モンスター狩り
マークは、眼前の光景を呆然と見入っていた。
森の藪から出てきたモンスターは、巨体だった。
人間の二倍程度の大きさの存在。
熊と狼が混ざったような形。
後ろの二本足で立っており、太い前足が四本生えている。
上の腕が関節が一つ多くて長く、下の腕は太い。
六本脚のモンスターだ。
上の腕が振り回された。
腕の先には、鋭い爪がある。
「はいはいっと!」
その腕を片手で握った剣でやすやすといなす。
その瞬間に、振るわれた腕を挟むように発生していた障壁に、マークは気づいた。
竜術による『竜の鱗』の再現だ。
通常、肉体に沿ってしか展開できない防御用だが、ジェシカがまとう『ヴィーヴル』が発生させる方は、展開場所はある程度選べる。
だから、自前のものと、『ヴィーヴル』のものとを組み合わせ、腕を挟むように発生させることで、腕の勢いをつぶしたのだ。
「ん」
しゃん、と小さな回転で剣が振るわれる。
回転によって振るわれたジェシカの剣は、いなされて伸びた前足を切り落とす。
「―――!!」
腕を切り落とされたことに、苦痛の叫びをあげる獣。
ジェシカは、それを無視して前へと踏み込む。
モンスターの方は、後ろへと下がりながら、残ったもう一方の上腕を振るい、
「繰り返しかな?」
同じような流れで切り落とされる。
さらに踏み込むジェシカに、下腕を重ねて防御とするが、
「それじゃ、防御にならないのよね」
その上から、ジェシカは剣を突き刺した。
竜術の一つ、『竜の爪』。
威力は込めた竜力によるが、大概の場合、その攻撃は防御を貫通する。
そうでなくとも、たやすく腕を切り落とすほどの切れ味を持った剣だ。
下腕がいくら太く、重ねられているとしても、骨に直接突き刺すことでもしない限りは、突き刺しを邪魔するほどではない。
「んー。やばい。はずした」
突き刺し、という点攻撃なのがよくなかった。
腕の骨を外して刺したせいで、急所をずれている。
引き抜き、
「やっぱこっちね」
とん、と軽く跳んで、モンスターの頭上で一回転。
さかさま向きに双剣を振るい、
「はい。おわりっと」
ずるり、とずれて、モンスターの首が落ちた。
*****
「はー・・・・・・」
ジェシカの狩りを見た。
ジェシカは、あの後、狩ったモンスターをどこへともなく仕舞った。
保管庫の魔道具だろう、とエミリーは言っていた。
そして、森の中から外へと向かう道すがら、マークはまだ、ジェシカの戦闘を反芻している。
「何よ? まだ思い出してるの?」
「めっちゃ早かったろうが」
鮮やかだった、と思う。
かろうじて目で終えた。
それなりの手順を踏んで倒していたように見えたが、実際には、ほとんど一瞬に近かったと思う。
少なくとも、今のマークでは、あのモンスター相手に一対一では勝てない。
「・・・・・・俺、まだまだな」
「そんなの当たり前じゃないのよ」
「いや、そういうことじゃなくてさー」
もし、あそこでジェシカが間に合わなかったら、どうなっただろうか。
一対一では勝てないとしても、みんなで力を合わせれば。
「・・・・・・んー?」
どうにも、勝てるイメージがわかない。
「俺らだったら、あのモンスター勝てたか?」
「・・・・・・無理じゃない? 場所が悪いし」
「最初に奇襲できたんならともかく、正面から向き合ったら、無理じゃないかなあ」
エミリーは否定的で、ニコラスも首を傾げている。
ただ、それはマークには不満だ。
「グレッグは? どうよ?」
「おらも無理だと思うよ? 逃げるので精一杯になるんでねえかな?」
「なんでだよ?」
「おらが、あのモンスターの攻撃受けきれねえよ」
『虹追いの竜』では、マークとグレッグが前衛。ニコラスが後衛で、エミリーが後衛寄りに位置して前衛のカバーと後衛のガードの両方をこなす形だ。
そして、マークでは軽いため、グレッグが主にタンク役を請け負っている。
「弱気なこと言うなよ。グレッグならできるって」
