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カイロスの祝福  作者: 沙雪


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カイと先生

「いや多分、ユーニスさんの言葉の通りなんだと思う。僕は先生にとって、先生の活動を共にする同士の仲間って訳でも、そうじゃない関係性も目指せない半端者で」

 カイは涙も悔しそうな顔も一切見せずにただ笑顔を見せているだけだった。そんな彼を見て、昔の自分ならテリオスはなんて酷い人なんだと話を聞いて思っただけだったろう。しかし、今のセシリオは周囲や相手のことを以前よりも俯瞰して考えられるようになった。

「はっきりとは言えないけれど、テリオスさんはあの人なりに、思うところがあって、そうしているんじゃないかと思う。あくまでも僕が感じるだけで、はっきりとした確証がある訳ではないけれど」

 テリオスがカイに対して他の人とは違う感情を抱いているのはなんとなく感じる。彼はどちらかというと、レジナルドに近しいタイプの人だと思うから、尚更その考えはセシリオの中では、はっきりと感じられた。

「でも僕は時々怖くなるんです。幼いあの日――村に盗賊が押し寄せてきた日のように先生が僕の前からいつか消えてしまうのではないかと。ある日を境に日々の生活が一変してしまうのではないか。そんな不安が常にありまして。だから、ユーニスさんの気持ちがなんとなくわかる気がするんです。まさか、会うことがないと思っていた人が目の前に現れた時――ある意味、自分の信じて疑っていなかった現実が崩れ落ちて、どこか打ちのめされてしまったような感覚に陥ってしまうと思うんです」

 カイの言葉に迷いながらも、ユーニスは俯きながら、頷いた。

「想い続けていた、絵画の中でしか見たことも知ったこともなかったその人が目の前に現れたなら、普通は嬉しいと思うのかもしれませんけれど、僕はどうしてか逆に怖くなってしまって……不甲斐ないことです」

「そんなことはないと思う。一歩踏み出すのは誰だって怖い。だけど、手を伸ばしてみないとわからないこともある」

「もし、ルトフ王子に会えるならもう一度逢いたい」

 不意にユーニスが口にした言葉にカイとセシリオは歩みを止めた。

 カイに掴まれていた腕を払って、まっすぐにこちらを見つめる。

「僕はあの絵画に描かれたルトフ王子と毎日顔を見ていたから、すぐに神殿であの人だってわかりました。でも、向こうからすると、僕なんてどこの誰かもわからない訳で。しかもこのパラレルでは確かに僕はザハラーンの名前を持っているけれど――あの様子じゃあ、僕の家はなんの力にもなれそうもない」

 ユーニスが言葉を濁した理由は、あのハルン・ドゥニャの態度からであるのは、明白だ。それでもこの時、このパラレルで今、何が起こっているかなど、現状を把握できただけでも大いに助けになったとセシリオは思う。

「そんなことないです」

 カイは一生懸命な口調で伝え、セシリオもユーニスを見て大きく頷いた。

「ありがとうございます。でも、僕のザハラーン家の当主はこれからの助けにならないことは、あの態度を見て分かっていただけたと思います。あの人は絶対相手にしてはいけない。もうすでに、侯爵やゴードンさんの身を危険に巻き込んでいると思うと……それは今の僕が言えることではないですね、今、ここからだって出口の見えない迷路を進んでいるのと一緒ですから。皆さんをお守りすることができるのか、正直それすらも、はっきりとは言えない状態ですから。でも、それでもやっぱり出会ってしまった。神殿で見たあの人の姿が消えてくれないんです。忘れようとすればするほどもう一度会いたいと思ってしまって。会ったから何かあるとか、何かが変わる保証も何もないんですけれど」

 ユーニスの言葉に何も言えなかった。

「ちなみにカイさんと先生はどうしてザハラーン家に? 用事があるならわざわざガラスを壊さずとも正面から来たらよかったのに」

「それが……ちょっとあまり、大きな声では言えないご相談をしたかったので」

 

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