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カイロスの祝福  作者: 沙雪


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タイムループ

 目を開けると、一面砂漠の景色が広がっていた。

 ハッとしてキョロキョロと周囲を見回す。

 見覚えのある砂漠の景色にまた、一番振り出しまで戻って来たのだと気が付く。

 後ろを振り向くと、まるでここにいることが飲み込めていないと言わんばかりに大きく目を見開く、セシリオの姿を見つけ、ほっとしたのと同時に、離れている間にやはり何かあったのではと心配になる。

 ぺたりと座り込んでしまっているセシリオと同じ目線まで、体をかがめ、両手をセシリオの肩にのせた。

「大丈夫?」

 何度か揺すり、ようやく意識がレジナルドに向き、視線が交わる。

「あ……うん」

 セシリオの方もレジナルドの姿を認めると、ほっとしたのか張り詰めていた緊張感が一気に緩まるようだった。大きく息を吐いて、寄りかかるようにしておでこを押し付けてくる。

「もうダメかと思った」

「うん」

 レジナルドはぐったりと体を預ける様子のセシリオが余計に心配になってしまい、あやすようにポンポンと背中を叩きながら、顔を覗き込んでみようとするのだけど、セシリオはぐったりと体を預けたままで、微動だにしない。

 セシリオは普段から疲れた時や極度の緊張に晒された時など、こうなることがあった。そんな時はどんな言葉をかけても、彼は石のように頑なに動かないことを知っていたので、あえて何もせず、セシリオの気持ちがおさまるまでそうしていた。

 ただ、そうすると今度は照りつける日差しが暑くはないだろうかとか、砂の上について足がジリジリと焼けるような辛さはないだろうかと思った。

 いつも、セシリオが絡むと冷静な判断が難しくなる自分に我ながら、呆れてしまう。

 だからこそ、自国にいるときは、セシリオにあれやこれやと手をかけてしまうのだ。

 それが良くなかったのだろうか。

 レジナルドが一人で悶々と考えいているところ、セシリオがむっくりと顔を上げる。

「今までのこのと話すのは、あの向こうのオアシスでみんなと落ち合ってから話そう。時間が――こんなことをしていて言うのも説得力がないかもしれないけれど、ひと所に集まって、情報交換と今後の対策を考えなければ」

 セシリオの言葉は最もである。

「君がそう言うのなら」

 レジナルドはそう言って、自分が立ち上がるのと同時に、疲れている様子のセシリオを抱えようと手を体に回すと、

「大丈夫。自分で歩けるから」

 と、手厳しく言われてしまった。

 セシリオは言葉の通り、力強く立ち上がると、スタスタとオアシスの方に進む。意気込みすぎているのか、砂に足を取られていたのか、どちらかわからないが、よろめくので、その後ろ姿が不安になり、急いでセシリオの隣まで行くと、彼の腕をささえた。


 ◇


 オアシスまで行くと、テリオスとカイ、それからユーニスはすでに三人揃って、顔を突き合わせて、話し込んでいる様子だった。

 レジナルドたちに気がついたテリオスが顔を上げると、他の二人も話しを中断し、同じように顔をあげ、こちらを向く。

「とりあえず、お互いに何がおこっていたか話している最中だ。そちらは?」

「まだ。集まってから話しをしようと言っていたものだから。何も聞いていない。二度手間になって申し訳ないが、もう一度最初から話しを聞いてもいいだろうか」

 レジナルドがそう言って、三人の近くにセシリオを連れて腰を下ろすと、ユーニスは嫌な顔など一切見せず、真剣な眼差しで、レジナルド達がドラマンの後に続いて行った、二手に別れた時から何があったのかを話した。

 時折、カイとセシリオが説明を付け足しながら。

 ともかく三人はカラム・ザハラーンに裏切られたことを強く訴えていた。

「ユーニスさんがあの時、抜け道を見つけてくれなかったらと思うと」

 誰かのせいにすることを極力嫌う、セシリオまでもそう話す。

 最初に顔を合わせた時から、食えない男だなと思っていたのだが、まさかそこまでだとは思わなかった。セシリオを危険な目に合わせたことについては、レジナルド自身の誤算であったと、認めるしかない。

