当主
レジナルド視点
「カラム・ザハラーンから多少のことは聞き及んでいるのでしょう? 私達はカイロス様の祝福で別のパラレルから来たものです。私自身が生きている世界で、カラム・ザハラーン氏にお会いしたことがあります」
「本当ですか?」
ドラマンは不思議そうな口ぶりだ。
「私たちはこの世界から見ると、未来から来ているみたいですので、今この時代にいるザハラーン家の子孫に当たる人物だと思いますけれど」
「はい」
ドラマンはやはり、レジナルド達の存在について、カラムから聞いていたのだ。
「私が取引をしているザハラーン氏について言わせてもらうと、彼の商人としての手腕には舌を巻くものがあります。もし彼がこの時代に居たとしたのなら、王家に屈することなく上手いことやったでしょう」
そう言われドラマンは思うところがあるのか、俯いた。レジナルドはそのまま話を続ける。
「だがこのパラレルでの、現当主のカラム・ザハラーンはこんな汚れ仕事を王家から押し付けられている。よっぽど弱みを握られているのかと考えるのは当然かと」
「もしくは、その手腕に問題があるのか。そのどちらかだな」
はっきりとドラマンの表情を見ることは叶わないが、レジナルドとテリオスの言葉に詰め寄られ、さすがにタジタジとしているようだった。
「それについてドラマン殿はどう思われる?」
テリオスの追い討ちする言葉が響く。
「皆様のお考えの通りです」
これ以上は逃げられないと思ったのだろう。口火を切った。
「現カラム・ザハラーン――ハルン・ドウニャ様と仰られまして、前当主のカラム様の従者にあたる方です」
その言葉から読み解けるのは、現カラム――ここではわかりにくいので、ハルン・ドウニャと呼ぶことにする。ハルン・ドウニャが当主であった、カラム・ザハラーンを殺害し、その地位に座ったのではないかと思ったため、尋ねると、
「そう単純な話でもありませんでして」
ドラマンは先ほどよりも苦い声を出した。
「その話をじっくりと聞こうじゃないか。この先もまだ随分と続いているようだから」
テリオスは前方に長く続いていく道とは別に一見してわからない、細い抜け道を指して、そちらを照らす。
「へえ」
レジナルドは立ち止まり、息を漏らした。
テリオスの持つ野生的なある意味超人的な感覚には舌を巻くものがある。つまり、正直なところレジナルドもテリオスが示す道を気づくことが出来なかったのだ。
「多分、あのヒューって奴らは暗闇の中に俺たちを押しこんで、少し時間を置いてパニックになったところを仕留めようと思っていたんだろう」
「我々を殲滅。作戦があたかも失敗し、全ての責任をザハラーン家に押し付けるつもりだったのだろう」
「まさか」
ドラマンの声は弱々しく消え去る。
「正直、中で待ち伏せされているかと思ってひやひやしたが、今のところその様子がなくてよかった」
「私達をただの商人だと侮ったのだろう」
「だな」
テリオスの言葉に、レジナルドは冷静に答える。
彼の言う通りだった。向こうの計算違いはこちら側に有利に働いたため今は良いが、この後、どんな展開が待ち受けているかはわからない。気を引き締めなければと、小さく息を吐いた。
「ですが私、一人だけだったのなら、十分パニックになっていたと思います」
ドラマンの声は暗い。
「多分、あの兵士たちはそろそろ中に入って、俺たちがいないことについて驚いているだろう。もう、探し始めているかもしれない。だから、なるべく時間を稼ぐためにもこっちの道を進んだ方がいいと思うんだが、リーダーどう思う?」
テリオスはそんな言い方をするものだから、面食らった。
「いや君の判断は的確だと思う。助かる可能性に賭けて行動しよう」
さすがに第七王子本人がここにいる可能性は低いと思われた。それでも、何かしらカイロス神のタイムループから抜け出す手掛かりが何か発見出来たらと思う。
レジナルドの言葉に、テリオスは細い脇道に向かって歩き出す。
先はまだ随分と長いようだった。
「まだ追いつかれるまでに時間はある。それにここなら誰かに盗聴される可能性もないだろう。――先ほどの話の続きを聞かせてもらえないだろうか?」
話が逸れたため油断していたのだろう。ドラマンはわかりやすく体をびくつかせた。
「私たちはどうせ、いつかはこの時間軸から姿を消す存在。別に話しを聞いたところで、そちらに害はないと思われる。カイロス神の祝福で、ここに来たのだから。そして、来たからにはカイロス神の期待に応えたいと思うだろう」
”カイロス神”の言葉の後押しが、ドラマンの心に刺さったようである。
「わかりました。まず、誤解のないように申し上げますが……前当主のカラム・ザハラーン様は事故で亡くなられたのです」
「ん?」
テリオスは納得がいかないと言わんばかりの相槌を打つ。
「そう思われるのも無理もないと思いますが、本当ことです」
「ドラマン殿は当時はもうこの商会に?」
「はい。おりました」
「その事故現場に立ち会ったのですか?」
ドラマンが言いにくそうに顔を背けたのが、感じられた。彼の話を促すような言葉を続けようかと思ったが止め、言葉を待った。
「立ち会ったかどうかで言うと、立ち会ってはいません。あの場に立ち会ったのは、ハルン・ドゥニャ様だけだったので」
含みのある言い方だった。
「それは一体?」
「ハルン・ドゥニャ様を見て何か感じませんでしたか?」
「感じる?」
テリオスの言葉が彷徨う。
「それは彼の見た目から?」
「まあ、それも」
「はあ、なるほど」
レジナルドはなんとなくドラマンの言わんとすることがわかったが、テリオスは検討もつかないらしく、
「一体何のことだ?」
立ち止まり、わざわざこちらを振り返る。
「つまるところ――ハルン・ドゥニャと、前当主のカラムは親密な関係にあったと言うことだろう」
レジナルドの説明に、
「へ?」
と、テリオスは間の抜けた返事をする。
「おっしゃる通りです。でもそれを知るのはごく一部の者だけでした。ハルン・ドゥニャ様は先ほども申し上げた通り、カラム・ザハラーン様の右腕として、仕事をされていましたので、二人でいることをは特段不思議なことではありませんでしたから」
「事故と話されたのは、二人の間に何かあったのですか?」
「カラム様のお戯が過ぎたのかあの方は――妙な薬にハマっておられて」
「ああ」
レジナルドは自分でも驚くほど冷たい声が出たと思った。
「お仕事の関係で様々な国や地域を訪れます。そこで市場に出回らないような秘薬なるものを試されたりするのが、好きなようで」
「ドラマン殿もその実験の相手を?」
「いえ。まさか私は……」
恥ずかしそうに懸命に首を振る。
「それにしては随分とお詳しいようですね?」
「カラム様は気に入った薬は再度取り寄せられることが割とありまして。その手配を私が何度か担っていたものですから」
「なるほど。つまり、前当主のザハラーンは、情事の最中、違法薬物の過剰摂取によって命を落とした。それは醜聞になるため食あたりだと公表をする。しかし、王家にはどうしても正しい報告をしなければならず、その際に弱みとして事情を握られた。そんな筋書きでしょうか?」
「仰る通りです」
レジナルドに恐縮するようにドラマンは頷く。
「しかし、そうだとしても、前当主の奥方が亡くなったこととは関係がないだろう?」
テリオスは、二人を見やった。




