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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
最終章 テラース最終戦争篇
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0098 燃える海

 駄目だ。このままでは艦隊は全滅、最悪の場合、輸送船団も沈められる。艦隊が全滅するよりも、輸送船団が積み込んでいる物資や人員を呑み込んだまま沈んでしまう方が問題である。

 艦隊を救い、輸送船団も救う方法は、これしかない。しかし、船団の積み荷だけは絶対に北ソメリト戦線へと、キリト国の港に届けなければならない。


 ソメリト合衆国西海洋艦隊は、旗艦戦艦「ネース・カルライナ」を先頭に、一本槍の陣形でもって、同盟軍艦隊の残存戦力に突っ込んでいた。しかし、こちらの主砲の射程範囲内に敵をおさめる前に、艦隊が、船団が、散り散りになって行くのが見えた。

 どうやら、同盟軍艦隊は艦隊を、船団を解散して、各輸送船でもってバラバラに目的地へと向かうつもりらしい。ギリギリまで頑張るつもりだそうだが、これを逃す手はない。艦隊司令部は、全艦に指示を出す。

「護衛の艦艇や空母には構うな。輸送船を狙え」

 単縦陣でもって突っ込んでいくソメリト合衆国西海洋艦隊は、蜘蛛の子を散らす様にバラバラになっていく輸送船団に向かって、突っ込んでいく。遅発信管でもって、脚の鈍い輸送船へと主砲弾を撃ち放つ。

 初弾命中。これは良い傾向だ。こちらの砲手と、射撃システムが優れている事実を証明している。同盟軍艦隊の旧式戦艦も応戦するが、船団を守るべきか、あるいは逃げの一手を打つか、判断に迷う内に敵弾を受けるか、砲撃のタイミングを逃すか、そのどちらかであった。


 メリー姉さんことメリー・マステアは、「カオス」そのものと化している海戦模様をカメラで撮影していた。しかし、撮影しているのは敵の艦隊や輸送船団を散々に撃ち、沈めている味方の戦艦では無い。西海洋の海原にて、沈没する船や、炎上している船から逃げようとして、生き延びようとして足掻いている水兵達であった。

 助手のフェルニナ・ケールは、弾着観測をしている戦姫を見上げながら、古巣での生活を思い出していた。あの生活は、今思えば塩っぱくて苦くて、複雑な気持ちになる記憶であった。嫌な記憶ではなかったが、決して甘くて美味しい記憶では無い。

 今後は、もう「戦姫」が主役となる戦いは無いだろう。用済みにこそならないだろうが、以前よりかは優先順位が下がるのは仕方が無い。

 しかし、西海洋の制海権はこれでソメリト合衆国海軍が握ったも同然となったのだが、大海洋の制海権はまだレイド・サム公国海軍が半分、握っている。同盟軍艦隊の中で、まともな艦隊を保持しているのは、これでレイド・サム公国だけとなっている。連中がこれからどう言う戦いをするのか。

 その時、あの懐かしい防空戦艦「アステア」がどう活躍するのか、気になるところである。もうあの頃とは違い、正規空母が2隻、修理が完了している。以前の様な悲惨な戦いにはなるまい。次、戦場になる場所としては、矢張りマッドネリー諸島であろうか。それより南の島々へと侵攻するのは、危険が大きすぎる。

 隻腕・隻眼になって、軍籍から抜けた身であるが、フェルニナは私物のカメラで弾着観測の戦姫を撮影していた。フイルムが尽きるまで。


 西海洋海戦と呼ばれる海戦は、それから数時間後には終わっていた。同盟軍艦隊は主力である大型戦艦を全て失い、装甲空母も1隻が戦艦の主砲弾から逃れきれずに、飛行甲板に2つの大穴を穿ち、撃沈していた。守るべき輸送船団も、船団解散でもってリスクを減らそうとした。ベターな判断であり、あの段階ではむしろベストと言っても良い決断であったのに、現実は厳しい。3分の1は沈められて、もう3分の1は元来た道を引き返して母国に戻り、最後の3分の1はどうにかキリト国の港に辿り着いていた。


