我が軍は勝てる。どんなに犠牲を払ってでも、マッドネリー諸島を守る」

「その為に必要なのは、どんな作戦ですか」

「作戦? そんな物は必要ない。小手先の小難しい策は要らない。力尽くだ」

「正しく、ソメリト合衆国らしい発想です。敵も同じだと良いのですが」

「敵の出方は知らん。だが、先に奇襲してきたのは、戦争を仕掛けてきたのはあいつらだ。やつらの指導者を戦犯として裁くまで、この戦争は続けるべきだ。どんなに犠牲を払ってでもな」


 メリー姉さんは、その艦長の怒りの根源は何処から来るのか。気になってしまっていた。少しセコいやり方ではあるが、フェルニナに聞いてみると、意外な返事を聞けた。

「あの人、多分、あの奇襲で処分された空母の艦長ですよ。自分の船が無防備に沈められるところを見たんでしょうね」

 それは、屈辱以外の何物でも無いだろう。トラウマものだ。乗っていた乗員も、殆どが戦死していると思えば、あの程度の怒りは当然だ。だが、それだけでは何処か納得できなかった。後で調べてみたところ、どうも息子と娘が戦死している事が判明していた。息子は、奇襲時に空母ごと焼かれて、娘はマッドネリー諸島海戦にて戦姫として参加し、敵の戦闘機の20ミリ機銃でその身を砕かれたという。

 残されたのは、妻だけだ。孫はいないらしい。もしかすれば、この妻だって未亡人として人生を生き続ける羽目になるかも知れないのだ。1人、家で孤独に、あるいは晩年は施設にて、最期を迎えることになるのだ。

 メリー姉さんは、突然、湿っぽい気分に陥ってしまった。こんな形で戦争に勝って、何が欲しいのだろうか。同盟軍は何処まで抵抗を続けるつもりなのか。似た様な境遇の遺族なんて、敵味方双方に何万と居るに違いない。彼らが、彼女らが、その幸せで豊かな生活を返上してまで殺し合い、傷つけ合うだけの理由があるのだろうか。

 あのフェルニナ・ケールの様に、隻腕・隻眼になってまで生きていけるのか。彼女は、それでも人生を見失わずに生きているが、それは他に生き甲斐があったからだ。もし全てを失ったとして、それでさえ生きていかなければならないとすれば、そこまでこの戦争を戦い抜く理由は何なのだろうか。

 空母3隻に積み込まれた300機の戦爆雷攻撃隊、それのみが、今のソメリト合衆国大海洋艦隊のカードである。次も大勢のセーラーが、海の中で朽ちていき、大勢の遺族が発生するのだ。生きている人間同士の戦いであり、兵器の潰し合いなんてスマートなものではない。ヒーローもヒロインもいない。生きるか死ぬか、仮に生き延びたとしても、この助手の様に片腕・片目を失った様に、傷ついて戻ってくるのだ。


 第二次マッドネリー諸島海戦の始まりは、近づいていた。


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