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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
最終章 テラース最終戦争篇
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00100 鉄と血と涙

 レイド・サム公国海軍聯合艦隊が再び立案したマッドネリー諸島攻略戦の骨子は以下の通りである。

 先ずは航空戦力にて、敵艦隊の空母を叩き、その間に戦艦部隊でもって敵艦隊に突入、その巨砲でもって決着をつける。と言うものである。今度は戦艦部隊を航空機で叩く様な真似はしない。第一目標、空母。第二目標、空母。第三目標、空母だ。

 諜報部門からは、ソメリト合衆国が大量生産に踏み切った大型空母が前線に出てきたと言う報告もある。搭載機数は多く見積もって100機、速度30ノット以上、排水量3万トン級の化け物が、噂では数十隻発注されたらしい。それが出てくる前に、本当は決着をつけるつもりだったのだが、現実はこの通りだ。

 お互いに、水上戦姫部隊から斥候を出して、偵察活動を行っている。双方の位置はすぐに把握できていた。レイド・サム公国海軍第一航空艦隊は、すぐ様攻撃準備に入る。6隻の装甲空母の平均搭載機数は65機。それを2波に分けての攻撃である。


ソメリト合衆国大海洋艦隊は、全戦闘機を直衛機として艦隊上空にあげると、旗艦空母「マリネス」をはじめとする新造の巡洋艦や駆逐艦を中心に輸形陣を組んで、レイド・サム公国の航空隊を迎え討つ態勢を取っていた。F5F戦闘機が、蒸気カタパルトでもってその巨体を打ち出されて、空へと飛び立っていく。その数、120機である。兎に角、制空権を奪取してしまえば、他の戦艦や巡洋艦は動く「的」に過ぎない。そして、制空権の要を握るのは「戦闘機」だ。


 メリー・マテウス、メリー姉さんは、助手のフェルニナ・ケールと共に遠目に空中戦を見守っていた。元戦姫で、戦場にいたフェルニナは、メリー姉さんに説明する。

「レイド・サム公国海軍の航空機は、エンジンの出力が弱いんです。非力なエンジンの為に、燃料タンクやパイロット保護用の防御装甲を一切備えていません。だから、攻撃を受けると派手に燃えます。こちらのF5Fは、燃料タンクは特に重点的に防御されているので、墜ちる場合は火を噴かずにそのまま墜ちていきます」

 と、言うのだ。それが正しいとすれば、この空戦、第1ラウンドはこちらのコールド勝ちだ。敵の逆ガルが特徴的な99式戦闘機は、派手な炎を上げて次々と墜ちていく。数が圧倒的に違うのだ。遠目に見た敵の編隊は、こちらのF5Fと同数程度であった。その内、戦闘機の比率がどの程度なのかまでは分からなかったが、こちらの数でゴリ押しした結果、第1波の攻撃隊は壊滅状態で、引き返していた。

 空中戦を終えて、帰還してきたF5F戦闘機は、98機。その内、戦闘に耐えられないのが7機。タフネスな「戦闘機」であり、「我こそは戦闘機」と名乗ってもいい戦いぶりだ。


 一方、第1ラウンドでコールド負けした第1航空艦隊は、その損失に驚いていた。第1波に投入した戦闘機50機、爆撃機36機、雷撃機22機は、その大半が撃墜されて、逃げ延びた数機だけが母艦に帰り着いていた。

 どうする、第2波はもう発艦してしまった。このまま突っ込ませるべきか。そうするしかない。今更引き返したとしても、戦艦部隊は敵艦隊に向けて進軍中だ。確認できた敵空母は3隻。この3隻さえ沈めれば、いや、飛行甲板に直撃を浴びせれば、何とかなる。


第2ラウンドに間に合ったF5F戦闘機は78機。何機かは直衛機を突破して、艦隊に爆撃なり雷撃なりやってくると思っていたが、それは杞憂に終わる。今回もまた、次々と火を噴いて墜ちていくのは敵機ばかりだ。第2波に投入したレイド・サム公国海軍の航空隊は、戦闘機42機、爆撃機31機、雷撃機19機。78機のF5F戦闘機であれども、1機1殺で刺し違えたとしても、残りは爆撃機や雷撃機に攻撃できるので、僅かな生き残りは攻撃を断念して爆弾や魚雷を投棄して退避した。

