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カイロスの祝福  作者: 沙雪


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32/43

告白

 ユーニスは至極真面目な表情で、真っ直ぐに相手を見ている。

 銀髪の青年も思いもよらなかったのだろう。驚きのあまり、脳内処理が追いつかずフリーズし、ユーニスを呆然と見ていた。セシリオもさすがに彼がいきなりこんな発言をするなんて、思いもよらず、カイと二人揃って、口をあんぐりと開けていた。

 五秒ほどして、銀髪を揺らせて、愉快な若い声を立てる。

「アハハ。まさか会って間もない、名前も知らない人に求婚されるなんて思いもよらなかった」

「僕はユーニス。ユーニス・ザハラーンと言います」

 ザハラーン。と聞くと彼の表情からさっと笑顔が消えた。

「僕の立場を知っているのでしょう? 僕と婚姻関係を結んだところで、そちらには何のメリットもないと思うけれど」

「メリットとか、そんなんじゃなくて、僕は貴方が良いです」

 熱烈な言葉に、半歩後退りをして、笑顔を歪める。

 正直、隣で聞いているセシリオも背中がむず痒くなるような気持ちだった。多分、隣のカイも一緒だろうと思う。

 目の前の人がさすがに押しだまり、困り果てた様子を見て、ようやくユーニスは我に返ったようだ。

「すみません。会って早々に困らせるようなことを言ってしまって。そんなつもりはなくて、ただ本当にお会いできると思っていなかったので、思わず言葉が溢れ出てしまって」

 ユーニスがそう言って、ようやく目の前の人物は固くしていた表情と警戒心を緩めたようだった。

「それで皆さんはどうしてここに? 女官たちに見つかったらすぐに放り出されてますよ」

「僕たちは、カイロスの祝福でここに来たんです」

「カイロスの祝福?」

「はい」

 セシリオとしては、彼が信用にたる人物なのか、判断がつかない段階でそこまでのことを話すのはいかがなものかと思ったのだが、ユーニスの横顔と真っ直ぐな瞳を、咎める気持ちは起きない。

「では、皆さんは別の時間軸からこちらに来られたのですか?」

「そうなりますね」

 少し考え込む仕草を見せた。

「それで、――ここにいらっしゃるということは、この神殿がカイロス神の祝福に大きく関わっているとそう思われるのですか?」

「ルトフ殿下は大変聡明であらせられるんですね。話が早くて助かります」

 ユーニスがにっこりと笑うのに対して、なぜか相手はルトフと呼ばれたことに戸惑っているようだった。

「私のことはラシッドと呼んでください」

「あ、失礼しました」

 ユーニスの謝罪に、ラシッドは視線を逸らして、頬を染める。彼はちょうど頭を下げていたので、彼のその表情を見ることは叶わなかった。

「それで、神殿がどう関係あるのですか?」

「それを確かめるためにこちらに伺ったのです」

「でも、よく神殿の中に入れましたね? 普通は入れないと思うけど」

 ラシッドの言葉は最もだった。

「あの――僕たち、エルマさんという職人の方にお願いして、ここまで連れてきてもらったのです」

「エルマさん?」

「神殿の修繕などをされている方です。あの、エルマさんは何の落ち度もありません。カイロスの祝福だと言って、無理してここまで連れてきてもらっただけなので。ですから、彼にはどうか寛大に。お願いします」

