再会
「カイロス国って、隠し扉が多いよね」
カイがあっけらかんとそう言った。
「お客様の大切な商品。商会側から見ると、商売道具とも言いますけれど、そこに何かあっては大変なので、可能な限り、ひと目につかない場所に隠しておくのです。もちろん、よからぬ犯罪に巻き込まれないようにと、そんな意味もあると思います」
ユーニスはなんともないように説明する。彼に対しての意見は様々あるにしても、やはり商人としての気質は彼の中にしっかりと染み込んでいるのだと感じる。
「どうぞ、お進みください」
店番の少年はガラリと態度を変え、慇懃な態度で扉の奥へ促す。
絨毯が敷かれた道を真っ直ぐに進み、端まで来ると、その先には広い空間が放りがっている。外から見て、あの岩石のどこにこんな空間があったのかと思われるほどだ。部屋の中には古今東西から取り寄せたと思われる布がところ狭しと並んでる。
「お越しいただきありがとうございます。どういった布をお探しですか?」
どこから現れたのか、美しい光沢のある生地でできた、衣服を身にまとう若い女性が現れた。
「メルリさんは来ていますか?」
女性は笑顔のまま顔を曇らせただけで、何も言わない。
「緊急の要件ですので」
ユーニスは口調を強め、有無を言わせない。
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
断る言葉が見つからなかったのだろう。仕方なしという様子で、案内したのは、棚と棚に挟まれた空間で一見するとわからないのだが、絨毯が敷かれ、ちょっとしたスペースになっているのだ。そこに座り込んで、商品の布の状態を一つ一つ丹念にチェックするメルリの姿を見つける。
「メルリさん」
ユーニスは声を上げる。
メルリはこちらを向き、一瞬目を見開いたが、全てわかっているとでも言いたげにレジナルド達を一瞥し立ち上がる。
「良かった、もし上手くいかなかったらと思っていたのです」
タイムループを繰り返す中で、彼はずっと記憶を持ちづつけている。その話だけではにわかに信じがたかったが、それが本当なのだとわかる。
スタッフの女性は向こうでユーニスとメルリの再会した様子を見て、どこかほっとした表情を浮かべ、軽く一礼をしてそのまま離れて行く。
「改めまして。メルリ・ザハラーンと申します。前回の時には、皆様の力になるどころか、色々とご不快な思いと迷惑をかけてしまい申し訳ございませんでした」
メルリはそう言って深々と頭を下げる。
理知的な瞳としっかりとした物言いをする人なのだと、感心をしてしまった。
「悪いがそちらの事情に肩入れするつもりはない。ただ、こちらのとしてはともかくこの状況を解決して元の世界に戻る。ただそれだけだ」
テリオスはぶっきらぼうに言い放つ。
隣にいたカイは申し訳なくなったのか、顔を悲しそうに歪めた。
メルリはその辛辣な言葉も顔色ひとつ変えずに受け止める。
「わかっております。皆さんがカイロス様の祝福でこちらにいらしたことを。僕はザハラーン家の末席ですが、一員として、カイロス様の意向に従って行うまでですから」
メルリは重々しい口調でそう言った。
メルリの年齢であれば、特有の子供らしさと、はつらつとした感じがあってもいいのではと思うのだが、その仕草と言葉の端々からは、そのすべてが抜け落ちてしまっているようだと感じる。
隣のセシリオも同じように感じているのだろう。彼は胸を締め付けらそうな表情を浮かべている。レジナルドとしては、セシリオのフォローをした気持ちは十二分にあるが、今この現状ではそればかりにかまけていられない。
「今回のカイロス神の祝福でタイムループを繰り返していることについて、情報をすり合わせを行いたいのだが」
レジナルドの言葉に、メルリはスッと真っ直ぐな視線をこちらに向ける。
「もちろんです。むしろ前回、ザハラーン家で失礼な態度となってしまったと思います。本当に申し訳ございません」
「君が謝ることではない。君がおそらく現在置かれている立場上、難しいのだろうともわかる。それについて、こちらからどうこう言うつもりはない。ともかく、前に進められる話をしよう」
レジナルドの代わりにテリオスはそう答えた。レジナルドは早速と言わんばかりに話を切り出す。
「今回のカイロス神の祝福について、今までの状況から一つの仮説を立てた」
「仮説ですか? それはどんな?」
メルリの目に輝きが戻る。彼とて、終わりのない”今日”がつづき、見出せなかった未来を描くことは彼の中でも光なのだろう。
「誘拐された第七王子を神殿から救い出すことだと思う」
「第七王子」
レジナルドの話が意外であったのか、メルリは大きく目を見開く。
「ルトフ殿下の誘拐事件のことですが」
ユーニスは控えめに言葉を付け加えた。
「今回のことで第七王子の生家の人は、動こうとはしないのですか? 第七王子がいなくなってしまうのは、その家にとってもマイナスなことだと思いますけれど」
レジナルドはさらに質問を続ける。
「生家の家は色々とあって取り潰しとなってしまったんです」
「え、じゃあ……」
多分そこにいた五人がそれぞれ息を飲んだことだろう。
「第七王子には後ろ盾が全くない状況だった。王家としては今回の事件はむしろ好都合だと言う訳か」
「王家が今回の誘拐自体を手引きしていたのだろうか?」
ユーニスの言葉に、
「まだ、そう結論を出すのは時期尚早だ」
と、制した。
ただ、レジナルド自身その可能性が大いにありそうだとは、八割感じていたのが、本音でもある。
「あと、これはあくまでも噂ですが……」
メルリは声のトーンを抑えて、周囲をキョロキョロと警戒する仕草を見せ、さらに声を低めた。




