鱗の鎧
「んー・・・・・・」
ジェシカは、一つ伸びをする。
ジェシカは、竜人種だ。
加えて言うと、ジェシカは血筋的に、結構強い竜族の血を発現している。
さらに、その純度も高い。
だからこそ、竜人種が使える竜術においても、高い出力を誇っている。
竜術は、竜の肉体を再現し、その力を引き出す術だ。
獣人種の化生術と違うのは、肉体そのものは変化させず、あくまでも竜の肉体ができることを現象として再現することだ。
本来なら、とても強力な力である。
竜、というのは、他種族に比べて、肉体的に極めて強靭だ。
それだけに、その力の再現だけとはいえ、竜術はそれ自体が極めて強力な術である。
ただ、弱点がないではない。
竜の肉体の再現である以上は、そのデメリットも再現してしまう。
たとえば、その巨体だ。
森の中の狭い環境では、竜の巨体は動きを制限される。
そのため、森の中では、基本的に動きを制限される。
これは、森の中だけに限った話ではない。
人間のサイズなど、大きくても二メートルを超えるかどうかだ。
他にも、単純に強力すぎる、とか、使うだけで周囲の環境を変えてしまうとか、とにかく、竜術は『他に合わせる』というのが、とても苦手だ。
「さて、見つけたのよ、と」
索敵のための魔道具を仕舞い、ジェシカは身構える。
メインに使うものが竜術である以上、他と連携が取りづらい弱点は、ジェシカも持っている。
だが、その部分に関しては、かなり頑張ってなんとか克服している。
頑張ったのは、主にルディランズとアガットだが。
では、一人で戦うときのジェシカは、どうなるか。
「・・・・・・行こうね。『ヴィーヴル』」
ジェシカのまとう鎧。
その胸部中央にある小さな宝石に、ジェシカが手を触れる。
触れた宝石は光を放ち、力を発した。
*****
森の中を、獣が疾駆している。
大型の獣だが、森に生きる獣らしく、木々の隙間をすり抜け、ぶつかることなくだが、最短の距離を突き抜けていく。
その後ろを、ジェシカは追いかけていた。
獣の走る速度は、とても速い。
人間がただ走っただけで追いつける速度ではない。
だが、ジェシカはそれに追いすがった。
「よっと」
獣が、木々を利用して影に入り、ジェシカの視線から逃れようとした。
その後を、ジェシカは軽い調子で追いかける。
とん、と軽い一歩を踏んだ直後に、ジェシカの体が加速する。
その眼前に、大木の幹が迫る。
「右」
ジェシカの背中で、光が小さく爆発した。
その光に押され、ジェシカの体が幹をかわし、
「はい、追い付いたわよ、と」
腰から抜いた剣を、その勢いに任せて一振り。
瞬間、前を走っていた獣が首を跳ね飛ばされた。
「はい。いっちょあがりっと」
解体はあとでね、と保管庫へとその死体を放り込み、ジェシカは、次はー、と考える。
生命サーチの魔道具は、燃費が決していいものではない。
竜力を持つジェシカにとっては、魔術で起動する魔道具は、決して効率のいい道具ではないからだ。
ジェシカがまとう鎧『ヴィーヴル』も同じだ。
鱗甲型甲冑。
見た目は、いくつもの鎧鱗片をつなぎ合わせたスケイルメイルである。
性能は、竜術の再現。
長い研究の果て、魔道具には、各種族特性の大まかな再現に至っているものがある。
それを鎧に転用し、魔力を籠めることで、竜術の再現が可能になっている鎧である。
もっとも、魔術による種族特性の再現は、純粋な種族特性の発現に比べて、かなり燃費が悪い。
ただ、それによって、得られるものもある。
「次は・・・・・・」
生命サーチの魔道具を作動させ、狙いの獣を探す。
その途中で、ジェシカは首を傾げた。
「あら。別の冒険者?」
その反応に引っかかったものを見て、ジェシカは首を傾げた。
「・・・・・・まずいわね」
その近くに、たぶん標的らしい影がある。
「取られると面倒よね」
やれやれ、とため息を吐いて、ジェシカは飛んだ。
*****
薮をかき分ける音がする。
「なんだ?」
ニコラスが、周囲を見渡す。
「エミリー?」
「わからない。グレッグ。マークの引き上げ、急いで」
「おう」
ぐい、ぐい、と綱が引かれる。
「よっと・・・・・・」
マークが、崖の淵に手をかけて、上がってきた。
「なんだ?」
崖を上がってきた直後に、マークは耳を澄ませた。
「・・・・・・そっち!」
「こっち!?」
エミリーが見た方向。
そこの藪をかき分けて、モンスターが現れた。
「・・・・・・ちょ!!」
見上げるような大きなモンスターだ。
それを前にして、四人は一瞬動きを止める。
そして、モンスターが咆哮した。
「・・・・・・!」
ぐ、と緊張に体を固めたマーク達。
その瞬間に、横合いから、モンスターがふっとばされた。
「ちょっと、ごめんねー」
ジェシカだった。
横から、モンスターを殴り飛ばして、
「あれ、こっちでもらってもいいかしら?」
「はい! 大丈夫です!!」
エミリーの応えを聞いて、ジェシカはほほ笑むと、剣を抜いて、モンスターに襲い掛かった。
・ヴィーヴル
鱗甲型甲冑。スケイルメイル。種族特性発揮装備。
細部に至るまで、ルディランズの手の入った魔道具でもある。
燃費は悪いが、ジェシカ専用に調整された鎧は、ジェシカの竜術を再現する。
使用してもぶっちゃけ燃費が悪いし、出力自体も自身で出すものよりは下。
だが、ジェシカ自身の竜術と併用することによって、出力と制御能力が各段に上昇する。
こういった種族特性発揮装備は、本人が持たない種族特性を利用した方が効率はいい。
ただ、重ねて使用することで得られるメリットもあるため、個人差はある。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




