薬草探しのちょっと前
「薬草探し?」
ふーん、とジェシカは唸る。
『虹の飛島』のホームだ。
ジェシカは、第一部隊、つまりは、自分のパーティーメンバーであるマルコから依頼についての相談を受けていた。
「必要なの?」
「だべ」
こく、とマルコは頷いた。
額に小さな角を持つマルコは、小鬼種、という種族だ。
小柄な体躯だが、手足は長く、動きは素早い。
下顎の牙がとがっているため、顎を突き出したような顔になっているが、目は丸く円らで愛嬌がある。
『虹の飛島』では、薬師であり、また薬による回復と、補助魔法によるバフを行う、ヒーラーでありバッファーである。
そのマルコが、今回は薬師として、一つの頼みをジェシカにしていた。
「こっから、三日ほどのところにある森に、ゲレゲレル草っつう草があんだべ。おらっちの村じゃあ、そいつを使って薬を作る」
「・・・・・・変な名前の草ねえ」
「まあ、おらっちのところのだけかもしんねけどね。岩陰に生えとる草での。薬作るときに、こいつの煮汁をベースにすっと、効果が安定すんだべ」
「へえ?」
「だから、いつも在庫が切れんようにしとったけんど、こないだの魔王との戦いで、大分使っちまったんじゃ」
「ああ。だから、採取に行きたいってことか」
「だべ」
「わかったわ」
うん、とジェシカは立ち上がる。
「そういうことなら、協会行って、ついでにそっち方面の依頼ないか見てから行きましょ? 三日もかかるなら、ついでになんかやった方が効率いいもの」
「だな。準備してくべ」
「はいはーい」
ひらひらと手を振って、ジェシカは、ホームを出ていくのだった。
*****
「用意できたかー?」
『虹追いの竜』の面々は、冒険者協会のロビーで集まって、準備の確認をしていた。
依頼を行うため、必要な用意ができたかどうか、だが。
「ああ、こちらは問題なく」
「これだ」
ニコラスは、市場で買い込んできたものを並べる。
四人分の食料が、必要な日数分。
さらに、旅の用意として必要なもので、消耗品を集めてある。
「うん。準備はいいわね」
「そちらは?」
「大丈夫」
「おう! まかせとけ!」
ぐ、と親指を立てて、元気よく返事をするマークだが、その姿は擦り傷だらけでぼろぼろだ。
「・・・・・・本当に大丈夫?」
「まあ、あたしもいるから」
「そうか」
「おいおい! 信用しろって! なあ、おい!」
ニコラスが不安げな顔をするが、エミリーは首を振って、気にするな、と伝える。
そのやり取りに傷ついたか、あるいは憤ったか、マークは不満をあらわに、声を大きくした。
それを適当にいなしながら、エミリーは準備された品々を確認して、
「うん。これで大丈夫」
そして、
「明日は、朝に門に集合。遅れないでよ?」
「おう!」
「わかった」
「朝だな」
それぞれがうなづいて、その場は解散となった。
*****
「・・・・・・お?」
「どうしたの?」
協会から外に出ようとしたところで、マークが足を止めた。
それに気づいたエミリーが同じように足を止めると、マークがある方向を指さした。
「ほら、あそこ」
「ん? ・・・・・・ああ、ジェシカさん」
『虹の飛島』のジェシカ・リラン。
マーク達にとっては、あこがれのクランのリーダーだ。
「かっけえ」
「女の人を見て、その感想が出てくるのはどうかと思うんだけど」
ジェシカは、きびきびと歩いている。
協会の近くにいる者の中には、マーク達のように、その姿を目で追っている者も多い。
先日の魔王討伐戦が、ジャン=ルイの仕切りによる大宴会のおかげで大分広まったこともあり、『虹の飛島』の名声はより高まっている。
その渦中の人物、ともなれば、それだけ注目されてもおかしくはない。
もともと、新進気鋭で大躍進中、と注目の的だったこともあり、その視線の量は増えた。
「・・・・・・ん?」
「どうしたのよ?」
そのジェシカは、まっすぐに協会のカウンターまで行くと、何やら受付と話している。
「・・・・・・えっとさ」
「何?」
「ジェシカさんたち、俺らが行こうとしている森に依頼がないか聞いてる」
「・・・・・・へ?」
エミリーは、きょとん、として、それからはっとして、マークの頭をたたいた。
「ばか! 何盗み聞きしてんの!!」
「いや、聞こえたんだよ!」
マークは、種族柄なのか何なのか、確かに耳がいい。
目で見える範囲なら、注目していれば大体の音は聞こえる、という。
そうでなくとも、音を聞く力は優れていて、戦闘に立って索敵させれば、まず奇襲は受けないくらいだ。
「そうだとしても、聞かなかった振りしなさい!」
マナーよ、とエミリーが注意すると、マークは首をすくめた。
「わりい」
「まったく・・・・・・。さっさと行くわよ。これ以上ここにいて、余計なことを聞いたらあれだし」
「お、おお。そうだな」
うん、と頷いて、最後にもう一度ジェシカへと目をやったマークは、え、とまた目を見開いた。
「・・・・・・マーク?」
「あ、ああ。いや、うん。なんでもない」
エミリーに呼ばれて、マークは慌てて後を追った。
ただ、その前に、ジェシカの話していた内容が、耳に残っている。
「森の岩場に、薬草を取りに行く・・・・・・」
もしかしたら、自分たちの依頼と狙っているものは同じかもしれない。
そう思うと、ちょっと震えた。
仮に、ジェシカ達と取り合いになったら、まず勝てないだろう。
だけど、
「・・・・・・!」
もし、自分たちが先に薬草を採れたなら。
そんな想像をして、ぶるり、と震えた。
よし、と気合を入れて進む。
そんなマークの頭の中では、自分たちとジェシカ達が、同じ薬草を求めて競争する。
そんな未来が絶対に来ると、確信があった。
・小鬼種
鬼人種の中でも、小柄な方が分類される。
手先が器用、きれい好き、素早い。
額に小さい角があり、手足が胴に比べて長い。
上か下かのどちらかの牙が長く突き出しているため、口調がちょっと特徴的。
種族としては、実は巨人族の末裔だが、体を大きくすることはできない。
ただ、手で何かを作る際に、その作る工程になんとなくうまくいく程度のバフがかかる。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




