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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
最終章 テラース最終戦争篇
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0097 主演交代

 マーポート軍港には、ソメリト合衆国西海洋艦隊の全艦が揃っていた。大型空母3隻、旧式戦艦5隻、巡洋艦8隻、駆逐艦17隻。そこへ今日、1隻の珍客が訪れていた。

 新型戦艦「ネース・カルライナ」。40.6㎝砲3連装3基9門を装備した、開戦以後に就役した最初の戦艦だ。そこには、もう一組の珍客が紛れ込んでいたい。従軍記者であるメリー姉さんこと、メリー・マステアと、隻腕・隻眼の戦姫フェルニナ・ケール助手の2人である。

 本来ならば、ただでさえ軍艦不足に喘いでいる大海洋艦隊に回すべきであったし、大海洋艦隊もそう申し出ていた。代わりに、最新のマリネス級大型空母は大海洋艦隊に最優先に回す、と言う譲歩を捻り出していた。

 メリスト連邦王国の艦隊相手に、これから決戦を挑もうとしている艦隊の空気は、潮の香りと水兵達の熱気が満ちている「ネース・カルライナ」以下全艦にて滾っていた。メリスト連邦王国艦隊は、本国艦隊と呼ばれる主力の艦隊、装甲空母3隻、大型戦艦4隻、旧式戦艦8隻、巡洋艦11隻、駆逐艦22隻。これに加えて、ダロス皇国海軍は大型戦艦4隻、巡洋艦2隻、駆逐艦9隻。皇国海軍は元来陸軍国なので、海軍の規模が貧弱なのは仕方が無い。


「こちらの諜報部門が得た情報によると、同盟軍の主要海軍が艦船を集めて、大規模な輸送船団の護衛の為に出撃させる事が判明した。暗号名「DECIDE YOUR DESTINY」と連中が名付けたこの大規模輸送作戦は、今後予定されている北ソメリト戦線での2度目の大攻勢に必要な物資と人員が荷物だ。これを阻止すれば、北ソメリト戦線はその大動脈を失い、戦線は崩壊する。逆に言うと、これを逃せば次の機会は永遠に来ない。陸軍も州軍も限界まで消耗しており、国民もまた海軍に期待している」


 メリー姉さんは、祖国の諜報組織を全くと言って良い程、信用していなかった。フェルニナは、曲がりなりにも軍に籍を置いた身の上である為、別の見解を示していた。

「まぁ諜報組織の得てくる情報なんて、ギャンブルですからね。でも、外しても恨みっこ無しです。諜報員は国内で暗号解読でもしていたら良いんですが、海外に出て敵情を探っているスパイは捕まったら死にますから。立場的には同じレベルですよ。誰だって命張って、身体張っているんですから、その情報には血肉が詰まっていると思って下さい」

 フェルニナ・ケールの言葉には、戦場にて代々戦ってきた戦姫の血肉が詰め込まれていた。確かに、ただで手に入れた情報ではない。暗号解読だって、担当者が頭脳を削って担当しているのだから、お互いに信頼し合っていくしかない。

 それにしても、こちらは果たして何処まで出来るのか。西海洋艦隊に与えられた新型艦艇は、この大型戦艦「ネース・カルライナ」1隻のみである。他はポンコツ戦艦5隻だけで、頼みは大型空母3隻に積み込んだ約300機の航空機のみである。

 しかし、敵の装甲空母3隻は、装甲空母の先駆けとされている「ベリネスタル」級空母であるが、積み込んでいる航空機は1隻に付き30機程度、レイド・サム公国海軍の装甲空母の半分程度である。どれだけ爆撃や雷撃を浴びせたとしても、確実に沈められるとは限らない。

 新型戦艦1隻だけで突っ込んでも、敵の35.8㎝4連装砲2基、2連装1基の合計10門の最新鋭戦艦「キング・ギルベッチ」級が4隻もいる。頼みは、空母3隻の300機の航空機のみ。

 艦隊決戦。それも、輸送船団をめぐる艦隊決戦にて、大砲屋が仰天する作戦をソメリト合衆国西海洋艦隊司令部の作戦班は立案していた。飛行機屋にとっても、前代未聞の作戦案であったが、逆に言うとこれ程合理的かつ現実的な内容であった。正攻法では確実に負ける。

