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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
最終章 テラース最終戦争篇
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00101 もののあわれ

 北ヴィクター大陸の西海洋の北の海に浮かぶ島、今はメリスト連邦王国領の、かなり大きな島である。住民は居ない。水産物では元は取れず、大した資源も無い、産業が根付いていないが故に住民は居ない。但し、重要な軍事拠点として、大きな飛行場が運営されている。ソウルブリザード戦闘機、メリスト連邦王国空軍が世界に誇る水冷エンジンを積んでいる傑作戦闘機、それにかつて北ソメリト戦線にて猛威を振るったメロン・ブレンバスター四発爆撃機が多数配置されていた。

 守備隊にも、充分な戦力が配置されている。機甲ロボ、戦姫、巨神、艦隊こそ居ないが、無補給でもある程度は持ち堪えられる物資も蓄えてある。

 何しろ、メリスト連邦王国を筆頭とする同盟軍は、その海軍力を大きく削がれている。西海洋の制海権は完全にソメリト合衆国に奪われている。メリスト連邦王国海軍の西海洋艦隊は、その主力を全て沈められており、この島、アイスベータ島の制海権は保てていない。ソメリト合衆国西海洋艦隊が全力で奪還しに来たら、勝負の行方は補給次第になる。


 冷たい海の上に吹き荒ぶ寒風の中で、ジェリア・アキリキは偵察で空を飛び回っていた。こんなに環境が悪い島であり、人が住むのに全く適していない島ではあるが、ジェリアは気に入っていた。基地での不味い飯も、冷たい寝床も、もう気にならない程度には平気になっていた。

 今はもう気にならない。むしろ、此処には余計な人間関係が少ないから、むしろ快適なくらいだ。噂によれば、ソメリト合衆国西海洋艦隊が攻めてくると言う話であるが、来たら来たで、どうにかなるだろう。

 大海洋では、同盟軍の一翼を担うレイド・サム公国海軍が手酷く敗退したらしい。北ソメリト戦線も維持できずに敗退した。反攻作戦に出てくるのであれば、真っ先に攻め込まれるのは此処だ。

 しかし、本国のお偉方は呑気な態度である。ソメリト合衆国の反攻作戦は、まだ1年先になるとして戦備計画を整えているらしいが、甘い見通しだ。海軍を失ったメリスト連邦王国が、どうやってこれを退けられるというのか。

 あの西海洋海戦が終わってから、もう数ヶ月は経ったのだろうか。その間に、第二次マッドネリー諸島海戦にてレイド・サム公国海軍聯合艦隊は、航空戦力と自国海軍を象徴する巨大戦艦を失っている。1年程度で再建するのは難しい。何より、1年経てばソメリト合衆国も緒戦の痛手から立ち直り、こちらに攻め込んでくるだろう。そうなった時、一体どうやってこれを阻止するというのか。

 ジュリアは、寒風吹き荒ぶ空を飛びながら、同じ高度の空にて、何かが見えた。こちらと似た様な服装に、腰に提げた剣、背中に背負った無線機、美しい女性。間違いない、戦姫だ。しかし、こちらの味方では無い。ソメリト合衆国の戦姫だ。こちらと同じ、偵察だろう。

 こんな所に来る戦姫であったら、恐らく、否、絶対に水上戦姫部隊だ。と言う事は、大規模な艦隊が近づいているのだ。チクショウ、何が1年先だ。あの西海洋海戦が終わってから半年程度で、反転攻勢に出たでは無いか。ダロス皇国海軍も西海洋海戦にて敗北して全滅している。クァンタム共和国、ロッシナ連邦の海軍には頼れない。弱すぎる。

 アイスベータ島を占領されたら、ソメリト合衆国の戦略爆撃機の爆撃範囲内に、メリスト連邦王国はスッポリと覆われてしまう。そうなったら、同盟軍は瓦解する。しかし、アイスベータ島はそこまでメリスト連邦王国から離れているわけでは無い。援軍を送るのは無理でも、航空隊による航空支援は可能だ。もう少しは抵抗できる筈だ。


ジュリア・アキリキ戦姫軍曹の報告を聞いたメリスト連邦王国空軍は、偵察機を送り込んで、その艦隊を捉えていた。ソメリト合衆国西海洋艦隊の全戦力が投じられている陣容である。大型空母の中には、識別表には無い空母が2隻、増えていた。軽空母も増えている。新型と思しき巡洋艦や駆逐艦も見受けられる。


 暑い大海洋の次は、寒い西海洋の防空戦艦「アステア」に乗せられたメリー姉さんこと、従軍記者メリー・マテウスと助手のフェルニナ・ケールは、何とか寒いのには慣れ始めていた。この鉄の板切れ1枚下は、冷たい死の世界だ。この市の世界に、一体どれだけのセーラーが投げ出されて、冷たい海の中で骸になっていくのか。

 メリー姉さんのこの心情の変化に、フェルニナは気が付いていた。だからこそ、黙っていた。元戦姫として、大勢の戦友との別れを経験してきたフェルニナには、その心情は理解出来ないものではなかった。隻腕・隻眼になっても尚、此処に居るのは純粋に自分の意志で、自分の目標の第一歩の為である。

 フェルニナは、冷たい西海洋の北の海にて、寒風が吹き付ける中を波を砕いて進む大艦隊を見て、この戦争はソメリト合衆国の勝利に終わると確信していた。同盟軍は、もっと反攻作戦が先になると見込んでいたに違いない。ここまで進撃するのに、同盟軍艦隊は無抵抗そのものであり、あの海戦でのダメージから復旧できていない証である。

 西海洋艦隊の守る輸送船団には、上陸軍と、何よりも大事な代物、ビーイング32戦略爆撃機が分解して積み込まれている。ヴィクター大陸のほぼ全域を、この爆撃機は飛び回れる。大海洋でのレイド・サム公国海軍の抵抗は、暫くは無いだろうから、こちらに幾らでも戦力を投じる事は出来る。

 どうやっても、今の同盟軍にこの艦隊を退ける力は無い。かなりの間、抵抗できるのは確かであろうが、それは延命措置にしか過ぎない。レイド・サム公国海軍も、1国のみで抵抗し続けるのは無謀であるとして降伏してくるだろう。それでも、意地を張って抵抗してきたら、こちらの人的資源が尽きてしまう。

 大海洋艦隊から派遣された防空戦艦「アステア」は、護衛している輸送船団の先頭を航海しながら、寒い海の上を走る。この先に待っているのは、地獄である。幾ら大艦隊を用意しても、犠牲者は必ず出る。寒い海に落ちたら、1秒もしない内に心臓が止まって死ぬ。フェルニナ・ケールには、その覚悟がある。と言うよりは、愚鈍と慣れにて感覚が麻痺している。メリー姉さんは、この間の第二次マッドネリー諸島海戦での経験が、尾を引いているらしい。

 死。それは如何にもならない。その如何にもならない事に関わるのが、こんなにも辛いのか。従軍記者として、戦地を往来していく内に、メリー姉さんの心は明らかに摩耗していた。フェルニナ・ケールには、それが分かる。実際に戦場に出た兵隊、戦姫の中にも、それで心を壊して、後方に送り返されていく者も居る。軍人として訓練されていない従軍記者とて、例外では無いだろう。

 そうなったら、その時はその時だ。人間に、個人に如何にか出来る事は、あまりにも小さくて弱い。1人を救うのには、1人ではどうにもならない。それこそ、1万人が救おうとしても、1人の人間も救えない時がある。この世は理不尽だ。だからこそ、生きる価値がある。なんて禅問答はしない。生きるか死ぬか。それだけだ。


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