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カイロスの祝福  作者: 沙雪


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地下通路

「以前、執務室でハルン・ドゥニャと誰かが話をしていたのを又聞きしたので、そうはっきりと確信が持てることではないのですが、――神殿には第七王子と元々親しくしていた幼馴染がいるとか」

「幼馴染?」

 レジナルドは思わずセシリオを見た。神殿に行ったセシリオ達がその人物を見ていないかと思ったから。しかし、セシリオはわずかに首を傾げるばかりで、そのような人物に覚えはなさそうであった。

「その人の名前は?」

 メルリは思い出そうと一生懸命になってくれているのだが、難しいことだった。

「そこまでは……すみません。僕も通りがかりに聞いたことがあるくらいのものだったので。でも、その話を聞いて僕は、王宮で不憫な思いをするくらいなら神殿に逃げ込んだらいいのにって思ったんです」

 メルリの言い方はある種の情を含んでいた。

 気になってユーニスの方を見たが、彼は難しい表情でメルリを見ているばかりだった。

「第七王子とは面識があるのですか?」

 セシリオの問いに今度は分かりやすく頬を染めた。

 彼の気持ちはもう明らかである。

「面識があるって訳ではないんです。ただ、両親が健在だった頃に少し挨拶を交わしたことがあるくらい。それから、現王の即位式でも王族の一員として壇上にいるのを見たことがあるくらいで」

 その言葉から、メルリの抱く気持ちが想像される。

「第七王子はどんな人ですか?」

「一見、なよなよと見えるのですが、その瞳も表情もきちんと意思を持っていらして、あの方が王宮の中で不当の扱いを受けているのだと思うと居ても立っても居られなくなります」

 メルリは恥じらうような表情を見せる。

「第七王子が誘拐された経緯について、メルリさんはどう思われます? あ、このタイムループの前、メルリさんのお力添えもあって、神殿に入ることが出来ました。ありがとうございました」

「あ、本当ですか?」

 ユーニスの言葉にメルリは自分のことのように喜びの声をあげる。

「礼を言うのはこちらの方です。あの神殿に僕らだけの力では到底、入ることなど難しかったでしょう。メルリさんが工房の方を紹介してくれたからです。それで、――神殿で第七王子本人に会って、誘拐の件を持ち出したのですが、本人は逆に驚いた様で」

 メルリが首を傾げるので、セシリオが言葉を付け足す。

「その様子を隣で聞いていたのですが、僕もとても変だなと思ったんです。僕らが知りうる限りで、神殿の中で何か問題が起きている様子なんかもありませんでした。むしろ静かすぎるほど平和と言いますか」

「第七王子の誘拐の話は、タイムループの度にザハラーン家に持ちかけられる話なので、間違いないと思っていたのですが、現実は違うのでしょうか」

 メルリは戸惑いを隠せず、困った表情を浮かべる。

「そうなると、王家が一枚噛んでいる可能性が高いが」

 テリオスが腕を組んだ。

「じゃあ、王家が犯人である。もしくは、犯人に加担していると仮定して話を進めた時に、彼らを止める手立てが、現状難しいな」

 レジナルドも同じように考え込み、腕を組んだ。

「黒幕が誰であれ、王家が関わっているのは間違いないだろう。どちらにしろ、王家の暴挙をどうにかして止めなければいけない」

 ユーニスは小さい声ながら、その言葉から強い意志が感じられた。

 レジナルドも、王家が何らかの形で噛んでいるのは、否定しない。

 ただ、本当にそれだけのことだろうか。

 王宮に馳せ参じた時、王が傀儡の如く操られる様子が思い出されると、今回の黒幕は一枚岩ではない。そんな気がしている。

 他にもいくつか引っ掛かることがある。

 セシリオ達から聞いた話だが、神殿の地下に大きな御廟があること。

 御廟を管理する者を『墓守』と言ったことも気に掛かる。

 墓守は、レジナルドの認識で言うと、亡くなった人と関係の深い者が、なるのではないかと思う。そこから、口には出さないが、神殿の女官や神官たちの中に、前国王に連なる者がいるのではないかとも。

