竜は空を飛ぶものだ
乗合馬車、というのがある。
街道を走り、それぞれの都市、街の間をつなぐ、公共交通機関だ。
街道を走る馬車なら、大体誰かしら冒険者が乗り込んでいる。
「ついたぜー」
マークは、ぐ、と伸びをする。
「まだ半分よ」
そんなマークに荷物を投げつけ、エミリーも馬車から下りる。
「こっから?」
「歩きで一日」
乗合馬車は、一応街道沿いの宿泊施設を利用する。
とはいえ、御者と、普通の旅行者以外は、というか、冒険者は、やはり宿泊施設は使わずに、近くで野営を行うのが常だ。
マーク達も、最初の一日は乗合馬車に乗ったものの、途中で宿泊施設の近くで一泊している。
それから、今は、乗合馬車の目的地となっていた、街に到着していた。
マーク達が目的地とする森は、この街からさらに徒歩で半日程度歩いた場所にある。
さすがに、森までは馬車は通っていない。
「ここで宿取るのかい?」
「まさか?」
ニコラスが馬車から下りながら聞く。
すると、エミリーは肩をすくめ、
「まだ日も高いのに、ここで休む理由なんかないでしょ」
「ええー? マジで?」
「マジよ。ていうか、宿に泊まる余裕なんかない!」
行くわよ、と先頭に立って歩き出したエミリーの後を、それぞれが追った。
「せめて、飯だけ食わね?」
「・・・・・・む」
マークからかけられた声に、エミリーの足が止まる。
ここから森へと向かえば、ごはんは保存食だ。
グレッグの野営料理はおいしいが、
「・・・・・・無駄遣いにならない?」
「いいだろ。ていうか、あれなら、補給もしといたらいいんじゃね?」
「あんまりよくないのよ」
街の規模は、それほど大きいわけではない。
基本的に、物価というのは、大きい街の方が安いものは多い。
少なくとも、冒険者用品は、大きい街の方が安いのだ。
「・・・・・・うーん?」
エミリーは悩んでいるが、その間にマークがエミリーの腕を引く。
「飯だけ食おうぜ。毎回グレッグに作ってもらうのも悪いだろ?」
「おらは気にしねえぞ?」
「いいからいいから」
ニコラスはグレッグを促し、四人は街へと進む。
「それに、新鮮な食材買おうぜ。保存食ばっかだと味気ねえよ」
「ああ、それはいいな。やっぱ、乾燥野菜よか、新鮮な野菜の方が栄養もいいしよ」
「ほらほら。決まりだ」
「・・・・・・仕方ないわね」
はあ、とエミリーはため息を吐いて、パーティーは街へと向かった。
*****
ごおおおおぉぉぉ、と高空で、風が耳元を過ぎていく。
「・・・・・・すごいですね」
ウィシアは、はー、と感嘆の息を吐く。
息は白く染まって後ろへと流れていくが、ウィシア自身は、寒さは感じていない。
「・・・・・・うーん、こういう感じか」
はあ、とジェシカはため息を吐きつつも、手に持った魔道具へと力を送る。
「先生が作ったんですよね?」
「試作品とは言ってたけど、割と悪く、はないわよね?」
うん、とジェシカは周囲を見る。
魔道具、というのは、魔術を使えるようにする様々な道具全般を指す。
種類や性能は様々だが、今回ジェシカが持ち出したのは、バックパックの形をしている。
大きめの四角い箱型をした魔道具は、ルディランズが設計、製作をした、ジェシカ専用の魔道具である。
正確には、竜人種なら誰でも使えるらしい。
性能は、すなわち竜の翼の拡大だ。
つまりは、
「普段の私がやってるみたいな、竜の翼による飛翔を、パーティーメンバー全員に適用する、と」
結果として、パーティーメンバー全員で空を飛べる。
空を飛べるなら、移動速度はかなりのものだ。
「・・・・・・空って、意外と敵がいないんですね」
「いるときはいるわよー」
空を飛ぶ魔獣やモンスターなど、枚挙にいとまがない。
加えて、空や海にいる生物、というのは、地上にいる生物に比べて、狂暴なのが多い。
地上なら、街道周りは帝国軍や冒険者の巡回などによって、安全が保たれているが、空や海にはそういうのはないからだ。
「ただ、竜の気配をここまで感じて、わざわざ絡みに来るのが少ないだけよ」
竜は、生物としては上位の存在だ。
竜ぐらい食料にする生物がいないわけではないが、それでもあえて挑もうとする生物もすくないものだ。
「ま、一直線に向かうし、すぐ着くから」
「はい」
「マルコ。準備できてる?」
「問題ねえだよ」
予定としては、森の手前で野営をした後、森に入ることになる。
ただ、今回狙っている薬草は、それほどレアなものではない。
「ええっと、ミーシャさんから、何か依頼を受けてるんですよね?」
「依頼っていうか、あれよね」
えーと、と取り出した紙は、数枚。
多くは、マルコが求めている薬草以外の、森での採取物。
それから、
「なんか変なのがいるって噂だから、それの討伐依頼ね」
危険度はそれなり。
ただ、指名依頼ではないし、場合によっては他の冒険者によって討伐されている可能性もある。
遭遇したらでいい、とは言われているが、
「シェン。探せるかしら?」
「・・・・・・やってみる。でも、期待はしないでくれ」
「大丈夫よ。いなかったらいなかったでいいから」
当然のことながら、ジェシカの頭に、他の冒険者、まして、自分たちをライバル視しているような冒険者たちのことなど、かけらもなかった。
・空の危険
最も有名なのは、世界中の空を気流にのってゆったりと回遊する、『空亀』。
世界最大の生物、としても名高く、性質は穏やかで、背中には独自の生態系を持っている。
他、『空蜘蛛』『羽クジラ』『翼蛸』など、常に空を浮遊する生物、というのは、結構な数がいる。
その中でも、空に縄張りを持っている生物もり、そういった生物は近づくと襲ってくる。
空は、安全確保のための巡回なども必要ないため、そういった生態系は育つがままになっているため、人間の理屈は一切通用しない。
そもそも、空を飛んで移動する手段が、現段階では、空を飛べる生物を使ってのものくらいしかないため、空の危険は軽視されているのが常である。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