「いやあ。おらの目だと、あのモンスターの攻撃全然見えんよ。盾構えても、あっちの方が体格も力も上じゃあ、押しつぶされて終わりだ」
「・・・・・・むう・・・・・・」
こういう時、グレッグは冷静だ。
マークやエミリーは、まだ冒険者なり立てで、武器を取り扱った経験も薄い。
一方で、ニコラスはそれなりの修行してきているし、グレッグも武術の経験がある分、マーク達より強い。
そのグレッグが言うのなら、マークは受け入れるしかない。
「・・・・・・無理かあ」
「仮にうまくできても、誰か怪我するわ。それじゃ負けよ」
「そうかあ・・・・・・」
不満を声ににじませ、マークはふてくされる。
そんなマークの肩を叩き、エミリーは前へと押した。
「まだ帰り道の途中よ? 気を抜かない!」
「・・・・・・おう」
そして、四人は無事に森から脱出した。
*****
「ただいまー」
「お、お帰りなさい。リーダー」
採取をしている三人のところに戻ってきたジェシカは、軽い調子で袋を取り出す。
中に入っているのは、
「木の実とか採ってきた。確認して?」
「おう。そこ置いとくだ」
まだ根っこ掘りにいそしんでいるマルコの指示通り、持っていた袋をそこに置いて、ジェシカは水筒から水を飲んだ。
「で? 討伐の方は?」
「全部仕留めて来た。そういえば、途中で新人っぽい子のパーティーを見たわよ」
「へえ?」
「面白そうだったから、ちょっとゆっくり動いてみたんだけど、いいね。才能あるかも」
ふふ、とジェシカは笑った。
大きな槌を持ったドヴェルクと思しき子は、動きは見切れていなかったが、後衛の回復役をかばえる位置取りを欠かしていなかった。
守られている回復役も、いつでも回復ができるように、と構えていたし、あれならとっさの際に回避行動くらいは取れただろう。
リーダーらしい子は、全身の感覚でジェシカの動きを追うことができていて、ジェシカの動きに合わせて体がちょっと動いていた。
たぶん、ある程度は動きを目で追えていただろう。
「でも、一番はあの女の子かなあ」
「どういう感じだったんだ?」
「そうねえ・・・・・・」
うーん、とジェシカは悩む。
たぶん、本人に自覚はないだろうが、ジェシカの動きを一番見えていたのは、あの女の子だ。
それに、
「一人だけね?」
「うん」
「とっさに逃げ道を確認してた」
あの時、モンスターに対して、四人は崖を背にしており、逃げ場がなかった。
ジェシカが割って入ったことで、危険は脱したが、もしそうなっていなかったら、崖から落ちて死んでいた可能性がある。
ただ、割り込む直前に見ていたが、四人の中で、三人が戦闘準備をする中で、荷物を手早くまとめ、いち早く脱出路を確認していた。
「もし、あの子が司令塔なら、あの子たちの生存性はかなり高いだろうし、伸びるかも」
ふっふっふ、とジェシカは笑った。
「冒険者なんて、生き残ってなんぼだからね」
・モンスター素材
モンスターは、異界の中で討伐した場合、『力核』という物質を残して消滅する。
その際に、ドロップ品として、肉体の一部を落としていくことがある。
だが、異界の外にいるものなら、生物として実体がある。
たいていの場合は、普通の獣の素材よりも劣ったものしか残らないが、討伐されたモンスター、というのは、その死体を残す。
ただ、残った死体は、大概焼却なりなんなりして処分する。
放っておくと、例えばキマイラのような肉食に食われ、余計な危険を増やすこともあり得るし、場合によってはアンデッド化してしまう可能性があるため。
なお、死体を丸ごと持って帰れば、異界内で仕留めるものより、高純度な『力核』へと精製しなおすことができるため、大体は死体ごと持って帰るのが常識。
------------------------------------------------------------------
評価などいただけると励みになります。
よろしくお願いします。
別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




