出発する一団
王権領域。
現在発見されている領域の中では、最大級の世界領域である。
その中で、最大勢力である国家こそ、帝国だ。
人類の領域は、異界から回収できる異界核などを利用すると、空間的に広げることができる。
そのため、王権領域では、異界を攻略し異界核を手に入れた冒険者によって広げられた土地を領土として、国家が発生するのはよくある話だ。
帝国は、基本的にそういった国々とは友好関係を結ぶ。
だが、そういった王国は、しばらくすると帝国に帰属するようになる。
それは、その方が領土の運営が楽になるからだ。
帰属しても、その土地の領主として任命されるし、むしろそういった領地経営に優れた能力を持つ文官を派遣してもらえるし、なんだったら補助金すらもらえる。
自力で運営するより、はるかに楽に領地経済を回せるようになるため、自発的に従属していくのだ。
その仕組みを作ったものこそ、『血の宰相』と呼ばれる、アルノーである。
現代において、単純に宰相、というと、アルノーを指すことが多い。
たとえ当代の宰相が別人だったとしても、単に『宰相閣下』というと、アルノーのことだと思っていい。
そのくらい、アルノー、という存在は周知されているのだ。
下手をすると、今の代の皇帝陛下より有名かもしれない。
*****
「では、後は頼む」
「はあ。・・・・・・ええっと、あとは頼むと言われても・・・・・・」
アルノーのにこやかな頼みに対し、宰相の補佐官の一人が困惑した顔をした。
その視線の向かう先には、アルノーの姿がある。
それから視線が動くと、そこにもアルノーの姿がある。
補佐官は、自分の目の前に立っているアルノーと、執務机に座って執務に当たっているアルノーとの間で、視線をきょろきょろと動かしている。
まだ若い補佐官の困惑を、アルノーはむしろにやにやとした顔で見ている。
「宰相閣下。あんまり若いのを困らせんでくださいよ」
「先輩・・・・・・」
その若い補佐官の後ろから、中年の補佐官が苦笑しながら言葉を飛ばした。
「はっはっは」
「笑いごとじゃないんですがねえ」
「仕事に、滞りは出ないはずだ」
自分の腕を千切って作った分身体である。
アルノーは、それに執務の身代わりをやらせて、自分はアビロアへと向かう準備をしていた。
一時的に本体がいなくなることについて、補佐官たちに伝えに来た場面である。
もっとも、分身体が残っている以上は、執務に影響はないし、ほとんどアルノーの遊び心だが。
「とはいえ、残してある問題もある。ついでに視察もしてくるとも」
「ああ、『あの』問題ですか」
中年の補佐官は、ううむ、とうなった。
「一応、現地に調査員派遣してんですがね」
「わかっている。ただ、小生のカンでは、長引きそうな気がしていてね」
「いやだなあ。閣下のカンって当たるんで」
やれやれ、と補佐官は唸る。
「じゃあ、何が起きてもいいようにしときます」
「いやはや。わかっているね。頼もしいことだ」
「はいはい。任せておいてくださいよ」
「えっと、先輩?」
「おう、お前は、自分の仕事をちゃんとやっとけ」
「あ、はい」
しっし、と若手の補佐官を自席へと追いやり、中年の補佐官はアルノーへと向き直る。
「詳しい資料は、これになるんで」
「うむ。あとは任せておく」
*****
「では閣下。よろしくお願いいたします!」
「うむ。アラン。よろしく頼むよ!」
「はい!!」
元気よくうなづいたアランに満足そうにうなづき、アルノーは馬車に乗った。
アランは、と言えば、馬に乗っている。
さらに、護衛戦力として、アルノーの私兵団が周囲を囲み、三十人ほどの大所帯が、帝都の門をくぐった。
*****
帝都の門を出る一団。
宰相閣下と、その私兵団であることは、それなりに目端が知っている者は知っている。
商人の馬車や、旅人の一団が、その後ろに続き、門を出発する一団の規模は大きくなっていた。
護衛の代金をケチっている者達の集団だ。
その中に紛れ込む小さな人影があった。
荷台の中へこっそりと紛れ込んだその者達は、ぐ、と静かに荷物の影へと体を滑り込ませる。
「・・・・・・・・・・・・」
そして、一団は出発した。
・私兵
貴族は、ある程度の私兵を持つものである。
名のある冒険者を雇ったり、軍からスカウトしてきたり、と様々。
帝国は、このあたりの貴族の権利が割と大きめというか、規制が緩い。
金さえあれば、私兵の編制はたやすいため、個人が兵力を持つことにもなりかねないが、不思議とうまくいっている。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