 そして、二人の時にセシリオがあまり話したがらない素振りだったのもこのせいだったのだと理解した。

「従者を、ザハラーン家の生き残りとして使っていたとは」

 テリオスはそう言って、腕を組む。

「カラム・ザハラーンがハルン・ドゥニャなる人物だったことには驚かないんだね」

 カイの言葉にテリオスが頷く。

「こっちには侯爵様がいたんだ。かわいそうにドラマンは追い詰められて話したよ」

 テリオスはいかにもレジナルドが悪いと言わんばかりの言い方をするのだが、内心。いやいや、お前も詰め寄って聞いていただろうと思った。しかし、苦笑いでとどめ、言葉には出さなかった。

「しかし、カイロス神様が僕らに何を求め、この地に送ったのか。それがよくわからない」

「カイロス様は変革を望んでいるとか?」

「まあ、そうなんですけれど」

 ユーニスは一人考え込むように首を傾げ、頬杖をついた。

「共通して言えるのは、第七王子の存在だろうか」

 レジナルドの言葉に、ユーニスは顔を上げ、

「ルトフ……」

 と、つぶやく。

「王城へ行っても第七王子事件に巻き込まれた。そちらも会ったのだろう?」

「うん。ユーニスさんの部屋に飾られていた、肖像画の人に」

 セシリオ達、三人は顔を見合わせ、互いに頷きあった。

「そうすると、カイロス神様は、第七王子を神殿から救い出して王城に連れ戻すことを望んでいたのだろうか?」

 セシリオの意見はもっともだと思いながらも、それだけではなく、何か引っ掛かりを感じてもいた。

「その意見を否定するのは不本意ではあるが、王城の様子からすると、第七王子は正直なところあまり歓迎されていない様子だった」

 テリオスはそう言ってチラリとこちらを見た。冷静に考えてテリオスの意見に賛成だったため頷く。

「王城に戻っても彼の未来はそう明るいものとは思えない。だからと言って、このままにしたところで、何の解決にも至らない」

 五人は暗雲がたちこむように、互いにダンマリとしてしまった。

 その暗い雲を払拭するように、口を開いたのは、やはりレジナルドである。

「王家が第七王子を救い出すことは万一にも状況からみてあり得ないだろう。今のままだと十中八九見殺しにするだろうね。だから、こうは考えられないだろうか? 誘拐された第七王子を神殿から救い出すこと。そこに焦点を絞って考えてみてはどうかと。それにその後の筋書きは、第七王子が生きること選択肢を得られることによって、今まで見えていなかった何かが動き出し、結末が変わる可能性も考えられるかと」

 レジナルドの意見に他の四人もなるほどと頷くのだが、まだ完全に暗雲が晴れた訳ではない。

「しかし、第七王子をどうやって神殿から救い出したらいいだろうか」

 テリオスの意見は、雲の晴れない原因の核心をついていた。

「もう少し神殿についての情報が欲しいな」

 レジナルドの言葉尻が消えそうなほど小さな声になる。情報を収集するにしても、頼みの綱であるザハラーン家には、これ以上関わるのは悪手であることが、露見している。

「メルリさんに直接コンタクトを取ることが出来れば」

 不意にユーニスが呟く。

「メルリ?」

「カラム・ザハラーンの従者の」

 セシリオはその者のことをまだ幼い少年なのだと話す。

「あの人はこの世界でタイムループをしている記憶があるようです」

「本当か?」

「ザハラーン家を抜け出す際、直接話を聞きましたから。それに僕たちが神殿に入られるように工房を紹介してくれたのも彼のおかげです」

 ユーニスはまっすぐにこちらをみた。

「彼は信頼できるのだろうか。彼もハルン・ドゥニャの手引きした人間である可能性は考えられないだろうか?」

 

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