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カイロスの祝福  作者: 沙雪


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39/43

助力

「ここの商会とは一体、どんな関係なんだ?」

 不意にレジナルドがメルリを見る。彼の仕草から察して、仕事先に来たという割にはゆったりとくつろいでいるように思われたからだ。

「先代、いやもっと前ですね。昔からザハラーン家と付き合いがあるんです。僕がこうなっても不憫に思ってくださって、何かと手を差し伸べてくれるのです」

「この商会に何か協力を求めることはできないでしょうか?」

 メルリはハッとして、考え込んだ後、

「それは……できると思います。とくに皆さんはカイロス様の祝福でこちらに来ている訳ですから、その事情を伝えましたら」

 メルリはレジナルドを見て、瞬いた。

「ここの商会の力を借りて、真実を町に広めるのはどうか」

「真実を広める?」

「王家はザハラーン家に圧力をかけて、身代金の支払いを行うように命じた。前回のタイムループの際、理由として、第七王子が悪魔と取引をしているからだと言ったんだ」

「え?」

 メルリが眉を顰める。

「悪魔と取引をしているのなら、存在自体を消して欲しいとも。はっきりとは言わなかったが、そんな言い方をしていた」

 テリオスも言葉をつけ加える。

「そんな横暴な」

 メルリは声を荒げ、反論する。

「だが、第七王子の身柄は神殿にある」

「間違っても悪魔と取引をした人物が神殿にいることなんてできませんし、それに彼が、そんな人物だとは考えられません」

「じゃあ、悪魔という表現は王家が勝手にでっち上げたデマと言うことだね」

 セシリオの冷静な言葉にレジナルドは頷く。

「たぶん、今ここで話をしている間にも、ザハラーン家では忙しく金策をして、王宮に向かっていることでしょう」

 レジナルドがそう口にしたところで、背後に人の気配がして振り返ると、先ほどここまで案内してくれた女性スタッフと、白いワンピースタイプの衣服を纏い、大きな口ひげを蓄えた、男性の姿があり、視線が重なると申し訳なさそうに頭を下げる。

「すみません。その――私どももメルリさんのザハラーン家での扱いを知っておりましたので、ちょっと心配になってしまって、……失礼とは思いましたが、お話しを聞かせていただきました。結論から申し上げると、カイロスの祝福でいらしている方でしたら、惜しみなく我が商会の力を貸しましょう」

「ありがとうございます」

「ヨシュアさん」

 メルリが髭を蓄えた男性に向かって呼びかける。

「申し遅れました。エデリム商会のヨシュアと申します。さっそくですが、皆様の提案に可能な限り対応させていただきたいと思います――カイロス様の祝福ですと、次のタイムループまでどのくらい時間が残っているかもわかりませんし」

「侯爵はつまり、俺たちが見聞きした、事実を書いたビラをまいて、ここの住民たちに知らせようとしている。それで間違いないな?」

 テリオスの念押しの質問にレジナルドは頷く。

「わかりました。至急手配してくれるように、商会のスタッフを動員して、書状を書かせましょう。ただ、数時間で数千枚を用意し、街中にばら撒くというのは難しいので、要所要所に誰もがわかるように書状を壁に貼りましょう」

 ヨシュアは毅然と言い放ち、隣にいた女性に目くばせをした。

「それでお願いします。あの、出所はザハラーン商会の名前を使ってください」

 メルリの言葉にしんと静まった。

「ですが」

 ヨシュアは不安そうな表情を向ける。

「良いのです。ザハラーン商会を父から受け継ぎ守ることが出来なかった。全ては僕自身の責任です。だから、最後ぐらいは、誰かの役に立って終わりたいと思う。それだけです」

 メルリが誰のためにそこまでの決断を下したのかは言うまでもない。

「じゃあ、文面は僕も手伝う」

 セシリオを先頭にヨシュアとメルリは話をしながら、その場を離れていく。一瞬、メルリの両親の死の真相について告げるために、引き留めるべきかどうか迷った。

 レジナルドは引き留めない決断をした。世の中には知らない方がいいこともあると思ったから。知るべき真実であるなら、いつかメルリは知ることになるだろうとも。

 そして、今回の案件は文官として優秀なセシリオに任せれば、間違いないと思いその姿を見送った。

 それよりも気になるのは。

「君はこのままでいいのか?」

 レジナルドはユーニスを見た。

 ずっと思っていた、絵の中の人。その人が、他の誰かに掠め取られるかもしれない。

「いいんです」

 ユーニスは憂いた様子を見せながらも、必死に笑顔を作っていた。

「どちらにしろ生きる世界が違うのです。あの人が幸せなら。幸せになれるなら、僕はもうそれでも」

 そう言って俯いてしまう。ただレジナルドとしても彼の気持ちは痛いほどわかる。

「本当に?」

「――でも、もし叶うなら最後に会いたい。と思う」

 そう言い切った、ユーニスの心情を思うと、何も言えなくなった。

「悪い。空気を壊すようで申し訳ないのだが」

 テリオスが咳払いをする。

 ユーニスは顔を上げた。不思議と彼の表情はさっぱりとしており、目の輝きも失ってはない。

「ちょっと気になって聞きたかったんだが……次、タイムループが起こった時、俺たちはどうなるんだ? もちろん、カイロス神の祝福のなすべきことをして、元居た場所に帰ることが何より第一だと思っているが、もしもと思って。やはりタイムループは三回までなのだろうか?」

「僕もカイロス神様の祝福に当たったのは、今回が初めてだから、確実なことはわからない。しかし言い伝えでは、三回目のタイムループをした際には、その人が行くべき場所、戻るべき場所に行くのだと言われている」

 ユーニスの言葉はかなり抽象的なものだった。

「それは元いた世界には戻れないという意味か?」

 テリオスは戸惑っていた。

「巻き込んでしまったのに申し訳ないのですが、本当にわからないんです。もしかしたら、そうなのかもしれません」

 いたたまれない空気が漂う。

「ともかく、今できることをやろう」

 その空気を払拭するように、レジナルドが二人に声をかける。

「わかりました」

 ユーニスは力強く頷く。テリオスも先ほどまでの迷っていた表情は少しとけたようだった。

「ヨシュアさんに用意してほしいものがあるんだ」

 レジナルドはユーニスを見た。

「なんでしょう? 僕、伝えてきますよ」

「助かる。ランプをいくつか用意して欲しい」

「ランプですか?」

「頼む」

「わかりました」

 何に使うか、ユーニスにはわかっていないようだったが、それでもこっくりと頷いてセシリオたちが向かっていた先に駆けて行った。

「戻れると思うか?」

 ユーニスが走り去ってから、テリオスが心配そうに聞いてくる。彼はカイから先生と呼ばれる気丈な人物であるのはレジナルドも知っている。そんな彼が、それほどになるには何かあるのだろうかと。

「悪い。ただ、向こうの世界には俺のことを待っている人がいる。前も言ったが、俺は監獄を抜け出してきたお尋ねものだ。しかし、監獄を抜け出すために、たくさんの俺の支持者が尽力してくれた。俺の国は今、動乱の真っ只中だ。帰らなければ。俺を待っている。なんとしてでも」

「大丈夫。帰れるさ。今はやるべきことをやろう」

 レジナルドはテリオスの肩に手をやって頷く。

「そうだな」

 テリオスは自分に言い聞かせるように言って、ユーニスが行った先に駆け足になった。

 レジナルドはふとため息を吐く。

 正直なところ、この方法が上手く転ぶかどうかは、本当に神のみぞ知ることだ。

「やるしかないな」

 小さく呟いた後、テリオスの後を追った。

 

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