 デイリー・ステート新聞の編集部は、この写真と記事を認めるべきか苦慮していた。メリー姉さんが撮影してきた写真は、敵の軍艦が燃えて沈んでいく場面もあれば、輸送船が積み荷ごと炎上して、そこから船員が海への絶望的な避難を試みている場面もあった。輸送船の船員は軍人では無く民間人である。その海の男達が、燃え盛る甲板で松明の如く燃えている、あるいは燃えながら海に落ちる、そんな写真を新聞に採用すべきか。

 編集部では、賛成と反対で3対1と言った比率であった。そこまで劣勢ではない賛成派が、どうして即掲載に踏み込めないのかというと、国防省や政府から検閲を受ける可能性を考えると、あるいは国内に存在する過激な連中から「利敵行為である」として因縁をつけられる、までなら良いが、最悪「殺害予告」、あるいは本当に殺される可能性だってある。

 結局、賛成派は幾らかは妥協した。数ある船員の写真の中で、1枚だけ載せる方向で決着が付いた。

「同盟軍艦隊 船員守り切れず大敗」

 と言う文言と共に、その写真はデイリー・ステート新聞の一面とまでは行かなくとも、裏面にひっそりと載せられていた。一面を飾ったのは、黒煙を上げて燃える同盟軍艦隊の装甲空母の写真と、フェルニナ・ケールが私物のカメラで撮影した弾着観測の戦姫の写真であった。


 海戦の結果を受けて、北ソメリト戦線にて激しい攻勢に出ていた同盟軍は、その大規模な攻勢を支える補給ルートが断たれたとして、一気に攻勢から守勢に回っていた。中には、降伏する気の早い部隊もいたが、これは程なく正しさを証明される結果となっていた。

 北ソメリト戦線へと派遣された陸軍部隊は、1度越えた国境線からキリト国へと戻り、西海洋からでは無く、大海洋からのルートで、メリスト連邦王国海軍大海洋艦隊の護衛でもって、アスラン大陸のロッシナ連邦の港まで運ばれていた。名実共に「撤退」である。

 勝利だ。勝ったのだ。同盟軍相手に戦い、その戦線を崩壊せしめたのだ。こちらから攻めるのには、まだまだこちらも準備が必要である。それに、海軍相手ではまだレイド・サム公国海軍が居る。戦局はまだ予断を許さない状況である。


メリー姉さんは、実際に売りに出された新聞を、自分の目で確認していた。「ベリネスタル」級装甲空母が、戦艦の砲撃で炎上し、黒煙を濛々と噴き上げている写真の隣にて、無線機を背負って弾着観測を行っている戦姫も載せられている。

「西海洋海戦 合衆国海軍の勝利に終わる」

「爆炎の中に消える敵空母」

 そして、紙面を1枚めくったところに、船員が燃えながら海に落ちていく写真も載っている。

「同盟軍艦隊 船員を守り切れずに大敗」

 の一文も載せられている。もうこれで西海洋では大規模な艦隊決戦は起きないと、誰もが考えていた。そして、それはほぼ正しい認識であった。北ソメリト戦線での戦闘は、これで終わった。

「姉さんを差し置いて、私の写真が載っちゃって、なんか」

「良いじゃない。良い写真だと思うわ」

「本当は、もっと違う写真が撮りたいんです」

「まぁこれを機会に、色々と勉強しなさい。人生まだ長いんだから。学ぶ事は多いでしょう。こう言う仕事で名を売った上で、信用を得るのも大事な事よ」

 メリー姉さんは、正直あんまり良い気持ちはしていない。どうせ、軍部の梃子入れだ。マッドネリー諸島海戦にて、戦姫部隊を戦闘機代わりに使おうとして、多数の戦死者を出した事を忘れさせる為に、何かしらのアピールが必要だったのだ。

 仕方が無い。世の中というのは、そう言う理不尽が往々にして有り得る。どちらにせよ、今回の海戦の結果は、「運命」がこちらに微笑んだ様だ。次の主戦場は大海洋になるだろう。もうマッドネリー諸島海戦にて大損害を受けた艦載機と搭乗員の補充は出来ているだろうから、もう1戦仕掛けてくるのは充分有り得る。

 それで、決定的な勝利を得られたら、あるいはこの戦争に勝つ見込みが出てくる。どちらにせよ、大海洋での戦いの主導権はまだレイド・サム公国海軍が握っている。次の出方次第では、また決戦だ。


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