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カイロスの祝福  作者: 沙雪


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神殿

 エデリム商会の手伝いもあって、王家が第七王子の誘拐を利用し、ザハラーン商会から身代金と言い金を巻き上げようとしたこと。そして、王家は第七王子を見殺しにし、これっぽっちも助ける気がないことなどを書いたチラシを至る所に掲載すると、カイロス国の商人たちはすぐに反応を示した。

 商売は信用が第一。

 信用ならないと思った相手に対しては素早く、的確に処理をしていく。

 貴族のややこしい格式などは、全くないその自由な気風について、清々しささえ思われるほどだ。

「あとは神殿に向かうだけだ」

 五人はスラム街のとある廃墟の前に居た。

 前回のパラレルで、レジナルド達が連れてこられた場所である。

「まさか、こんな場所から神殿に続く道が伸びているとは、いったい誰が想像しただろう」

 セシリオの呟きに、レジナルドは頷く。

「すみません。僕のわがままに付き合わせてしまって」

 先頭に立つユーニスが振り向く。

 ここに来たのはもう一度会いたいと言った、ユーニスの気持ちを尊重するのと、第七王子の救出に向かうためだ。

「いや。もし、王家の真実をばら撒いただけで、なんとかなったのなら、もう我々は自分たちのパラレルに帰れているはずだ。しかし、そうではないのなら、次の手を考えなければならない」