「どちらにしろ前に進んでみないとわからない。それにタイムループは三回までだったね?」

 レジナルドの言葉にしんとなり、メルリとユーニスが目を見合わせた。

「もう二回タイムループしているんですか?」

 驚いた声と目を丸くして、メルリは視線を流して五人を見る。

「うん。一番最初の時は、神殿の間際に行って、すぐにタイムループをする羽目になったんだ」

「行ったのは、神殿のどのあたりでした?」

 ユーニスの言葉に間髪入れず、メルリが聞き返す。

「確か庭園の……」

 ユーニスは大体の場所を示すとメルリは何度か頷く。

「もしかしたらですけれど、昔、王宮から神殿へと続く秘密の通路があったと聞いたことがあります」

「秘密の通路? カイロスの国が何か危険に晒されていたことがあったのですか?」

 セシリオはメルリを見返した。

「国家の危機ではあるかもしれませんが、皆さんが考えられるような危機迫ったものではなくて、むしろ、カイロス国の恥とでも言いましょうか」

「一体、何があったんです?」

 メルリは言いにくそうにするので、まどろっこしくなり、レジナルドは威圧感を与えない程度に、メルリにピシャリと言い放つ。

「僕も昔、その両親が健在の頃は、幾つもの家庭教師がついて勉強をしていたのです。その時、歴史の先生から授業で聞いた話なのですが、数代前の王が色々と贅沢な気質をもっていたようで。まあ、要するにちょろまかしていたんですね。カイロスは商人の国ですし、国家としては、私たち商会には、正確で明瞭な収支報告を推奨し、不正会計をした商会については重い罰を課しています」

「それは僕が生きているカイロス国でも、未来でもそうです」

 ユーニスが頷く。

「そのような状況で、王だけが罰を受けない訳にはいかないじゃないですか。示しがつかないですから。そこで、当時の王は、帳簿の帳尻を合わせ、罰を逃れるために、王宮から神殿へと物品を運び出す秘密の抜け道を作ったと言われています。――多分、皆さんが一番最初に来た時、もしかしてその道の近くにいらっしゃったのではないですかね? それしか、考えられないです。ただ、まさか本当にあるとは思いませんでした。伝説のような話だと思っていたので」

「でもそうすると、確かに辻褄が合ってきますね」

 レジナルドが頷き、

「確かにあの時、襲撃を受けた気配も何も感じられなかったのは、そういうカラクリか」

「感じられなかったとは? どのような?」

 ユーニスが聞き返した。

「周囲から人の気配があるかは、足音がするとか、もしくは第六感的に感じ取っているんだけど」

 カイが言いかけた言葉を、テリオスが説明する。

「俺もカイも、まあ色々とあって、周囲の気配は過剰とも言われるほどに神経を張り巡らせている。それでも直前まで気付けなかったとすると、気を巡らす空間の範囲外から襲撃があったと考えられるかと」

「つまり、地下から?」

 レジナルドの言葉にテリオスは頷いた。

「流石に地面の下の気配まではわかりません。何か、地下へ通ずる扉が開いたとか、そんな気配があればわかりますけれど。多分、そこにいたのは並の盗賊とか、ガラの悪い荒っぽい連中と言うよりも、かなり訓練された手だれの連中だと思うんです。相手がどのくらいの人数か、わかりません。それを相手取って、僕ら五人だけで対抗できるものか……」

「どうにかして、第七王子を助け出す方法があると良いのだけれど……」

 セシリオはまるで自分のことのように、頭に手をやり頬杖をつくような格好で考えを巡らせる。それはユーニスやテリオス達も同様なのだが、妙案を出すには至らず、各々が黙りこくってしまった。

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