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カイロスの祝福  作者: 沙雪


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金時計

「少なくとも僕は同じ一族としてメルリさんのことを信じている」

 ユーニスの言葉には強さが帯びていた。

「現状、メルリさん以外に頼れる人がいない。それであればまず、彼を頼るべきでは?」

 セシリオがそう言ったので、レジナルドは頷く。

 テリオスもそれ以上の意見が思い浮かばないのだろう。少し考え込んだ後、

「そうだな」

 と、頷いた。

「しかし、またザハラーン家に向かったとしても、元の木阿弥。ザハラーン家には直接向かわず、彼にコンタクトを取ることはできないのだろうか?」

 レジナルドの問いにユーニスは頭を抱えた。

「そう言えば、メルリさんは最初に言ったとき、当主からお使いを頼まれたとか、そんな様子だったよね?」

 カイがたどたどしい口調でそう言った。

「じゃあ、メルリという従者の行く場所に。彼がザハラーン商会に戻る前に落ち合うことができれば」

 テリオスが勢いよく立ち上がる。

「まあ、待て。しかし、彼が今どこにいるのかがわからない。闇雲に動いても時間だけが過ぎてしまう可能性がある。そうすると、王家の手のものの襲撃を受け、身代金は支払われず、第七王子を助けられずに終わってしまうだろう」

 レジナルドは冷静にテリオスに向かった。

「あ、待って。もしかしたら」

 ユーニスは着ていたローブの中から、封筒やら書状を取り出す。

「これって? あの時、メルリさんから渡された?」

 カイは期待を込めた眼差しでユーニスを見上げた。

「うん。服の中に入れ込んでいたら、これも一緒に持ってこれたみたい。着ていたローブは無くなっているけれど」

「確かにそうだな。俺もザハラーン家の従業員を装うためにローブを着ていたが、それは残念ながら無くなっている」

 テリオスはユーニスの言葉にハッとして、自身の衣服を確認していた。

「本当だ」

 セシリオとカイも何か衣服を上から纏っていたのだろう。テリオスと同じようにしていたが、セシリオの身なりは、ザハラーン商会で別れた時のままであった。

「その書状は元々君が持っていたものではないんだね?」

 レジナルドはユーニスの瞳を覗きこむ。その瞳に嘘がないかを確かめるように。

「はい。これはメルリから受け取ったものだと断言できます」

 ユーニスはレジナルドに負けないほど真っ直ぐな瞳でこちらを見返した。

「何か手がかりになりそうな事項はあるだろうか?」

 テリオスはかがみ込み、ユーニスの書状を覗き込むようにした。

「えっと」

 ユーニスは急いで、手元の書状を広げていく。

 カイロス国の言葉で書かれているため、テリオスは目を細めなんとなく意味を模索しようとしているが、カイとセシリオはあまりわからないらしく、目を回している。

 レジナルドも得意ではないが、まだそれでも書いてあることはわかるくらいの知識はあった。

「そういえば、メルリさんの今日の行動記録を示した紙があったのを思い出して」

 ユーニスが手に持ったのは、安っぽい紙に書かれたものだった。日記と言うよりも備忘録とでも言おうか。


【六時起床 七時:注文した商品の確認のためエデリム商会へ向かう】


 文字はそこで途切れていた。

 


「エデリム商会って言うのはどこだ?」

 テリオスは大通りをキョロキョロと見渡す。

「探すしかないな。ともかくザハラーン商会に帰られる前にメルリと接触しないと」

 それにしても曇り空の下、目抜き通りでは、第七王子が誘拐されたことなどまるでなかったかのように人々の表情は活気付いている。

 そんな人々をかき分けて、一本の細い路地にユーニスは入っていく。

「知っているの?」

 カイの言葉にユーニスは一瞬こちらを振り返って頷く。

「エデリム商会は僕たちのパラレルでも存在します。割と大きい商会なんだけど、当主があまり目立ちたくない性質の人で、大通りから一本、奥に入った場所で店を開いているからここでもそうかと思って。――多分、ここの辺りだと思うんだ」

 ユーニスを頼りに細い路地を真っ直ぐに進む。

「この道を曲がった辺りでしょうか」

 ユーニスの独り言の通り、道を曲がったところに、そびえ立つ岩石に古めかしい木板をとってつけたような佇まいのこじんまりとした扉がちょこんとついており、その扉は今にも岩石に押しつぶされてしまうのではと思われるほどだった。

 ユーニスが不安そうな表情の中、手元にあるメルリの日記と照らし合わせて、ひとしきり見比べた後。

「ともかく行ってみよう。違えばまた探す。次の方法を考えればいいだけの話なのだから」

 レジナルドの言葉にセシリオは頷いた。無表情を貫いていた、テリオスはカイと二人で、ユーニスの前に出た。

「ありがとうございます」

「ん?」

 不意に発した、ユーニスの『ありがとう』に、一同は動きを止める。

「いや、僕はこんな性格ですし。僕の行動から最近では、僕の言葉を信じてくれないものもいました。だから、なんか嬉しく思って。すみません。水を差すようなことを言ってしまって。行きましょう」

 本当は人一倍繊細で心優しい人なのかもしれないとレジナルドは思う。最初に会った時よりも表情らしい表情を浮かべるユーニスに対して、

「君は頑張っていると思う。少なくともこのパラレルに来てからは、この状況を打破しようと目標を掲げ、積極的に行動している。そして、セシリオのことも守ってくれた」

 レジナルドは思ったまま言葉にしたのだが、ユーニスはそのストレートな言い方には慣れていないのか、照れくさそうな表情を浮かべ、顔を背けるだけだった。

 そのやり取りを見ていた、セシリオがムッとした表情を見せるので、レジナルドは一生懸命に宥めるように顔を覗き込むことしかできなかった。

「失礼します」

 テリオスが木板の扉をゆっくりと開ける。

 中は入ってすぐにカウンターがあり、店番と思われる少年が頬杖をついていたのだ。店の中には特に商品もない。交渉用部屋や商品の倉庫は別に奥にあるのか、大きな商家を想像していたので、レジナルドは拍子抜けした。

 商いにはあまり詳しくないレジナルドは不審な点がないか警戒心を持って、キョロキョロと周囲への視線をおこたならない。

 少年はこちらの姿を見ると、飛び起きた。

 ここからは、同業者として、対応が慣れているだろうと思われる、ユーニスに任せると、事前に話をしていた。

 店番の少年は、見慣れない五人組を明らかに不審な目つきで見やる。

「何の用だ」

 と、ぶっきらぼうに言い放って。

 見た目から、年齢が若いにしても一筋縄では行かない性質の少年であることを薄々感じていた。

 ユーニスが懐から金の懐中時計を出して見せた。

 蓋の部分に複雑な紋様が施されている、懐中時計を見るなり、店番の少年の表情は大きく変わる。

「すみません。俺ってば、勘違いをしてしまって。ザハラーン家の方ですね。こちらへどうぞ」

 少年はカウンターから出ると、狭い店内の何もない壁に向かう。

 ちょうど少年の背中越しに見えるのだが、体で隠されたところで何かをしていたので、彼が実際に何をしていたのか目視で確認することは叶わなかった。

 かちゃりと音がして、何もなかった壁が扉のように開く。

 その先には今いる店内とは豪華さが雲泥の差とも言える、模様のきめ細やかな絨毯が敷かれた廊下が見える。

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