薬草探し
「指名依頼か」
「ええ。無理はないですよね?」
「・・・・・・・・・・・・よし、問題ない」
「はい」
エレナは、上司に書類を提示し、上司はそれに判を押す。
冒険者協会の仕事は、役所仕事だ。
きちんと手続きを取らないと、ペンの一つも補充できない。
書類に不備さえなければ、大概のことは通るけれど、冒険者、というのは、その書類を作るために必要な手続きを厭う者が多い。
そのために、有力な冒険者や、将来有望な冒険者などには、協会職員が専属でつく。
クランなどになれば、専属の職員がホームに常駐するようになったりもする。
「しかし、指名相手は・・・・・・」
「ええ。彼らに頼もうかと。そろそろ、いいタイミングかと思いますし」
「なるほど。確かに、『虹の飛島』の三人以来、新規の冒険者は増えたしな」
「ええ。ルイーゼさんには、苦労を掛けましたけれど」
ふうむ、とエレナの上司は、依頼内容の記された書類を手に、一つうなった。
「しかし、デニス氏か」
「何かありますか?」
「いや、ただ、引退しても研究三昧とは、らしい、というかなんというか・・・・・・」
「頼もしいじゃないですか」
「我々としては、な」
ふ、と上司は苦笑いを浮かべた。
実際のところ、デニス・クレショフという錬金術師は、冒険者協会管轄のポーションの流通量を増やし、全体でのコストを下げた。
これによって、冒険者にポーションが行き渡りやすくなったし、冒険者協会も利益を上げやすくなっている。
その功績を考えると、多少の無茶は聞いてもいい。
正直、こんな裏技を使わずとも、冒険者協会側で依頼料を肩代わりしてもいいくらいだ。
「ともあれ、手続きに問題はない。依頼はこれから?」
「ええ。彼らが来たら、話してみようと思います」
「任せよう」
上司の承認も取れた。
エレナは、嬉しそうにうなづいた。
*****
「薬草採取、すか?」
翌日のこと。
エレナは、協会を訪れたあるパーティーを呼んでいた。
男三人、女一人の四人パーティーだ。
若い、というより、まだ幼さを感じる四人組は、最近冒険者になって、パーティーを組んだばかりの一団である。
パーティー名は、『虹追いの竜』。
「ええ。難易度はそれほどでもないのだけれど、一応指名依頼、という形を取っています」
「指名依頼。俺らが・・・・・・」
ほー、となんともうれしさの混じった、戸惑いと興奮の息を吐いているのを見て、エレナはニコリと笑う。
「どうします?」
「受けます」
「あら即答」
「こらこら。内容少しは確認しなさいよ!」
リーダーである少年が、ほぼ反射的に依頼の紙を受け取ろうとしたのを、横から少女が止めた。
「なんだよエミリー。指名依頼だぞ! 指名依頼。受けたら、星だってもらえるかも」
「だからって、もしあたしらでできない依頼だったらどうするのよ!」
まったく、と言いながら、エミリー、と呼ばれた少女は、依頼の内容に目を通す。
「まあまあ、リーダー」
「そうそう。エミリーの言うことの方が正しいって。そもそも、俺ら、まだ星なんて持ってねえ新人パーティーなんだからさ」
「そりゃそうだけどよ」
他の二人にたしなめられ、リーダーの少年は、ふてくされながらもうなづいた。
「ていうか、エレナさん。なんであたしらにこんな依頼回してくれるんですか?」
「皆さんの納品する薬草の品質がいいからですね。真面目な冒険者さんへのご褒美と、新人さんのこれからの活躍に期待して、っていうことで」
えー、と不信そうな目をするエミリーに対し、エレナにおだてられ、まんざらでもなさそうな顔で、えへへ、と笑う男三人。
その三人をじっとりした目で見て、ため息を吐きながら、エミリーはエレナに向き直る。
「本当のところは、どうなんですか?」
「両方とも本当ですよ? 裏はないです。ただ、この依頼の本当のメリットは、依頼主さんの方にありますね」
「ええっと、デニス、さん?」
「錬金術師さんです。協会にポーションを納品してくれています」
「へえ・・・・・・」
「もし、この依頼を受けてもらえるなら、直接デニスさんから、依頼の内容を聞いてもらうことになります。・・・・・・どうしますか?」
「・・・・・・」
エミリーは、しばらく考えて、
「マーク。どうするの?」
「え。俺?」
リーダーである少年は、突然言われて、戸惑っている。
だが、それに対し、エミリーは、はあ、とため息を吐いた。
「あのね。あんたが、リーダーでしょうが」
「いや、エミリーが見てるから、エミリーが決めるのかなって」
「・・・・・・」
「あ、いや。うん。メリットでかいんだろ? 受けるって。薬草採取だし」
エミリーからじっとりとした目で睨まれ、マークと呼ばれた、リーダーの少年は、慌ててうなづいた。
ふん、とエミリーは頷き、エレナにうなづいて見せる。
「じゃ、明日の朝。ここに来てくださいね」
「わかりました」
・薬草採取
冒険者の依頼としては、割とよくあるありふれたもの。
といっても、採取依頼で取得される量などたかが知れており、これでポーションが賄われる、などということは全くない。
こういった依頼を出すのは、大体が個人で薬を扱っている錬金術師や薬師などで、その目的も主に研究用である。
冒険者協会が出す場合もあるが、それは協会が行っている冒険者育成の教材用などが目的。
協会に納品を行うような、大口の依頼を遂行する商店などは、薬草畑を持つ農家などと専属の契約を行っているため、この手の依頼は出さない。
ただ、常駐依頼として、協会では常に薬草の買い取りをしているため、薬草採取は冒険者への依頼としては、難易度が低いモノ、と見られがち。
ただし、きちんと使えるレベルの薬草採取、となると、専門知識に技術が必要となるため、ものによっては難易度がかなり高い。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




