血の宰相
オシア・レビエナスが与えられている『剣聖』という二つ名は、冒険者としてのものだ。
ただ、通りがいいから、実質冒険者ではなくなった今でも、その二つ名で呼ばれている。
そんなオシアの現職は、帝国の軍事力の一つ。七つある軍団のうちの一つの長である。
これより上の役職は、軍団すべてを統括する将軍のみであり、その地位が皇帝のものである、となると、実質的な軍事の頂点の一つである。
「以上、報告終わり」
帝国首都『ラクリア』。
王権領域という広大な領域の中で、最大国家である帝国の首都らしい、絢爛豪華な都市である。
中央区画が、帝国六大都市と呼ばれるそれぞれの大都市とほぼ同規模。
さらに、そこから各六大都市の方角へと区画が伸びているため、上空から見下ろすと六角の星の形状に見える。
それぞれの星の角には、六大都市にちなんだ名がつけられており、それぞれの都市からの特色を受け継いで、独特の気風を持っている。
中央区にある、最も偉大で絢爛な施設。
それこそ、城である。
帝国の権威をこれでもかと顕示するため、一際豪華に、絢爛に作られ、定期的にどこかの区画が改装されて、常に一定の新しさを持っている。
城という名の芸術作品、とまで言われる建築物だ。
世界で確認されている限りにおいて、人類による最も巨大な建築物、と言われている。
そんな城は、執政のための施設でもある故に、帝国宰相の執務室がある。
その執務室の中で、オシアは宰相へと黒竜討伐の報告に来ていた。
通常の討伐ならばともかく、軍団長が自ら動いた仕事、となれば、宰相が報告を受けるのは道理である。
とはいえ、
「キミが自分で出ることはなかったと思うがね」
「たまにはやらないと、カンが狂うものだ」
「そうかね」
青白い顔の宰相は、軽く笑う。
帝国、という巨大国家の宰相は、政治のトップだ。
七人いる軍団長とは違い、一人で政治のすべてを司る宰相という位は、非常に重責、かつ激務である。
もっとも、帝国の宰相位は、就任は連続で五年まで、と定められており、五年務めた後は、五年別の仕事をしなければ、再度宰相位に就くことはできない。
これは、権力の独占を防ぐため、とかそういう理由ではなく、激務すぎる宰相の位は、そのくらいで交代しないと、過労で死ぬかもしれない、という判断からだが。
ともあれ、現在の宰相は、歴代の宰相の中では、累計で最も長く宰相をやっている人物だ。
アルノー・ビノシュ。
青白い顔をしている、オシアに比べるとまだ若く見える人物だ。
もっとも、オシアなどより、はるかに年上だが。
「しかし、黒竜か。・・・・・・六大都市に竜が近づく、というのも、最近は聞かなかった話だな」
「その最近とは、いつからのことだ?」
「さて? ここ百年ほどだったか」
アルノーは、そう嘯きながらも、のんきに書類を処理していく。
宰相の仕事は激務だ。
軍ならば、軍団長は七人いるため、それなりに仕事は分担されるが、宰相は一人で全部やる。
補佐官が数十人いるが、それでも激務は激務である。
「ふ。いくら大きくなろうとも、刺激のなくならん国である」
ははは、とアルノーは笑う。
それに対し、オシアは肩をすくめた。
「それを楽しめるのは、長命種の特権だな」
「ふ。楽しみは、それだけではないとも?」
言いながら、アルノーは机の引き出しから手紙を取り出した。
「うん? 何かあったのか?」
「うむ。小生のかわいいひ孫のベアトリスたんから、手紙が来たのだよ」
「・・・・・・たん、て」
このおっさん、と思うものの、家族に対する情愛の深さは、アルノーの長所か、とオシアは思う。
「それで? 手紙にはなんと?」
「うむ。ベアトリスたんが、『血の伴侶』候補を見つけたそうだ」
ベアトリス、というのは、アルノーのひ孫である。
ふ、とアルノーは笑いながら、手紙を握りつぶす。
「まったく、小生のかわいいベアトリスたんに手を出すとは、いかなる馬の骨であることか・・・・・・!」
ぐぐぐ、とうめいているアルノーを見て、やれやれ、とオシアは嘆息する。
家族に対する情愛が深すぎることが、アルノーの短所か、とオシアは思う。
「とにかく、確かめなければならん。というわけで、だ」
「む?」
「小生は、アビロアへ向かおうと思う」
「・・・・・・仕事は?」
「家族より大事ではない」
「宰相がそれでいいのか?」
言いながらも、まあ言うだけ無駄だろう、とオシアはあきらめた。
家族のことに関しては、驚くほどにフットワークが軽いのが、アルノーという男だ。
どうしたものか、とオシアが悩んでいるとき、執務室の扉がノックされた。
「入りたまえ」
「失礼します!」
中に入ってきた男の顔を、オシアは知っていた。
自分の孫だ。見間違えることもない。
「アラン。どうした?」
「は。宰相閣下に呼ばれました」
敬礼をするアランに、にこやかな笑みを浮かべてアルノーは歩み寄った。
「うむ。よく来たな。アラン。最近どうだ? 調子は、な! うん」
にこやかに、非常にうれしそうにアルノーはアランに歩み寄り、その身を抱きしめた。
「ひいおじい様。何か、御用がおありなのでは?」
「うむ。これからアビロアへ向かうので、供をしないか? ベアトリスたんに会いに行こう」
「ビィ、ですか?」
「うむ。『血の伴侶』を見つけた、と招待状があったのでな。会いに行こう」
「なんと。それは喜ばしい」
アランは、アルノーの誘いに嬉しそうにうなづいた。
いとこの人生事情に、どうやら興味を惹かれたようだ。
「アラン」
「おじい様」
「・・・・・・あー、まあ、私の代わりに頼む」
「かしこまりました!」
アランは、嬉しそうに敬礼をした。
・血の伴侶
吸血種が選ぶ生涯を共にする相手。
吸血種にとって、生涯にわたって血を渡す相手でもある。
決して一方的に選べるものではなく、血の伴侶となると、吸血種に対して一方的に弱点となるため、選び出すにはかなり慎重にならざるを得ない。
なお、血の伴侶とした場合、その血を吸うと吸血種は強い力を発揮できるようになる。
伴侶の名の通り、吸血種としても自分の人生を預ける相手であり、簡単に選べる相手ではない。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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