 ユーニスが深々と頭を下げようとするのを、手を上げて制した。

「カイロス神様の祝福でいらした方を神殿がどうして咎められるでしょう。しかしながら、王家の場合はなんとも言えませんけれど」

 一瞬表情を暗くするが、落ち込む暇も与えないほどに、ユーニスは質問を続ける。

「この神殿について調べていると、地下室があると聞いたのですが。地下室の存在について何か知っていませんか?」

 言いにくそうに顔を逸らしたが、真っ直ぐ見つめるユーニスの視線に耐えきれなくなったのか、

「知っています」

 と、小さく答えた。

「地下室には何があるのか教えていただけないでしょうか?」

「廟です」

「びょう?」

 ユーニスは首を傾げる。

「もしかして、御廟のことですか?」

 セシリオが助け舟を出す。

「そうです」

 ラシッドは深く頷いた。

「誰のです?」

 ユーニスは、ハッとしてさらに言葉を続ける。

「行ってみますか? 実際に見てもらった方が早いかもしれませんし」

「行っても良いのですか?」

 ユーニスは素っ頓狂な声をあげる。

「カイロス神様の祝福でいらした方々を無碍にするわけにはいきませんから。よろしければ僕が案内を……」

「よろしくお願いします」

 言葉が言い終わらないうちに、ユーニスは勢いよく頭を下げる。

「じゃあ、行きましょう。今の時間なら、女官に遭遇する可能性も低いと思いますし。――ですが、皆さんにはこちらを纏ってもらいたいのです」

 寝床の足元には小さな、箱が置かれていた。そこから、白い繻子の布を取り出すと、一人一人に手渡し、

「頭と顔のあたりを隠すように纏ってください。こんな感じで」

 同じ布を手に取ると、ぐるぐると頭部に巻きつける。

 見よう見まねで、セシリオたちもぐるりと繻子の布を巻きつけた。

「じゃあ、行きますよ」

 部屋から薄暗い居住スペースの廊下の出ると、来たのとは別の方向に進む。

 セシリオの感覚として、表の正面門を入ってすぐ、カイロス神の祭壇の奥に地下への階段があるのではと思っていた。今進んでいるのはそことは反対方向である。もしかして、良いように騙されているのでは。なんて思ったが、ユーニスはそんなことなど露ほども思っていないのだろう。意見しても、ただセシリオが消耗するだけだと目に見えてわかる。

 ここはユーニスの気持ちを信じて先に進んでいくしかない。

 通路は突き当たりになった。

 先ほど見た、祭壇の奥の壁にかかっていた垂れ幕と同じような布がかかっており、行手を阻んでいた。その垂れ幕を持ち上げるラシッドはこちらに無言の視線を送る。恐らく先に入るようにということなのだろうと察して、くぐり抜け、中に入る。

 先ほどの廊下が暗闇と表現するなら、薄闇という具合だろうか。

「明るい」

 それでもカイは思わずと言った具合につぶやいた。

「発光する鉱石を埋め込んで作られているのです。それでも、真昼のような明るさとは言えないですから。皆さん、足元には気をつけてください」

 螺旋状の階段が下へと続く。

 どのくらい下へと向かっただろうかと、セシリオが不安に思った矢先、階段は終わりを告げ、だだっ広い空間い行き当たる。

 やっと、階下に出たという安堵感よりも、妙に漂う陰鬱とした空気感を強く感じていた。

 パチン。

 音がしてハッとする。

 どういった仕組みなのかはわからないのだが、その音と共に、たいまつへ順番に火がともっていく。

 明かるくなると、円形の部屋の様子が鮮明にな里、部屋を取り囲むように石像が並べられているのが目に入った。

「ここは、歴史にのまれたカイロス国の王族たちが眠る墓です」

「え……これが全て……?」

 ユーニスはその圧巻ぶりに言葉を失ってしまったようだ。

「王族なのですか?」

 セシリオは銀髪の彼を見た。

「はい。最近ですと、前国王が眠っています」

「あの、王弟派に破れたと言う?」

「そこまでご存知でいらっしゃいましたか」

 淡々とそう言葉にするが、その表情は影を帯び、暗い。

 石像の前にはそれぞれ花が供えられている。

「この神殿はカイロス神を信仰しているのはもちろんですが、そういった歴史の闇にのまれていった王族たちの墓守の役割も担っているのです」

「君も墓守を?」

 ユーニスの言葉にラシッドは、なんとも言えない悲し気な表情を見せる。

「皆様がその事情を知っているのだとすると、王弟が王家を乗っ取ったこと。そして、第七王子の事情も知っているんですね」

「第七殿下は王族の血を引いていないと。そう言った話は伺いました」

 自虐的な笑みをラシッドは浮かべた。

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