和解
「僕の部屋のステンドガラスを壊して部屋の中に入りましたよね? その事についてお詫びするとテリオスさんは仰って下さいました。そのお詫びを今、果たしてもらえませんか? 元の世界に戻るまでの間は、僕たちに対して、危害を加えない。そして、裏切ることはしないと」
ユーニスはテリオスに向かって堂々と言ってのける。他にも子息が幾人かいる中で、ユーニスを後継者にと言うのは、実の父親であるカラムも彼のこういった一面を知っているからなのだろうとレジナルドはふと思う。テリオスは一文字に口を閉じると、静かに騎士の礼をとった。
「必ずや、私の名前にかけて、その約束を守ってみせます」
ユーニスは笑顔で頷きレジナルドの方を見る。
「これでわだかまりは消えたと思って宜しいでしょうか?」
「ああ」
レジナルドは今この状況では、頷くことしかできない。
「もとはと言えば皆さんを巻き込んでしまった僕の責任です。まさか、カイロス神の祝福を、この国ではない方が一緒に受けることになるとは思ってもみませんでしたので。ですが、ここに来てしまった今思うのは、多分今回の事には皆さんのお力がきっと必要だったから、カイロス神は皆さんも一緒に選んだのだろうと思うのです。今回のことを解決するために僕はできることはやらせていただきたいと思いますので、皆さんにもご協力をお願いしたいと思っています」
ユーニスはそう言って、レジナルド達だけではなく、テリオスやカイに向かっても頭を下げた。
「自分たちの時間軸に帰ると言う目的は皆一緒なのですから、やりましょう」
セシリオが満を持して、そう言う。その言葉に反対する声はなかった。レジナルドだってそう言われてしまえば、反論できない。多分、セシリオはそれをわかっているのだろうと薄々感じていた。
ユーニスは顔を上げ、満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。これで、前に進めますね。あっ――侯爵様、僕や恐らくここで出会うほとんどの人達がお二人とはバース性が違う者ばかりです。ですから、アルファとオメガの絆や番に対する執着はわかりません。もしかしたらご迷惑をかけることがあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします」
ユーニスが再度頭を下げるので、レジナルドはそれを受け入れるべきなのだと、頭では分かっていても、本能では疑うのをやめることが出来ない自分がいるのも確かであった。こんなことになるのなら、アルファの抑制剤を持ってくれば、薬があれば、もっと冷静に対応できたと思うのだ。まさか新婚旅行で誰がこんなことに巻き込まれると予測できただろうか。
大きく息を吐き、ディアス侯爵家の紋章を頭の中に思い浮かべる。セシリオが心配そうにこちらを見上げて来たこともあって、レジナルドの頭のもやはだいぶ消え去った。
「こちらこそユーニスさんがそこまでしてくださったことについて、私から反論の余地はありません」
その後、テリオスの方を向き直って、手を差し出す。
「よろしく頼む」
「いや、私の身内にもアルファの者はいるから、わかる」
テリオスはそう言って、握手をした。
ただ妙に表情が暗いのが気になり、それを聞いてみたい衝動に駆られたが、今は聞くべきではない。と、理性が囁き、侯爵として完璧な笑みを作って、手を離した。
「状況をひと通り確認したい」
ユーニスの方に向き直った時には、ディアス侯爵としての威厳を完全に取り戻していた。