 そこで第七王子の救出だ。

 カイロス神がこのパラレルにおいて、何かしらの変革を望んでいるのは薄々感じる。しかし、どこを着地点として望んでいるのか、この状況だけではわからない。

 やはり第七王子を助けることが、必須条件なのか。

 それとも別な条件があるのか。

「ともかく、前回とは状況が違う。動けるだけ動いてみよう」

 テリオスはユーニスの心情を後押しするようにそう言った。

「あの男の気配はあるか?」

 レジナルドの一言にテリオスは周囲に鋭く気を張り巡らせる。危惧していたのは、ヒューという兵士の存在。気配を消して近寄られた君の悪さを今でも思い出せる。

「あの者の気配は、今のところ感じられない」

 テリオスは何度も周囲を警戒するように見回していたが、首を横に振る。

 その言葉を信じ、五人は廃墟の内部に足を踏み入れる。

「あの男って?」

 セシリオが耳打ちした。

「前回の時にザハラーン商会の従業員と一緒にここに来たんだ。その時に案内してくれた王宮所属の兵だという男。かなり手強い人でね」

「誰かを手強いと表現するのは珍しいね」

 セシリオに言われてハッとする。

「確かにそうかもしれない」

「だから、テリオス先生の感覚を信じているんでしょう? ちょっと妬けてしまうね」

 まさかセシリオがそんなことを言うとは思っていなかったので、大きく目を見開く。

「いや……」

「お二方、行きますよ」

 レジナルドが反論しようとしたところで、前方からユーニスの声が響き、セシリオとの会話は強制的に中断される。

 入り口から入って、三つ目の部屋に差し掛かったところで、先頭を入れ替わったテリオスが、前回ヒューがかがみ込んでいたあたりを探る。

「んー。どこだ?」

 一生懸命にしているのだが、なかなか発見することができないらしい。

 レジナルドは彼の手元のあたりに目をやり、手を這わせる。

 一部、質感と色の違う箇所を見つけた。

「ここじゃないか?」

 レジナルドはかがみ込むと、見つけた床板に手をやった。

 床板の部分がそこだけ外れるようになっており、開いた先にレバーが見える。横に回すと音もなく、床の一部が開く。

 あの時と同じような地下へと続く薄暗い階段が見えた。

「ここからお二人は神殿に行き着いたんですね?」

 ユーニスの言葉にレジナルドは頷いた。

「じゃあ、行きましょう」

 事前にエデリム商会に用意を依頼していた、ランプを灯し、またユーニスが先頭に入れ替わって、地下へと降りていく。

「王宮からの兵士たちの姿はないと言っても十分気をつけてほしい」

 テリオスの言葉が響く。

 ユーニスは怯えるでも驚くでもなく、返事もせず、そのままスタスタと、もう前以外は何も見えてないとでも言わんばかりに進んでいく。

 テリオスの不安事項は良い意味で裏切られ、とくに何事もなく、一行は順調に神殿へと向かう。

「ねえ、今回の一連の事件、犯人はやはり王家の手のものだと思う?」

 セシリオは先ほどのやりとりを水に流してくれたのか、純粋な疑問をぶつけるようにレジナルドを見た。

 その言葉に反応したのは、カイとテリオスの二人もだった。こちらに意識が向かっているのを感じる。

「もし、本当に王家が関わっていたとしたなら、やり方が安直すぎると思う」

「そう思う理由は?」

「前回、ザハラーン家の従業員に紛れて、王宮に行ったことは話したと思うけれど」

「うん」

「王宮では、王の周囲にたくさんの取り巻きがいた。つまり、王のブレインとなる存在はたくさんいたんだ。それなのに、つつけばすぐ綻びが見えてしまう。そんな手を取るのは少しおかしいと思った」

「じゃあ、侯爵さんが、王の取り巻きの一人なら、そんな愚策は取らないと」

「そうだな」

 テリオスの言葉ににべにもなく頷く。

「じゃあ、侯爵様がその愚策をあえて採用する時はどんな時か?」

 テリオスは的確に質問を重ねる。隣にいるセシリオの機嫌が悪くなりそうであるのは、重々承知。それでも議論の核心をつく部分だったので、レジナルドはそのまま話を続ける。

「誰か別の人の策略があって、それに乗っかろうとする時かと思うね。もし、何かがあっても別のその誰かに責任を押し付けられる」

「じゃあ、やっぱり他の誰かが?」

「一体誰が?」

 セシリオとテリオスが口々にそう言葉にするのだが、テリオスが一瞬、自分たちの後ろを振り返った。レジナルドは警戒心を強めたが、テリオスは何も言わないので、レジナルド自身もそのことについては何も触れずに、話を続けた。

「ここからは、推測になるけれど、実際に身代金を要求した文章というのは王家に届いたと思うんだ。ただ、その内容を公にすることが難しかった、だから、わざわざ塀の外から投げ入れられたと、とってつけたような訳のわからない言い訳で取り繕った。多分あの時、ヒューは全員が襲撃を受け殺害され、金も何もかも奪われたが、自分だけが命からがら生き延びたと言わんばかりの様子で、王宮に報告に行く予定だった。後からお金を回収しに行こうと、そう考えていたのではないかと思う。それが、王家の考えで。実際に誘拐を計画して、王家に脅迫文を送りつけた人物像は――王家にそれなりの恨みを持っていることが第一の条件に当てはまるのではないかと思う」

「つまりそれは」

「まさか、前王の一派?」

 セシリオの鋭い声がテリオスを押しのけ飛んでくる。

「はっきりとは言えないが、その可能性は高いのではないかと思う。話を聞くと、神殿には権力争いに敗れた王族の墓と墓守がいると」

 レジナルドの言葉に反応したのは、先頭を歩くユーニスだった。

 彼はこちらの話に耳をそば立て、一種の可能性を察知したのだ。

「でもそうなると」

 セシリオの声が尻すぼみになる。

「うん。つまり、第七王子自身が関わっている可能性がある」

 五人は歩みを止めないものの、互いによそよそしい雰囲気が流れる。

 レジナルドとしてもあくまで、今の話は推測であり、確証はない。

 ユーニスの気持ちに水をさすようなことであるともわかっている。

 しかし、レジナルドとしてはユーニスの父親である、カラム・ザハラーンから彼のことを任せると言われた身だ。下手な期待を持たせて落胆してほしくない気持ちもあった。

 そして、反論の言葉が起こらないのはそういうことなのだろうと思う。


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