 最初、マーポート軍港にて行われた艦隊のブリーフィングにて、その策を披露した際、全員が度肝を抜かれていた。と同時に、こうも思っていた。現状ではこれしか無い。合理的な判断に基づいていけば、こうするしかない。突飛で、それでいて型破りに見えても、実は「これしかない」と言える策であった。


「マーポート軍港に潜ませたスパイからの情報では、西海洋艦隊の全艦が海に出払っている。例の新型戦艦も含めて、全艦だ。事前からこちらの情報が漏れていたとしか考えられない。情報漏洩については今後諜報組織に一任させるとして、この輸送船団は北ソメリト戦線を支える重要な船団である。同戦線では、友軍が一刻も早く援軍を待ち望んでいる。負ける訳にも逃げる訳にもいかない」

「こちらの「ベリネスタル」級空母は、搭載機も旧式で、機数も揃っていない。3隻合わせて92機だけでは、ソメリト合衆国海軍の大型空母1隻分の戦力でしかない。それでも、装甲空母に敵が航空攻撃を集中している内に、戦艦による決戦に持ち込むしかない」

「艦隊決戦のセオリー通りに行く。戦艦には戦艦を、空母には空母を。それで輸送船団が守られるのであれば、お釣りが来る展開だ」


F5F戦闘機は、暖機運転に入りつつ、出撃準備に入っていた。見てくれからして、頑丈で単純な構造で、それでいてデカいと言う、ソメリト合衆国の魂を感じられる造りの艦上戦闘機である。ソメリト合衆国海軍が最も力を込めている戦闘機であり、分厚い装甲でパイロットの生命を守り、そうして大きくなった図体を力尽くで引っ張っていくエンジンを積み込み、見た目はかなり不格好であるがシンプルな構造で量産可能な、合理主義的な発想の戦闘機である。

 戦爆雷300機の内容は、このF5F戦闘機110機、爆撃機100機、雷撃機90機。向かうのは、80隻の輸送船団を守る同盟軍艦隊である。


 同盟軍艦隊上空にて護衛任務に就いていた戦闘機は、たったの13機。110機の戦闘機は、これを圧倒的強さで捻じ伏せて、190機の爆撃機と雷撃機は、同盟軍艦隊へと向かっていった。その先は、空母である筈であったが、相手はとんでもない相手を狙ってきていた。


「キング・ギルベッチ」級戦艦4隻と、「ギャルンホルクス」級戦艦2隻を中心とする戦艦群に加えられた攻撃は、文字通り破滅的な結末を齎していた。

 角度45度で急降下してから投下された爆弾は、対空装備を備えているが、充分ではないメリスト連邦王国海軍の戦艦に次々と命中、「爆弾の1発や2発では沈まない」と太鼓判を押されていた戦艦であるが、中には1発の爆弾で艦橋が命中して、艦の首脳部が全滅した艦もあった。

 続いて、雷撃機が対空砲火の薄い中を、頑丈な機体で物を言わせて突破し、次々と魚雷を投下、命中しない筈が無かった。


 それは即ち、「大艦巨砲主義」の終わりであった。「デカい」「鈍い」、取り柄は「頑丈」なだけである筈だったが、今回はその「頑丈さ」についても疑義が出ていた。

 「キング・ギルベッチ」級戦艦3隻が沈み、「ギャルンホルクス」級戦艦も1隻沈んでいた。他の新型戦艦は大きく傾いており、大砲の撃ち合いなんて出来そうには無い。

 後には、旧式戦艦と少数の旧式機しか積んでいない装甲空母3隻があるだけだ。まだ旧式戦艦8隻が残っているが、これではソメリト合衆国海軍の新型戦艦と戦えるのか。そうして悩んでいる内に、水上戦姫部隊の偵察戦姫が無線にて報告があげられていた。

「敵艦隊がこちらに突撃中。先頭は詳細不明な新型戦艦」

 装甲空母に旗艦機能を移転した同盟軍艦隊司令部は、臍を噛んでいた。敵は、空母には空母、戦艦には戦艦、と言う不文律を一蹴して、空母に戦艦を、戦艦には空母をと言う戦術に切り替えたのだ。

 確かに、まともに真っ正面から空母対空母、戦艦対戦艦で戦っていたら、こうはいかなかっただろう。どちらにせよ、この時点で判明していたのは、戦艦は艦隊決戦の主役の座から引きずりおろされたと言う点である。



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