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カイロスの祝福  作者: 沙雪


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前国王の行方

「えっと、それでご存知であれば教えてほしんですけれど。前国王と王弟の派閥争いがあって、王弟派が押し切ったのだと話を聞きました。果たして、倒れた前国王はその後どうなったんですか?」

 ユーニスの鋭い質問にアバルトとエルマの二人は、首をすくめながらお互いの顔を見合わせていた。

「今の国王が即位してから、前国王は色々な理由をつけられ秘密裏に処刑されたと」

「その処刑は、公開はされていないんですね?」

「ああ」

 改めて聞かれると不安に思ってしまったのか、アバルトの声は自信のない様子だ。

「前国王が生きている可能性はないのでしょうか?」

 凍りついたように部屋の空気が止まる。

「まさか」

 アバルトは笑い声を交えて答える。隣のエルマの表情は引き攣ったままだ。ようやく、セシリオ達が他国から働きに来たわけではない、何かしらのもっと深い事情を抱えている人物だと理解してくれたようだった。

「でも逆に――自分の親族に対して血も涙もない話だけれど、生かしていく必要があるだろうか?」

 ユーニスの考えに疑問を呈すのはどうかと思ったのと、セシリオ自身もこんな無慈悲な言葉を伝えるのは本意ではない。ただ、レジナルドなら、こう考えるだろうなと思ったから。

「あるのかなと思いました。ザハラーン家がメルリさんを飼い殺しにしているのと同じように」

 ユーニスはつとめて冷静に言うのだが、その言葉の端々には、静かな怒りが沸々と感じられた。エルマが戸惑いながら、

「すみません。なんだか大変な話の中に俺なんかが口を挟んじまって」

「いや、こうなったらお前も道連れだ。そこに直れ」

 アバルトにピシャリと言われ、エルマは絨毯の一番端っこにちょこんと座る。

「ああは言いましたけど、見方を変えると、生きている可能性はありそうですね」

「生かされている可能性ということか?」

 エルマのぼやきに、アバルトがそう言い換える。セシリオも確かにそうだと頷く。

「その可能性が強いかもしれないですね。前王族しか知らない情報があるかもしれないと思って、例えばさっき――メルリさんがあの通路を知っていたのもやっぱり。現当主のカラム・ザハラーンはあの空間については知らなそうでしたし」

 セシリオはザハラーン家の秘匿とすることなのだろうと思い、秘密にされた通路のことはなるべくぼかしてそういった。

「神殿に、第七王子がよく出入りをされているとか、そういった話を聞いたことはありますか?」

 アバルトとエルマは顔を見合わせ二秒ほど間を置いた後、首を横に振る。

「いいえ。王族の方が神殿に出入りするなんて、何かの行事などがない限りはまずありえない話かと」

「修繕などの作業で、神殿に出入りした際に見かけたことなどは?」

「全くないですね」

 エルマはピシャリとそう答える。

「一度、神殿の中に入ってみたいですね――あ、その純粋に謎を解くためにです」

 ユーニスはあわあわと言い訳を始める。彼の本音はなんだかんだ、あの人に会いたいと思っていて、ふとその気持ちが漏れてしまったのだと。そんな彼は年相応に見えるので、セシリオはふっと笑みが漏れた。アバルトとエルマは何のことかわからずにぽかんと口を開けてぼんやりとしていた。

「別に疑っていませんから」

 セシリオの言葉に、はにかんだ笑みを見せたユーニス。

「えっと、神殿に行きたいとおっしゃられるのでしたら、今日、急遽来て欲しいと神殿の方から要請があって。ねえ、親方?」

「ああ、そうだそうだ」

 アバルトは本当にすっかり忘れていた様子で、いきなり立ち上がる。

「大丈夫ですよ親方。こっちで準備してますんで。それと親方が良ければ――御三方も、一応見習いの名目で良ければ、一緒に行きます?」

「行きます。いいんですか?」

 願ってもない申し出にユーニスは身を乗り出す。

 エルマは立ち上がったアバルトをじっと見上げていた。

「ああ、問題ない。ただ、もし前王の関係者が生きているとしても生きられるのはきっとあとわずかな時じゃないかね」

「どうしてです?」

「神殿にいられる年齢は決まっているからさ」

 アバルトは頭を掻きながら、ボソリと言った。

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