 第二次マッドネリー諸島海戦の、航空機での戦いは、これで終わった。ソメリト合衆国大海洋艦隊の圧勝である。残されたのは、航空支援を受けられる、と思い込んでいる6万トン級戦艦2隻を中心とする戦艦部隊だけである。

 どうする、これも始末してしまうか。あるいは空母を叩くべきか。議論になった末に、攻撃力を亡くした空箱の空母ではなくて、戦艦を始末する事に決まった。こちらの斥候が確認した、識別表に無い一番大きな戦艦の内、少なくとも1隻は始末するのだ。敵は制空権を失った。後はこちらのやりたい放題だ。


「航空隊は何をしている! 1機でも良いから戦闘機を寄越せってんだ!」

「こっちの弾、全然当たらねぇ、もっと良く狙え!」

「左舷被雷! 繰り返す、左舷被雷!」

「爆弾だ、丸いぞ。こっちに来るぞ!」

「こんなの、ありかよ! こんなのありかよぉ!」

「熱い! 熱いよ! 痛いよ、熱いよ、痛いよぉ」

「総員最上甲板に集合。繰り返す、総員最上甲板に集合」


 戦艦「さらと」は、魚雷12本、爆弾9発を受けて、浸水に耐えきれずに沈んでいった。旗艦の戦艦を沈められたとして、完全に戦意を喪失したレイド・サム公国海軍の聯合艦隊は、これ以上の損失には耐えきれないとして撤退を決断していた。

 今回は、判定に頼る事も無く、明確な形で決着が付いていた。ソメリト合衆国大海洋艦隊の勝利だ。空母はその航空隊の大半を失い、世界最大の戦艦を擁する戦艦部隊も旗艦が沈められている。

 しかし、この完全勝利に泥を塗る事故が起きていた。


 被弾して、フラフラ飛んで空母「マリネス」に辿り着こうとしていた爆撃機が、そのパイロットが騙し騙し飛ばして、母艦にまで辿り着いたのだが、その爆撃機は途中でコースを変えて、事もあろうに艦橋に激突していた。

 メリー姉さんとフェルニナは別の所に居たので助かったが、艦長は飛んできた爆撃機の破片を受けて負傷、後に死亡した。事故死とは言え、戦死である。

 メリー姉さんは、天を仰いだ後で、今度は大海原を見下ろす。この海を舐めたら、今は油と血の味がする筈だ。いや、それに加えて、涙の味もする筈だ。フェルニナは、元戦姫だけあって、冷静に事の顛末を見ていた。ついこの間まで生きていた人が死んでいなくなる、と言う非日常に免疫が出来ているフェルニナは、それでも自分の私物のカメラでその光景を撮る様な真似はしなかった。人としての常識まで捨て去った訳では無い。


かくして、第二次マッドネリー諸島海戦は終結した。レイド・サム公国海軍は、ようやく再建したばかりの航空戦力をほぼ完全に失い、頼みの綱の新型戦艦も撃沈されていた。

 そしてその日、F5F戦闘機の後継機、F7F戦闘機がソメリト合衆国の航空機工場から一番機がロールアウトした日でもあった。レイド・サム公国海軍最後の日が近づいていた、正にその瞬間であった。


デイリー・ステート新聞の編集部は、ダイヤモンド湾の支社に居るメリー姉さんに一報を送っていた。

「すぐ本社に来い。次の仕事だ」

 また大きな作戦でもやるのか。政府のお歴々は、余程早い内に戦争を終わらせたいのに違いない。既に主戦場になっている2つの大洋の制海権はソメリト合衆国のものだ。同盟軍の優位は崩れ去っている。とは言え、まだまだ次の大掛かりな作戦なんて、出来るのだろうか。

「準備が整うのを待っていたら、戦機を逃しちゃいますからね。準備はするに越した事は無いですけど、あんまり待っていたら、敵の体勢も整っちゃいますからね」

 フェルニナは、そう言いながら本土へと向かう輸送機に乗るべく、荷物を纏め始める。次は西海洋で、大きな作戦だ。西海洋に、そんな大きな作戦を行う場所があっただろうか。メリスト連邦王国への本土上陸作戦は時期尚早である。だとすれば、あそこしか無い。あそこを抑えれば、メリスト連邦王国、ダロス皇国、クァンタム共和国が、こちらの爆撃機の爆撃圏内に入る。

 次もまた、手酷く死ぬだろう。また血と鉄と涙が、海に呑まれていくのだ。そこにどんな意味があって、どんな理由があるのかなんて、もはや誰にも分からない。


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