墓守
「第七王子は――表向きは王族として括られていますが、王宮には居場所なんてないでしょう」
セシリオはなんとなく、彼の言い方に違和感を覚えるも、ともかく今は情報を集めたいと気持ちの方が強く、違和感よりも、状況について質問を重ねる。
「ルトフ殿下は、ご自身の意思でこの神殿にいらしているのですか?」
「そうとも言えるでしょうね。王宮にいてもただ穀潰しと責められるばかりですから。肩身が狭くなるところよりも、ここの方が過ごしやすいでしょうしね。それに、王家の人々は基本的に神殿には来ることはありません」
「この廟があるからですね」
「そうです。わざわざ、自分が打ち滅ぼした相手のところに好んで来る人はいないでしょうから。それに――」
ラシッドは言いかけて、口を閉ざす。
言いかけた言葉の先には、ほのかな希望を持っているようなそんな雰囲気が感じられたのだが、そんなことよりもセシリオたちが知ったルトフの状況と、彼が話す状況とが、食い違っているような気がして、首を傾げた。
「僕らが聞いた情報では、ルトフ殿下は現在誘拐されていると聞いたのですが?」
「誘拐?」
ラシッドは眉ひとつ動かさなかった。
「はい。身代金の要求がなされて。それで、はっきりと言いますと、王家では身代金の支払いが出来ないと言われて、ザハラーン家に身代金の支払いをするように命が下ったのです」
「え?」
ラシッドは理解が追いつかないと言わんばかりに目を大きく見開いた。
「本当のことです。ザハラーン家から、王家に行く家令に私たちと一緒に来た仲間も同行して向かっているのですから」
ラシッドはいよいよおかしいと思ったのだろう。切羽詰まった様子で口を開く。
「いよいよ僕の存在が煩わしく、消しに来たのでしょう」
「存在を消す?」
「王家にとって今の僕は不要以外の何者でもないのですから。それに僕が死ねば現王の不名誉な傷もなくなりますから」
ラシッドがそう話したところで、上の階がざわざわと騒がしくなり足音が響いた。
「ついに来たみたいですね」
真剣な眼差しを上に向けると、すぐに、御廟の中を走り、女神のような美しい姿をした、石像に向かう。
「皆さんこちらです」
ラシッドの声に、セシリオたちも走る。女神像の後ろ側にしゃがみこみ、何かをしている。少しすると、またカチリ。と、音がして、今度はさらに地下へと続く階段が現れた。
「ここから神殿の外に抜け出せます。ここから外へ向かってください」
「でも君は?」
ユーニスの呼びかけにラシッドは首を横に振った。
「狙いは僕なのでしょうから、僕はここにいます。皆さんが安全に逃げられるまで、僕が時間を稼ぎます。ですから、早く行ってください。僕とは違って、カイロス様の使命を預かっていらっしゃるのですから」
階段を駆け下りてくるいくつもの足音が聞こえる。鉢合わせるのも、時間の問題かと思われた。ラシッドはユーニスやセシリオたちを無理やり地下の階段へ押し込んだ。
「君も一緒に行こう」
ユーニスは手を伸ばすが、銀髪を揺らし、あいまいに笑っただけで、するりと伸ばされた手を抜け出した。
その瞬間にセシリオ達の体が光出す。
この感覚は、ここに送られた時、タイムループをしたときの感覚と一緒だった。
「絶対に、君をここから助け出すから」
光に飲まれる前に、ユーニスは叫んだ。
今にも泣き出しそうだったのに、最後まで笑顔を浮かべていた。




